人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
お客さまにお役に立つ情報をお届けする情報誌です。

No.10 | システム紹介
解析システムの導入について
―解析技術者からの助言―

泉自動車株式会社 開発設計部 開発設計グループ 久保田 益朗 様

泉自動車株式会社 開発設計部 開発設計グループ 久保田 益朗 様

本社は神奈川県の厚木市にあります。当社は、自動車部品のメーカで、ステアリングホイールの専門メーカです。多数の自動車メーカ様と取り引きさせていただいており、メーカ純正ステアリングホイールをはじめ、当社オリジナルステアリングホイールの製品を設計、製造しております。また、自動車に限らず、建設機械、農業機械、モータボートなどのステアリングホイールも手がけており、他に製品としてシフトレバー、プラスチック成形部品、電子部品も取り扱っています。

初期の設計段階で精度を上げるために、解析することが必須となり、3年前にCAEを導入し、ステアリングホイールの内側にある強度部材の骨である芯金の強度解析、および固有振動数などの性能の解析をNASTRANで行っています。

株式会社東京鐵骨橋梁 技術開発部 主任 加々良 直樹 様

株式会社東京鐵骨橋梁 技術開発部 主任 加々良 直樹 様

東京に本社があり、社名どおり鉄骨と橋梁が主な製品です。鉄骨関係は、設計をして納めるという形ではなく、製作主体です。

橋梁関係は、設計から製作・架設まで行っています。最近開通した明石海峡大橋や、東京湾のレインボーブリッジなどが代表的な例です。このように一般には、一品受注生産ですが、災害用あるいは工事中の一時的な使用を目的に既製の応急橋も扱っています。

橋梁自体の設計にNASTRANを使うことはありません。解析・計算・図面までをカバーする自動設計プログラムを主に使用しています。実業務の中で、NASTRANを使用するのは、ある構造の局部的な解析に限定されます。

株式会社ニチダイ 生産本部 技術部 部長 佐々木 弘 様

株式会社ニチダイ 生産本部 技術部 部長 佐々木 弘 様

本社は京都の京田辺市にあります。冷間鍛造金型、特に閉塞、精密なものに関して設計製作をしております。それとは別に金型を使った製品、製鍛品もプレスを使って製作しております。資本金は7億300万、従業員は240名です。

17年前からCADを導入し、HZSのGRADE DASH/DRAW 20台、CAMはGRADE/CUBE-NC 3台、2次元用にワイヤーで使うものを2台、CAEはこの2月に2台増設し4台あります。CAEを導入したのは10年前ですが、試行錯誤し、1993年にMARKを入れてから、本格的に動き出しているという状態です。CAEの整合性という点でもかなりの設備を持っていまして、万能試験機、実験用のメカニカルプレス、試験用の油圧複動プレス、クリモトニチダイ製もありますし、これで検証して、CAEに整合性を持たせています。

日立造船株式会社 情報システム室 部長代理 山里 久仁彦 様

日立造船株式会社 情報システム室 部長代理 山里 久仁彦 様

当社は、船舶、橋梁、建設機械、化学プラントなど幅広い製品に解析を適用しております。

私が入社した頃は、有名な解析ソフトもなく、自分で作成したソフトで解析していました。私自身も熱弾塑性クリープ解析ができるソフトを作って、日本機械学会の分科会で各社の方々とベンチマーク問題を解いて比較検証するというようなことをしていましたので、解析業務にはかなり以前から携わっています。設計業務を経て現在は、MSC/NASTRAN、MSC/DYTRAN、ABAQUS、STREAM、SCRYUなど、当社で導入している汎用ソフトに対する管理や、ユーザコンサルタント的なことをしています。また、CAE関係の社内の教育の企画や新人教育も行っています。

ザ・マックニール・シュウェンドラー・コーポレーション DSC-AP部長 シェリーフ・ラシッド 様

ザ・マックニール・シュウェンドラー・コーポレーション DSC-AP部長 シェリーフ・ラシッド 様

MSCは、今年35周年を迎えました。MSC/NASTRANの開発で始まり、12~13年前から、一本のプログラムではなくて、いくつかの商品を開発・販売するようになりました。現在MSC/NASTRANに加えて、プリポストプロセッサーとCADの窓口としてMSC/PATRAN、衝撃および構造・流体の連成解析プログラムMSC/DYTRAN、FORGINGのプログラムMSC/SuperForgeなどがあります。またMSC/NASTRANとCADシステムと一緒になったPCの商品も開発・販売しております。

