人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
お客さまにお役に立つ情報をお届けする情報誌です。

No.11 | システム紹介
3次元設計への取り込み

メンバー紹介

人物写真
マツダ株式会社
情報システム本部
主席 岡田 吉誼 様

1964年に当時の東洋工業に入社し、情報システム部門に配属されました。新入社員の時に応用数学専門の先輩から、ボーイングのファーガソンが執筆した飛行機を作るための曲線曲面の論文をもらって読んだ。実際に原寸の図面を描いている現図工の人達に、コンピュータでしなる定規を作ったら使えるかと聞くと、描けるかもしれないと言う。ファーガソンの論文を手にしたことが縁となって、30数年間、CADなど車開発のためのシステム環境作り、システム提供ということを一貫してやってきたのですが、肝心の設計をするということはやったこともありません。

長年、設計者のニーズに対して自社開発のCAD/CAMシステムを提供してきましたが、4年前から進めているマツダデジタルイノベーションに呼応し、自社開発をやめて市販のシステム群による支援に切り替えております。ご存じのようにマツダだけで車を作っているのではなくて、ビジネスでフォードと一緒に車を作る時代を迎え、ここ4~5年はおもしろいといえばおもしろいんですけれど、ある種のカルチャーショックも大きかったというのが本音です。

人物写真
シャープ株式会社
生産技術開発推進本部
CAEセンター 報 /
プリントCAE推進室室長
柳原 吉広 様

私はデザイン畑出身ですので、10年近く前よりCGを目的に3次元CADに取り組んできました。それまでのモデラーは、サーフェイスモデラーが中心でしたが、ここ4~5年前よりソリッドモデラーという大きな波が押し寄せてまいりました。勿論、その時は我々の期待するレベルの完成度まで達していなかったため、使える所から使い始めたことを覚えております。

昨年になり、ソフトの完成度がある程度上がったことをきっかけに、CAEセンターのメンバーとデザイナを総勢24名集め、「テクニカルデザイン・プロジェクト」を結成いたしました。デザイナの創作した形状をいかに正確に製品まで結び付けるかが、大きなテーマであったため、スタート時にはデザイナに大きな負担をかけましたが、1年間続けることによって、事業部で大きな成果が出始めました。現在は、社内設計上流より定義された形状を、協力会社の金型メーカさんや試作メーカさんと一緒になって、効率的な3次元設計を定着させるために、社内に「設計革新プロジェクト」を発足させ、活動しております。

人物写真
株式会社タカギセイコー
取締役 金型事業部部長
上野 栄進 様

当社は、プラスチックモールダーで従業員は約1500人、年商約350億の規模の会社です。

私が会社に入った20数年前は、お客様から青焼きの図面をいただいて、それを金型用に設計し直して、マニュアルのフライス加工して金型を作って成形するという形態でした。その後NC化に取り組み、お客様から2次元の青焼きの図面をもらって2次元で金型設計し、それを3次元にモデリングしてNC加工するというプロセスをとっていましたが、ここ4~5年ぐらい前から様子が変わり、お客様の方で3次元設計が始まっています。そうなってきますと、お客様の方で3次元で設計された3次元データを活かして、3次元金型の設計をしてNC加工に活かしていくという風なプロセスに変わってくる。ここ3~4年、樹脂化設計ができあがったときには金型の加工にも耐えうるデータにしましょうと、お客様と共通のCADのツールを持って樹脂化設計のところを我々モールダーがお手伝いし、これがスピードある開発体制になるのではないですかということをご提案しながら社内の3次元化の動きを進めています。

人物写真
日産デジタルプロセス株式会社
技術サービス 部長 山田 龍一 様

日産自動車はCAD/CAMに関しては、スタイリングと設計のCADの2つの領域に分けて開発会社を持っておりましたが、統合し全体で物を考えてみようと、昨年の10月に日産デジタルプロセスという会社に生まれ変わりました。これからはCAD/CAMのシステムそのものに限らず、プロセス改革に焦点をあて幅広いサービスを提供していこうということで、日産デジタルプロセスという名前をつけました。

一番大きいお客様は日産自動車ですが、サービスの内容としましては、システムの開発販売、システムの保守サポート、特にソフトウェア周りの保守運用は日産のアウトソーシング受託が基盤になっています。加えて、各種のエンジニアリングサービスということで、解析やCAD/CAM用のデータの作り込み、設計のプロセスをどう作っていくかというコンサルティングをやっていこうと全体で5本ぐらい柱を作って動いているところです。スタートしたばかりで、いろいろな方々と意見交換しながらうまい方向に持っていけたらと思っています。私はその中で技術サービスと申しまして、エンジニアリングサービス、保守、解析データ作成、システムの保守運用を担当しています。

3次元化への経緯

人物写真

岡田 CADの使い方の進化をみると、CADで図面を描く時代がしばらく続き、3次元化を試みるようになり、やっと物を作れるぐらいのCADになった。3次元化をやると、次にデジタルモックアップに至る。そこまでの土壌があって、最後にコンカレントエンジニアリングに到達する。

3次元への取り組みは、私どもでは設計者自らがいいと思ってボトムアップでやったというよりも、会社のポリシーでやりましたので、今でも抵抗が残っております。皆さんの会社では、自然に延長線上でいかれたのか、断絶を持っていかれたのかお伺いしたいと思います。

山田 最初は非常に面倒なボディー外板のパネル、3次元を多用する車体設計周りから3次元がスタートしました。CADも当初から内製の3次元CADを配置しました。実質的に3次元を使わないで設計しているところもありますが、その幹にのる形で同じシステムを使おうと裾野が広がっています。問題は幹になっていない部分、例えばトランスミッションやギア列は、3次元化しても物を作るのに全然役に立たないわけです。今は、無理矢理3次元CADを使わせていますが、実質的には2次元で動いている。この部分をどうやって3次元化していくのかということで悩んでいます。自動車メーカは3次元で幹を作って、あとはそれにつられる形で周辺が3次元に近づいてきたというのが、実体ではないでしょうか。いずれにせよ、幹の部分で効果があるから、ハードルを乗り越えたと思います。

上野 当社のような中小の規模では、お客様にこれからはI-DEASの3次元データだよと言われたら、それを2次元に直してくださいなんてとてもじゃないけれど言えないですね。今まで2次元でいただいていた仕組みだったら、品質もコストも納期も見えていましたが、3次元だと、時間もかかりお値段も高くなりますとも言えないですね。逆に、安くしないといけない。そうすると、ものすごい勢いで変えていかないといけない。そういう意味では、3次元化、道具の使い分けはまさに外圧です。そういう外圧に対して、いかにフレキシブルに対応できるかです。社内は無理矢理変えさせています。

どの道具を使うのか、教育にどれくらい期間をかけるのかを自社ペースで決めていて、いい状況ではないと思いますね。

柳原 当社で90年代初期に発売をいたしました液晶ビューカムは、非常に複雑な曲面を持った商品です。デザイナが3面図を描くのですが、とても正確には描ききれない状況でした。試作屋さんはデザイナのニュアンスを掴んで、意図通りのモデルを造ってくれましたが、技術者や金型屋さんにはうまく伝わらず、モデルと金型の形が違ったため、金型製作現場での承認業務が必要でした。

この時代は国内レベルで済んでいたのです。それ以降少しずつ、射出成形ものは海外で金型生産するようになり、2次元の図面を渡して金型を造りますとやっぱりモデルと形が違うのです。海外のため、何回も電話でやり取りをしたり、時には金型を造り直すこともありました。

この現状を打破しようと、自分自身で当時金型メーカさんが使っておられたサーフェイスモデラーを使い、NCマシンも導入し、簡単な加工まで行いました。短時間で正確な形状が確認できるため、その後各デザイン部門に導入が進み、今ではデザイナが直接加工できるようになりました。

しかし当時の技術部評価は、形は正確だがサーフェイスデータでは内部設計までできないとの答えでした。原因は技術者用CADシステムとの違いでした。形状修正には不向きだったのです。それで今は、基幹システムを全社で統一し、推進しております。

3次元設計を進める時の壁として、2次元設計手法をひきずっていては逆効果になることです。2次元図面を描いてから入力していたのでは、二度手間になり時間が増加し、メリットがありません。当社では、なるべく構想設計段階から3次元の活用を推奨しております。新規商品では難しいところもありますが、成熟商品では設計者の頭の中に構想があるため、取り組みやすいですね。