私自身のCAEの経験は、33年になります。卒業してからずっと有限要素法解析やCAE関係をやっております。はじめは、エジプトのAlexandria大学、日本の大阪大学、ノルウェイのTrondheim大学で17年間教官として従事していました。そのあとCRCに入社して8年間勤務し、その後MSCに入社して8年になります。

新人教育について

山里 新人職員向けCAE教育としては、現在のCAEのレベルを分かってもらえばいいと思っています。技術系の新人は80人ぐらいで5日間行いますが、最初の3日間はCADで形状を作成し、その後CAEのプリプロセッサーに持ち込んで、メッシュを作って計算するという流れです。私自身はCAE教育のときに、「設計者はトラブルを起こしてはだめだ。トラブルに対して責任を持たないといけない。単純な設計でも、寸法を決めるときにどういう理由で決めたかという根拠を常に持って設計をしなさい。他の人から与えられた寸法を真に受けていると間違いのもとになる。」というような話をしています。

我々が計算をやっていた頃は、今のようにプリプロセッサーが発達していなかったため、3次元解析をするのが容易ではなく、いかにモデル化をするかということが問題で、それをやらないと計算に移れなかった。今は、CADのデータからすぐメッシュを作って、あるいはメッシュを切らずにそのまま計算に移れるような環境になってきています。それは非常に危険なことだと思っていて、自分のイメージに合ったような結果になっているか、結果に対して細心の注意を払うことが必要だと言っています。

佐々木 当社の場合の新人教育は、まず2次元で図面が読めないと何もなりませんから、最初の3ヶ月間は2次元CADを教育します。それから、実験設備で実験をして、その後CAEという形を考えています。形状を描けないとどうしようもありませんし、当然2次元CADよりも難しいですから、3次元形状を作成するのに時間がかかる。まず2次元、実験、CAEと考えています。

CAE導入の背景

佐々木 正直言いますと、このような体制は、2~3年前からで、それまでは設計者と解析者は分かれておりました。これでは時間がかかり、成果を出しても生産性に結びついていない。また、実際に図面を描いている人と隔たりがありましたから、それをなくすためには、設計者がCAEをやるべきだと思います。分けてしまうとどうしてもだめですね。

シェリフ 分けてしまうと、情報が設計から解析にうまく伝わらない。解析を一生懸命やってすごくいいものができたのに、ちょっと情報が不足しているためにあまり役に立たない。それで設計と解析の間の信頼を失ってしまってなかなか一緒に仕事ができないということをよく感じます。

佐々木 ええ、感じますね。

田中 久保田さんのところでは、3年前からCAEを導入されて、自社でCAEを使って設計をされていますが、きっかけはどういうことでしょうか。

久保田 ステアリングホイールの骨となる金属部分は、従来は鉄の棒や板などを簡易的なプレス型で作り、溶接をして、実験をして、評価をしていましたが、エアバック付きのステアリングホイールでは、強度はもちろんですが、軽量化も求められるようになり、鉄に変わってダイカスト鋳造品(マグネシウム合金やアルミニウム合金などの材料で鋳造)となり、ある強度を保ちながら性能を高め、製品設計の精度を上げるためにCAEを導入しました。

田中 もともと解析のプロがおられたわけではなく、設計者の方がうまく使われているのが現状ですか。

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久保田 解析を担当しているのは2人で、HZSの協力がありまして早期に立ち上がり、ある程度のところまで精度が上がってきました。

私も以前はステアリングホイールの設計の方を担当していました。導入当初は、モデルの作り方、材料の機械的性質がどのくらい結果として近づいてくれるかが心配でしたが、試行錯誤しまして、マグネシウム合金に関しては、5%以内の精度が出るようになりました。