当社の場合、3次元設計が動き出したのは、強烈なトップダウンと下からのボトムアップがちょうど良い時期にきていたからだと思います。

3次元化の苦労

岡田 20年ぐらい前に会話型のCADに変えたときは、手で描いていた図面をCADを使って描く。図面作りのCADで効率を上げているが、コンセプト自体はあまり飛んでいない。

実際に3次元をやって大変なのは、CADの操作を教育しても使えるようにならない。「2次元と3次元ではコンセプトが違うんですよ」ということをよほど言わないとだめなのと、教育のやり直しが大変ですね。

さらにデジタルモックアップも作るということになると、数百、数千の部品をアセンブリするので、ある部品は2次元、ある部品は3次元でいいということはなく、極端なことをいうと、ねじも全部3次元で持ってきてくださいということなり、設計者が全員やらないとデジタルモックアップは手に入りません。

それと20~30年使っていた自社開発のCADは、高度に練れたシステムになっていて、たちまちは3次元の方が効率が悪い。効率を一時落としてでもやるんですか。大変な話の方が多く、抱えている問題は日に日に大きくなっているというのが私どもの実感です。それでも間違いなく3次元の方向だと思うんですよ。

山田 相当強引なトップダウンでやらないと1年や1年半で変わるという代物ではないと思います。日産自動車のエンジン部門では他の部門より3年ぐらい先行して94年から取り組んでいますが、従来2次元でやったところを完全に3次元に置き換わるところまでは至っていません。効果の出るところは、当然みんな一生懸命投資してやりますが、エンジン全体をモックアップでやるために効果のない部品を含めて全部作るまでには至っていないというのが現実です。

岡田 極端なことを言うと、モデルが少々おかしくても自動車のプレス金型の精度は手仕上げで出せますよね。だけど、仕上げレスでいきましょうと言われると、前へ前へ精度を上げていかないとだめですね。

うちの中で起きているのは、同じ会社だから文句が言えるのですが、ボディデザインはスタイリングデザインに対し、ボディデザインに耐えられる面を保証してくれ、そのかわり自分たちが設計した部品と製品形状は、ダイの設計と製作が耐えられるものにするからと言います。上流まで追いつめていくとそうなりますね。

柳原 デザイナは新しい造形を考えるのが仕事の一つで、従来は正確な図面というより、ニュアンスの含んだ図面を描き、技術者が設計用に落としていた。ところが3次元になり同じデータベースを使って設計期間を短縮して良い物を作ろうとすれば、どうしても設計の上流に完成度の高さが要求されます。従来では考えなくてもよかったことまでを設計者に求めなくてはいけませんでした。忙しい設計者を説得することにも苦労しております。

岡田 金型を作っておられる上野さんのところは、もっと大変なご苦労があると思うのですが。

人物写真

上野 自動車メーカさんは、10年前から大事なところは完全な3次元です。でも2輪になるとずいぶん違った形ですし、事務機器関係、コンピュータや複写機は2次元でくるのが現状です。

ただ、グローバルな競争・生産体制を考えて、3次元化してスピードアップし、均一品質を目指すということでCALS的な考え方をしていくと、3次元化は避けて通れません。私どものかなりのお客様が3次元化に取り組んでおられます。私どもは後工程を担当してサービスしていく上で、同じ3次元でもお客様によって目標が違う。それにきめ細かく対応していかなければならないというのがあえていえば苦労ですね。

岡田 型の設計と製作を3次元のCAD/CAMでおこされるとき、図面の場合、3次元の自由曲面の場合、ソリッドの場合など、全く個別に対応されるのですか。

上野 社内の生産という意味では、金型の設計以降については均一な流し方をしています。それ以前のところは、例えばお客様からこのまま削っていいという完全な3次元のデータがくるときのやり方、こちら側とあちら側があってないワイヤーフレームだけれど、それを何とか形にしてデザイナのイメージ通りの物を作ってくださいというときのやり方、不完全ながらもソリッドのデータが出てくるときのやり方、2次元で出てきて後は当社で3次元化する場合など様々です。

お客様とのインタフェースはいろいろなやり方がありますので、すごく大変な面があります。私どもの技術者を自動車メーカさん、2輪メーカさん、事務機メーカさんに対して製品設計・金型設計から生産準備までの工程を受け持って、それぞれお客様ごとにグループに分けて対応させています。

デジタルモックアップ

柳原 私もMDI(Mazda Digital Inovation)に感化されているのですが、当社ではデジタルエンジニアリングと言いまして、2000年になったら、物を作らないでコンピュータ画面ですべて作ってしまう。それを、短期間で完成度の高い生産につないでいく。こういうことをやらないと当社は負けてしまうよということをふれて回っています。

岡田 コンピュータの中のモックアップは、誤差、ひずみのない計算上の世界ですよね。21世紀のどこかで、フィジカルなモックアップなしに、コンピュータの理想の世界で設計検討・試作・実験解析をして実際に物が作れるようになるためには、相当な裏付けがいりますね。

上野 車は人間がその中に入って走りますから、コンピュータの中だけで検証するのは安全性の面からもずいぶん難しい話だと思います。例えば、ここにあるボールペンのように機能が少ないものは書ければいいわけで、デジタルモックアップで見え易い世界の商品とそうじゃない商品があるのではないかと思います。

柳原 フィジカルなモックアップとデジタルモックアップと何が違うのかと申しますと、五感に対する訴え方がまるっきり違います。例えば、金属やプラスチック、ゴムや皮では触っただけで違うのです。金属は持った時に冷たいですし、財貨感にもつながります。一概にデジタルモックアップで済むということはないでしょう。

デザイン部門も、モデルとしてのステップは残りますが、そこまでの思考過程におけるモデルは減っておりますし、技術者もシミュレーションでの傾向を判断し、最終的には実機で実験を行います。今までのプロセス全部は省けませんが、減ってきていることは確かです。

人物写真

山田 今のバーチャルプロセスは、試作実験サイクルの間引き的なところが大きいです。しかし車の場合も開発期間はここ数年で半分程度にすることを迫られているので、試作回数も半分から1/3に減らさないと回らなくなります。この実現のためには現在のアプローチを続けていく必要があります。ただし、最後は実車実験が残りますので、そこまでのステップをいかに効率化するかがポイントだと思います。もうひとつ今言われた、車の中に人が入る、触ったときの感覚など、人間と接するところはシミュレーション技術が進んでも残る問題で、どうしても実物が必要ですね。

柳原 当社では企画審議を行うとき、比較的物が小さいので、発砲スチロールで造った簡易的なサイズモデルを置き、デザイナが作ったCG、技術者が作った内部構造のデータを100インチの画面で確認することもあります。

岡田 私どもでは実際にできたものを測定して、コンピュータのモデルで想定していたものとどれくらい乖離があって、どういう因果関係があるかを解明しつつあります。これはかなりしんどい話です。部品に公差を与え、100の部品をアセンブリして精度を出そうとしたときに、100部品すべての公差に神経を使う必要はなく、キーの部品と公差があるという新しい知恵がわかってきます。

こういうやり方はアメリカ人の発想だと思うのですよ。ボーイングの人に聞いてみると、彼らは実寸のモデルを作るのをやめました。だけども、飛行機が落ちたら大変だということもあるのでしょうが、コンピュータの中のモデルと実機の間のリレーションをとるのに3年半かかったと言いますからね。そういう苦労話はあまり表に出てこない。

山田 今のお話は、製造現場での仕事のやり方、精度管理の考え方を根底から変えるものすごい大事業ですね。CALSのような全体のイメージを抱いても、トップダウンアプローチだけではどうやって到達するかと言われると具体的に見えてこない。要所要所で要素技術を固めていく段階ではないかなと思います。

スキルの伝承・デジタル化

岡田 デジタル化は欧米の発想だと思います。外人の先生が、「日本人は非常に器用だからゆがんでいたら現場ですぐきれいに直す。でも直したら原因が消えてしまうので、直す前に測りなさい」と言います。理屈ではわかるのですが、何でそんな面倒なことをしてリレーションをとるんだと思うのです。だけど、本当にコンピュータの中のモデルと新しい知恵で物作りするには、涙ぐましい努力を裏でやらないとだめなんでしょうね。

山田 そうかもしれませんね。今の仕上げ工の平均年齢はとても高くなっており、その後が育たない。あと10年ぐらいの間に腕を持った人がいなくなるから、仕上げを何とかソフトに組み込まないと、あるいは上流でそこまで組み込んだ形のモデルを作らないと日本でももうもたない。そうした現実に押される形で、日本でも考え方の変化というのは起こってくると思います。