解析の信頼性が上がったというところでは、解析を導入したということで、かなり効果が得られたと思います。

ダイカスト鋳造品ですと、試作品として金型を作ると、時間的にも長期化になり、コストもかかります。会社が求める短納期、高品質、低価格というところでCAEはうまく合致したと思います。

田中 最近は、お客様から必ずCAEで解析をしてほしいと要求されていることが多いのですか。

久保田 そうですね。お客様側から、強度的な目標値が提示されますので、設計した製品の解析結果は、基本的にダイカスト製品についてはすべて必ず解析を行い、結果をお客様に提出しています。

精度が上がっているので、解析結果のみで、試作を行わず量産型の金型着手の決断をいただくレベルまできています。

田中 加々良さんのところは、橋梁と鉄骨ですから、実験は難しいでしょうね。

加々良 やるとしても部分的ですね。実験結果との照合のために解析を行い、必要に応じて要素の数を調整するということは聞いています。

田中 加々良さん自身が解析をされているのですか。

加々良 担当の設計者がやることになっています。NASTRANに関しては、そんなに使用頻度もありませんので、知っている人が教えるという形です。

田中 橋梁専用のシステムを使用されているのですか。

加々良 通常の計算は自社開発のシステムです。

シェリフ 自社開発のソフトになると、メンテナンスが大変ではありませんか。

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加々良 示方書は共通ですが、細目については各発注先より規格がそれぞれ違うわけですから、それなりに対応するのが難しいですね。最近では、活荷重という車の荷重の見直しがあり、その対応に忙しいときもありました。

シェリフ 何人ぐらいでシステムのメンテナンスをしていますか。

加々良 5人ぐらいですね。

田中 自社で作られた解析ソフトは、ひとつの仕事があれば必ずそれを使うのですか。

加々良 そうとはいえません。解析目的により、市販されているソフトのパソコン版を使っています。

田中 先ほどの話の中で、市販のソフトによって得られた結果と設計専用システムとはリンクさせるのですか。

加々良 そうです。そのような手順で板厚、構造詳細などを決定します。

田中 ニチダイさんは、文献、学会の発表なども7~8年前から出されていますし、いち早くCAEに取り組まれておられますね。

佐々木 当社の製品は完全受注生産ですので、製作期間、設計から金型完了までが短いと1ヶ月、長くても2ヶ月とか2ヶ月半です。1ヶ月で図面をCADで描いている枚数が約3000枚、セット数では、1ヶ月60セットぐらいです。設計製作した製品をお客様が使用し、良品となるまでの期間がものすごく短いわけです。そのなかで、昔はCAEを盛り込むということができなかった。なぜCAEを入れたかといいますと、お客様は自動車メーカ関係がほとんどで、特に大手メーカとやりますと、後からでもいいのでなぜこうなったのかを立証しないといけない。

それと、当社でも試験トライアルができますので、その検証もしないといけないということで導入しました。当社は開発志向型の企業でして、最先端の設備をどんどん入れ、それで伸びてきている会社です。その辺は経営者の理解があってのことだと思っています。

CAEを入れて開発期間が短くなるかというと、試験を2回、3回しているならその方が早いかもしれませんけど、1回で終わる場合にはCAEを入れて2週間3週間設計を止めるということができないという現状があります。そういう意味で、設計者がCAEをできるということは、その分だけ期間が短くできるということです。うちのポイントだと思うんですよ。

4月にGRADE/FORGEとMARKのAUTO/FORGE、3次元でできるものを入れたのは、2次元だけじゃ評価できないようなものがほとんどで、3次元化して評価していかないといけないというのがありました。これがどれくらいの期間で立ち上がるのか、早期に立ち上がればかなりの効果が出ると思います。

シェリフ CADから形状をCAEに持っていくときのプロセスはどうですか。

佐々木 ほぼ満足できる状態だと思います。

久保田 図面から形状を読み取って板要素で表現していますので、メッシュに直す作業は特に問題なくほぼ満足していますね。

CAE導入のポイント

田中 初めて導入するところは、利用した人がいないわけですから、どう使っていいかわからない。費用対効果も明確でない。そういうお客様に何かお考えがあればぜひ伺いたいのですが。