岡田 私どもの会社でも、スキルのある人がいなくなる。それでもより安くて、より品質の高い物を作っていくには、ノウハウをデジタル化して共有するということになりますが、どうやってデジタル化するのか。

この間フォルクスワーゲンとノウハウの話をしたときに非常に違うなと思ったのは、ヨーロッパは自社開発をしないで、市販のシステムを上手に使いこなす。自分のノウハウを入れてカスタマイズする部分も自社で作らずメーカに依頼するというのがヨーロッパ流の考え方だというのです。

上野 金沢の先端技術大学で知識工学の講演があって、ノウハウや経験をできるだけデジタル化して、暗黙的な知識を形式値にし、みんなで共有する。そこに誰かがさらに暗黙的なノウハウを作り始める、そしたらその技能をさらにデジタル化して積み重ねる。そのスパイラルが進歩だということでした。

自分のノウハウをHZSさんに形式値にしてもらってそれを自社でみんなが使う。誰かが提案した物を外で作ってもらった方が進歩が早いような気がしますが。

人物写真
HZS 製造システム事業部
事業部長 川下 英二

当社のGRADEは、自分たちの経験とノウハウで良くしていったという部分はほとんどなく、お客様のノウハウを具体化して使えるような形にするということの積み重ねです。何人、何社ものノウハウが入っていると思います。

柳原 設計値の伝承、ノウハウの伝承ということに大きな関心を持っています。年輩の方は非常にいい技術を持っていますが、若い人には正確に伝わっていない。以前はOJTを通じて教えることができたのですが、最近は開発期間が短く余裕が無い。設計のデータベースを作ろうと現場に行って教えて貰おうとしても、何も出てこない場合があります。当社では、3次元設計手法やノウハウをホームページで設計者向けに公開しているのですが、ノウハウを蓄積するのに困っております。

岡田 アメリカでは、NCマシンを操作する人がいなくなった。それだったら工作機をディジタルファクトリにして、3次元のモデルを入れて、どこを削りたいか指示すれば、全部シミュレーションして、削って、測定して、データベースを逆にたどって材料と工具をどういう関係でやればうまくいくかというノウハウも作ってくれるという考え方です。スキルがなくなったらなくなったで、これはタフな考え方ですよね。

3次元CADの次は?

岡田 デジタルモックアップにしただけでは、試作物は減りませんね。やはり実験・解析での革新が求められるわけです。ただ、デジタルモックアップの活用により非常に良い試作が早くできるようになり、狭い意味での3次元の効果は出ています。だけど、コンピュータのモデルで本当に物を作るんだったら、実験と解析もできないと、世の中そこまで行くんでしょうか。

山田 車の場合も、電気の場合も、確立しなければならない要素技術、例えば解析技術など多岐に渡ります。どこかネック工程が残っている限りは必ず物を作ります。物を作るとそこに規制され、逆に言うと、どうせ残っているものであれば、解析しなくていい、デジタルモデルも作らなくていい、という状況が長い間続くのではないかと思います。特に車の場合は、耐久であったり商品性評価みたいな感覚も含めた用途は残りますから、必ず作ることになってしまいます。

岡田 金型と家電の場合はどうなんですかね。

上野 コンピュータモデルからの金型作りとしてまだ途上ですが、樹脂の部品がデジタルモックアップのデータで届き、アンダーカットやスライドコアなどをチェックした後、材料は何、面積がどれくらい、インジェクションマシンは何トンと、インジェクションマシンをそこにレイアウトする。後は、入れ子やモールドベースのレイアウトをする。データそのものから情報を引き出しながら金型をそのデータの上に設計するということを進めています。

当社では、必要なパラメータだけ入れていけば金型の設計ができるような仕組みを作りつつあります。次に実際の加工面での利用ですが、モデリングはお客様、協力メーカとの会話が必要です。だけどパスデータは、コンピュータモデルとNC工作機械のインターフェイスですから、会話が無くてもいい。コストが安いなら言葉が通じないところでもいいということで、上海、韓国に加工パスデータ作りの仕事を出しています。私どもで金型のモデルを作ってそれを上海に送り、上海でパスデータを作って戻し、私どもでNC加工をする。韓国ではパスデータを作って、NC加工した部品が届きます。メインの大きい部品は私どもで作って、韓国から入ってきた部品を組み付けます。うまく組み付くんですよね。