山里 一番使いやすいソフトを選んで、何でもいいからやってみるということだと思いますが。

佐々木 逆に期待したらだめだと思いますよ。ものすごい投資額ですから、経営者が3年、5年後のことを思ってやるんだという考えがなかったら、導入できないと思います。パソコンで100万円ぐらいの簡単なソフトならそうでもないでしょうが。すぐに効果を期待するとCAE担当者にかなりプレッシャーがかかりますから、難しいと思います。

山里 単純に費用対効果で表すのはまずいと思いますね。いろいろなものに対応できる技術力というものがありますし、上の人に理解してもらいたいと思いますね。

シェリフ CAEを使うことによって、設計者の商品に対する理解が深まって、いい設計ができるようになり、製品が良くなっていく。これを成果の評価の中に入れる道が無い。CAEを導入して、そこで成果を上げるためには、経営者のコミットメントが必要です。

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日立造船情報システム株式会社
サイエンステクノロジー事業部
部長 田中 直道

田中 最近では、安いソフトがありますので、それならとりあえず買って使ってみようかという経営者の方もいらっしゃるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

佐々木 そうだと思います。CADと同等ぐらいの値段であれば、買うと思います。うちですと、1システムCAD 20台分ぐらいはありますから。

田中 非常に安いシステムを入れるということは、最終的に高度なことをするための入り口として、十分使えるようなものなんでしょうか。

佐々木 会社で違ってくると思いますが、設計者が片手間にするのならそれでいいと思いますが、本格的にやる場合、例えば20人の設計者うち5人を担当につけるなら、本格的にやるべきだと思います。

田中 最初からきちんとしたシステムを入れてやるほうがいいのですか。

佐々木 やるべきだと思うのですが。うちがそうなので、それ以外分からない部分もありますが。

シェリフ 大学でCAEの教育を受け、解析のできる卒業生は魅力を感じますか。

佐々木 感じますね。うちにも大阪大学の卒業生がいます。解析にはものすごくたけていますが、冷間鍛造のことはあまり詳しくありません。冷間鍛造のことを知らない人がやって本当に100%の結果を望めるかというと、そうでもない。やっぱりそこに、実験とか必要ですね。設計者へも実験から教育し育てていかないと、望むようなことにはならないと思うのです。

また、9年解析をしている者がいますが、金型にひずみゲージを貼り付けたり、それをもとに実験をして実際に鍛造をしたときの材料のひずみを測定して、それをCAEとどう対比させていくかを5年ほどやっていたんですよ。ものすごく地味なことをやって基礎データを作らないと、今成り立っていないわけですから、そういうことをやる人も必要ですね。

シェリフ そういう地味なことをやっておかないと、あとで良い解析はできませんから。

佐々木 実験室というのを別室を作ってやっているんですが、実験室にこもってやりますと、あいつは何をやっておるんだと言われるのです。結果は1ヶ月、2ヶ月で出てくるもんじゃありませんので、やっぱり1年、2年かかります。それで、買うものは結構お金がかかってきます。そういうところで、理解をする人が多くなかったらだめだと思います。

データの利用

シェリフ 加々良さんのところでは、もしどういうことができたら、設計が非常に良くなるか、会社の効率が上がるか、という点で何かありませんでしょうか。

加々良 感じますね。この業界はコスト削減という形で、メタルだけではなく、コンクリートと複合させるような新しい橋梁が出てきています。それの解析という点ではCAEを使う可能性は増えると思います。

シェリフ 今までやっていることを手の代りにコンピュータを使うという道もありますが、今までやってないことをやりだすというのが、本当のCAEとコンピュータの価値があるとよく言われていますから、それを考えると道が開けると思います。

田中 自分にある資産、ノウハウ、結果をうまく利用して、関係者に極力自分のデータを使ってもらうための仕組みなど考えは何かございますか。

久保田 今までのデータから申し上げますと、解析モデルのこの辺に肉付けをして強度を増せば、何キロぐらいまでは持つとか、その辺のところは、設計者にアドバイスしながら進めていますので、解析と設計者がラップした形で設計を進めていく手段をとっています。