会話が無くてもいいところは、演算作業でできると思います。金型の部品を取り出したら、後は工作機が自動的に工具・条件を選びながら削っていくようなGRADEになりませんかとHZSさんにお願いしています。

プレス部品であれ、樹脂部品であれ、デジタルモックアップのデータを生かしながらプロダクションにつないでいけると思うのです。私らの業界はかなり一生懸命やっていると思います。

山田 今の生産準備、特に自動車メーカや電気メーカの期間短縮の話ですと、型の設計着手から納期までむちゃくちゃな期間を要求されています。そういう状況になってくると、今おっしゃったような手法でやらないと追いつかないですね。

上野 ええ、納期を短縮するには分業がもっとも手っ取り早くできます。もうひとつは、人間なら1日8時間、週40時間ですが、これが機械なら1日24時間、1ヶ月30日動きます。という意味では、誰が見ても同じ情報としてとらえられ、それを機械に移し替えて、機械が人間が帰った後も加工しているよという状態がスピードアップにつながります。

また、お客様からキャビ・コアが3次元データできて、そのまま転写してプロダクションする形であれば、いろいろな手を考えてスピードアップできると思います。

人物写真
HZS プロダクトインテグレーション事業部
事業部長 田中 秀樹

田中 メーカさんからは今のところキャビ面しかこないと思いますが、キャビ面に対して抜き勾配を付けたり、フィレットを付けたりするところが金型のノウハウで、そこが全部、後は削ったらいいよというデータがくる時代になるんですかということを懸念されているお客様もいらっしゃいますが。

上野 現状、全くその通りですよ。お客様には、金型設計の技術者がいない。私どもは金型設計をするのが仕事のひとつですから、製品データをお客様と一緒に作ります。お客様の製品データを作りながら、実は事前に金型設計しているのです。お客様の商品設計段階から金型設計という意図を織り込んでいて、それがスピードアップだと思うのです。

山田 現実に上流から金型設計を織り込んだモデルを作っていこうとしたら、製造のノウハウが上流でいるわけですから、いろんな意味でのジョイントをやって一緒に仕上げていくことになるでしょうね。今みたいにコンカレントでやっていると、設計の初期の段階から取引先にデータが出ているわけです。そうした過程でどうやって整合を取っていくのか難しいですね。

上野 確かに難しいですね。前、実験的にやってみたのは、お客様からアセンブリのデータをお客様ではさわれないような状態にして受け取り、樹脂としての設計をし、終わったら今度は当社がさわれない状態にしてお客様に返します。最終的にチェックして、完成品としてメカニズム部品などいろいろ手配されていくわけですが、そのころ私どもではすでに金型を削れる状態になっている。ちょっと無理がありましたけれど。

山田 やるんだったら、今みたいなきっちりしたプロセスを踏まなければいけませんね。

上野 実験ですからそれなりに作れましたが、結局、同時並行的ではないですよね。

岡田 ある種のプロダクトモデルがいる時代になっています。PDMですよね。3次元化するのも大変だけど、情報の整備、運用の標準となるともっと大変ですね。CALS的に世の中と同時につきあっていこうとすると、何を参照したらいいのか。それがSTEPですかと言ってもどうも違うような気もする。これから先、何がディファクトになるのかわからないですね。

柳原 設計の中では、変更はつきものです。生産性やコストを設計上流からつめていきますので、外観も変化していきます。2次元設計の時は、図面の寸法を書き直すだけで変更できたのもが、3次元だとそうはいかない。特にコンカレントな仕事を進めれば進める程、明確なルールが必要となってきます。

当社の場合もグローバルな分業化を進めるためにも、PDMでの管理を進めていますが設計変更が度重なってきますと、グローバルな中での設計ルールを明確にする必要があります。まだ完全ではないですが。

川下 物づくりを3次元設計でやっていく、という話が数年前からいろいろなメーカさんで起きてきている。CADのデータも納品しなさい。形状だけでなく、ヒストリーまで戻しなさいというようなところまであるようです。そうなってくると、同じ物を使わざるを得ない。だけども設計の現場に向くシステムは、金型の形状をうまく表現することがまだできないですね。今後、3次元設計を前提として考えたときに、メーカさんとしてどういうデータを金型メーカさんに求められるのか。