佐々木 5年前には、コンピュータより私の経験のほうが正しいといっていたのが私だったのです。

感とか経験ではなく、数値ですね。整合性で、確率的に80%ぐらいまできていますので、2人でやっていたのを5人にしました。

宇治田原工場にプレスがありますので、実際にやってみて、簡単なレベルでははじめにCAEした結果とだんだんイコールになってきました。ものすごく特殊な形状になりますと、ちょっと違うというのもありますが。

久保田 ダイカスト鋳造の場合、鋳造条件による差もあり、特に条件が決定されるまでは読めない部分があります。

田中 普通、実験が先ですか。

久保田 目標値に近い強度であることを解析で確認した後、金型に着手します。型ができた後、製品を鋳造し、実験を行い強度を確かめます。強度的に差が出た場合は、微調整して、強度を合わせるということをしています。

CAE導入のポイント

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シェリフ ソフトを導入したらすぐ計算できますかと聞かれますが、苦労をしてやっと計算できるようになりますから、その覚悟が無いとソフトを買っても何にもならないと思います。私から見ると車と同じです。自分がまず運転を習って、車に乗って、どこに行くか、事故をするかしないか、快適なドライブになるかというのは、運転手次第です。車に乗っている運転者の技術がないと車は走りません。ソフトとまったく同じというのを感じます。

ところで、ソフトウェアを導入するときに、どういうポイントで選びますか。

佐々木 4月に入れた経過から言いますと、半年間調査し、比較検討したうえ、鍛造解析ができるソフトを導入したというのが現状です。

久保田 ステアリングホイールの場合、車の万一の場合には動的な衝突となります。ステアリングホイール、コラムシャフトなど、複数の部品で衝撃を吸収する必要があるため、自動車メーカで各々の部品への静的な性能割りつけを行います。静的でも大きく変形して衝撃を吸収しなければならず、非線形の解析ソフトから選びました。

加々良 一番は信頼性でしょうね。それからどういう保守体制、こちらが聞きたいことをきちんと答えてくれる体制になっているかどうかを重要に考えますね。あとは使いやすさとか、解析の内容ですね。どういうのを解析できるか。

山里 当社では、必要なものは揃っていますので、新たに選ぶチャンスは無いのですが、汎用の構造解析ソフトはどれも同じような機能を持っているし、ちゃんと検証もされています。信頼性にも問題が無く、ソルバーについてはあまり気にはしてないですね。

むしろプリプロセッサーは、自分でメッシュを切らなくても済むようなものができてくると思うのですが、そのときメッシュを精度よく切っているかどうか、そういった機能のほうが問題になってくる。検証するとしたら、そちらの方でしょうね。

田中 ノーメッシュになれば、使う人は増えますか。

山里 広がるでしょう。最近のCADはCAEと連動したような、MSCさんのInCheckとか、CADの中に機能を盛り込んだものが出てくるのではないですか。そうなれば、どんどん使うようになると思います。

田中 ノーメッシュではブラックボックスになって、何となく解析していないような気もするし、解析者を育てるという点はどうですか。

山里 3次元CADから解析用のソリッドモデルを作るので、モデル化もそんなに間違ってないし、境界条件、力の与え方さえ間違えなければ、結果はきちんと出るわけです。間違えるのは自分のミスですから、ブラックボックスでもいいのかなと思います。

シェリフさんがさっき言われた、まったく新しいものに解析で挑戦する、シミュレーションするというのは、また全然別の話と思います。新しいものというのは、モデル化ということが大事になってきますから、構造設計ということとはまた違った難しい分野だと思います。

材料定数

シェリフ 金型では、疲労の実験をやろうと思ったら、膨大な時間がかかります。しかし、摩耗や疲労まで手を伸ばせると、非常に価値があるのではないかと思いますが。

佐々木 そうですね。

山里 一番重要になってくるのが、解析に出てこない材料定数なり、こちらから与えないといけない情報の部分というのは、どっかで手に入れないといけないわけですよね。どのくらいで摩耗するかというような話は、解析では求められない話ですから、そういうところが非常に重要で、それがノウハウになるようなことですね。

シェリフ 誰もやってないこと、今までやってないこと、新しいことをやろうとすると、貴重なノウハウを得られます。

田中 久保田さんのところで、ダイカストで物性値が変わるなど苦労されたみたいですが、それはひとつずつテストされるわけですか。

久保田 鋳造した製品を実験しますが、ばらつきがあります。材料メーカさんが強度的な数値を持っていらっしゃるのですが、実際の鋳造では、早く冷える表面側と遅く冷える内側とは、組織が異なり強度の違いがありますので、その辺の数値を見極めるところで、地道な実験のデータ取りに大変苦労しました。

田中 実験してある定数が求まればいいのですが、全く求まらない場合は、それを予測するということも解析の中でするのですか。

久保田 解析で、あるパターンを何種類か設定して、それを解析して、試験値とどのくらい近づくかという確認はします。

田中 ニチダイさんは、実験設備も道具も完璧ですね。

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佐々木 データを作るのに期間がかかりますね。金型材料のデータは鋼材メーカからでます。けれども、自社で熱処理もしますので、熱処理後のデータがイコールかどうかはわからないですから、当然、引張試験機でテストピースを各材料、各硬度で作って10本ずつ引っ張る。実際にやったんですが、半年以上かかりました。新しい材料、被加工材、鍛造される材料であれば、また新しいものが出てきます。その都度やっていかないと、データとして出てきませんから、逆に言うと、この辺をソフトに入れ込んでおいてもらえば、すぐ売れるんじゃないかと思うんですけどね。

その苦労というのは、誰がやるかは別としても、例えばCAE担当の人がやるとなると、ものすごく負荷がかかってくると思います。

田中 実際設計でいかにCAEの結果を使うかというところが、ポイントだと思うんですよ。皆さんは使う側の立場として何をCAEの道具に期待されるのか、摩耗の話などはいかがでしょうか。

佐々木 摩耗に関しては判断基準はかなり難しいと思います。破壊するかしないかというのは、CAEの解析の経験と、実際の経験と合致させてやっていけばある程度の判断はついてくると思うんですけれどね。摩耗に関しては、潤滑材などいろいろな要素が絡んできますんで、将来的に結果が出るようになってもイコールかどうかは分からないですね。

うちの場合、摩耗でいかれる金型はいいんですよ。通常10万ショットもつ金型が1万ショットで割れたら、お金がもらえない場合があるので、この辺の立証をしないといけない、その方が大きいですね。摩耗というのは、50万とか、100万ですので、あまり大きな問題にはなりません。

鍛造品は巣ができませんが、ダイカストでは、巣ができた場合の強度はどうするのですか。

久保田 かなり影響します。

佐々木 その辺は実態でないと分からない部分もあるわけですね。

久保田 影響の無い微細な巣でしたら、そのまま実験して確認しますけれども、解析以前に強度が変わる程度の巣があるというのは、製品としてNGですので、鋳造条件や形状などを変えて、製品を作り直します。

田中 CAEの目的は、成形性を製品がきちんとできるかどうかを検討するCAEの道具と、もうひとつは、そのものができた後、ちゃんと機能を果たすかどうか、の2つの分野があると思います。久保田さんのところでは、製品の性能の検討に使用されているようですが、ニチダイさんの場合は、製品の成形性と金型の強度の検討の両方でCAEを利用されているようですね。

ところで、鍛造金型の場合、良い金型というのは、壊れないのが良いのですか。

佐々木 もちろん壊れない金型も良いのですが、寸法変化のでない金型ですね。金型は弾性変形します。1mm2あたり200Kgぐらいの内部応力がかかるので、それに耐えて一定の動きをする金型が良いわけですね。

コップぐらいの大きさでも50万円の金型もあれば、3万円の金型もあります。材料ウェイトからいいますと、ものすごく高い金型ですね。それだけに50万円の金型を何個も壊すより、解析でお金がかかっても、解析をした精度の高い100万円の金型で10倍持てば、逆に買っていただけます。寿命のコントロールができれば一番儲かるのですが、できないのが現状ですね。

山里 金型の設計というのも、単に金型の強度だけではなくて、プレスしたときにそれ自身がどういう変形をするかまで考慮したような金型の形状にしておくというのは、難しいと思いますが、そういうのまで知っておく方が有利なわけですよね。実際に打つときの動きをシミュレーションしながら設計をするというのは、非常にCAEの世界に近いなと思いますが。

佐々木 ただ、例えば、設計経験が無くてCAEをやられる方は、今話されたようなことが分からなかったり、逆に設計者は解析を分からなかったりします。うちの場合は、設計者もやっていってますので、ある程度の設計経験のある人がやっていったら効果的だと思います。

CAEをどこから始めるか

シェリフ 解析を導入するときに、静解析から始まって、少しずつ手を加えて、知識を重ねて、やっと自分がやりたい解析になっていくという長いサイクルは、実際にできるもんでしょうか。

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山里 研究所の例ですが、一から解析を勉強せずに、いきなりDYTRANを使って船体の衝撃の計算を始めるという突き放したようなやり方もやっています。それはそれで結構効果があります。DYTRANは非常に詳しいけれど有限要素法のことはあまり知らないという人でも出来ますし、独習による即効性という点で効果が上がっていると思います。

加々良 ケースによると思うのですが、答えがすぐいるような人に一からというのは無理な話だし、解析自体を展開させていくような仕事の場合は、一から段階を踏んでやっていった方がいいですね。

久保田 会社側の考えにもよると思います。長期的な時間がとれるようであれば、初歩的なところから入り、経験を積み重ねていくことが理想だと思います。

佐々木 もし私が使うなら、CADに簡単なCAEのソフトがあって、ボタン1つとは言いませんが、何個か押せば解析してくれるなら使おうかなと思いますね。

設計者というのは、どこの会社でも忙しいですし、変に昔のやり方を守ろうとするところもあるんですよね。自分の経験に頼ってしまって、新しいものをやらない。特に35才を過ぎると、コンピュータというのに抵抗を感じてくるわけですよね。夢みたいな話でしょうが、何もデータを入れること無く簡単にできるソフトがあれば使いたいなと思います。

山里 タイミングもありますね。自分のところで作った製品が割れるというトラブルを起こして、原因を解明して対策を打てと言われたときに、こういうソフトを使えば解明できますと言えば、すぐに買ってでもやるわけですよね。そういうタイミングというものがあると思います。

HZSに期待すること

佐々木 中小企業にCAEを入れていこうと思うと、保守の費用がものすごく高いですね。当社は光ファイリングシステムも入れているので、トータルではものすごく高額です。その辺を考えていただければ、もっと導入しやすいのではないかと思います。

私は、コンピュータ用語とか専門用語で言われると、あまり理解できません。その辺を、もうちょっとわかりやすい日本語でアピールしていただきたい。また、低価格のソフトがあるなら、今の日本でこういうことに利用されているという事例を出した方がいいのではないかなと思います。

久保田 操作性について言いますと、NASTRANはもちろんですが、POSTなどはすべて英語ですね。慣れてしまえば問題ないですが、これからCAEを始める人のためには、使いやすさという点で、可能な部分で日本語表示など、抵抗の無いような操作ができるようになればと思います。より一層のサポートをしていただければ良いと思います。

加々良 FEMは2次元、3次元要素の解析問題ですね。当社の橋梁関係のモデル化としては、1次元要素、梁要素などを扱うケースが多いので、NASTRANの結果を見ると、必ずしも1次元要素の内容というか、ポストで見るとそんなに充実しているような感じがしないのです。他の解析ソフトはどうかというのは、実際に見ていないので、分からないのですが、もうちょっと充実してほしいなという気がします。

シェリフ 1次元要素のポストプロセッシングというのは、大変難しいですね。

山里 アドバイスという話ではないのですが、MSCにしてもHZSにしても、売り込むときは、佐々木さんの話にもありましたが、担当者に売り込むよりは、経営者なり上司に、CAEが非常に有効だということを納得してもらうよう説得すべきだと思います。

もうひとつは、ノウハウを持って売り込むべきかなという意見です。材料定数や、モデリングの方法にしても、アドバイスなり、ノウハウを示すことによって、有効性を証明できるわけです。是非、そういうノウハウを示していただきたいなと思います。わかりやすい言葉でね。

シェリフ 単にソフトウェアに対するサポートだけではなく、プロセスに対するサポートですね。

田中 今日はどうもありがとうございました。