山田 自動車メーカはアセンブリメーカですから、内製している物以外はだいたい形状がわかればいいので、私は過度に密度の濃いデータを金型メーカさんから逆流させるというのはあまりないと思いますが。外製品の納入データは、配置設計に使うことが中心で、あとは製品の品質管理用の参照モデルとして使うなどだと思います。

上野 作った製品データを丸ごとくださいという場合があります。これは最近多くなってきたのですが、国内で発売して、それと同じモデルを技術提携で外国で作る。表面だけは変わるかもしれないけれど、他のところは変わらない。そこを3次元にしておきたい。3次元の金型用に作った製品部のデータを納品してくださいという形はあります。結構多いですよ。

川下 型代とは別にいただけるのですか。

上野 製品データ作成費として型代に入っています。

山田 今まで製品や型につけて付属でついていたデータが一人歩きし始めているので、これをどうするかというのをそろそろ考えないといけない時期ですね。実際にはそういうことでいただいているデータは、対価がはっきりしていないですね。逆に言うと、強引にいえないところもありますね。

田中 再利用して2個目、3個目のデータから自分で作ると、コスト削減になりますね。

山田 それはすごくコスト削減になりますね。そこが付加価値ですね。

岡田 対価をつけて売らないとだめでしょうね。

柳原 生データで渡されるのですか。

上野 生データです。基本的にお客様と一緒に製品データを作っていますから、お客様が使っているCADを使います。そのまま使ったという例は少ないですが、本体とのあわせの部分や取り付けの部分のデータを使い、新規デザイン部分をお客様用のモデルに直すわけですよね。金型そのものの製作が来るときもありますが、現地で金型を作られることもあります。

CAD/CAMベンダーに期待すること

岡田 最後にHZSさんのようなCAD/CAMベンダーに期待することをお話しいただけますか。

人物写真

柳原 ベンダーさんに望むのは、ひとつひとつのツールの紹介や機能だけでなく、物造り全体の中での総合的なシステム提案をして頂きたいと期待しております。日本が将来的にも物造りで一番であり続けるために、3次元設計の世界では進んでいる欧米の参考となる情報を集めて頂き、紹介して頂けたらとも期待しております。

上野 私どもの金型を作る協力工場さんは、大きいところで80人ぐらい、たいていのところは30人以下です。そういうところに、高価なシステムを入れて、通信、ネットワークを組んで分業し、コンカレントに金型作りをしましょうといっても無理な面があります。何でもできて高価なシステムより、ある機能に特化したことしかできないが、100万か200万円ぐらいの導入しやすいシステムを作ってほしいですね。物造りの底辺のところでネットワークを組んでいける、導入しやすいシステムを作っていただきたいということです。

柳原 当社も部門毎にツールを購入しようとすれば、非常に高価であり導入が進まないですね。フローティングライセンス契約を結び、ソフトを気にせずに使えるようになってやっと動き出しました。今言われたように、数人でやっておられる金型屋さんが多いのでインターフェイスのために、同じCADシステムを導入して欲しいというのは、負担が大きいでしょうね。しかし、メーカも生き残りをかけて、効率の良いデータ移管ができる金型屋さんを求めています。

上野 私どもでは、協力工場さんがCADを入れるとき、CADを入れても技術者がいないと意味がないので、まず、うちのCAD室で一人前になるまで仕事を一緒にして訓練をし、一人前になって帰っていただいています。時には私もGRADEのセールスしているようなものですよ。

川下 誠にありがとうございます。

岡田 今のCADはある程度汎用の機能を持って自己完結した製品になっていますよね。だから、それぞれ違うエンジンで、コミュニケーションするときには逆にネックになっています。ソフトをモジュール化して、必要なところだけ使う。次はそうなるのではないでしょうか。

川下 岡田主席がおっしゃったソフトをモジュール化するということ、世界で使ってもらうということも含めて、今挑戦しているところです。それを実現することが一番お安くご提供できる道ではないかと思っています。

岡田 自動車に限らず、日本ぐらいCAD/CAMを作った国はないと思います。でも今は、頼りにして使っているのは欧米のCADですよね。片一方では生産技術、製造で世界に冠たる日本という言い方をしますが、そのノウハウもソフトに組み込まれていく時代に、いつまで世界に冠たる日本なのか。なんで日本の強い部分が世界に出られないのか。これは日本語の問題ですね。

山田 日本は非常に現場重視で、システムも現場重視のところから積み上げていますので、局所最適の物ができていて広く普及しにくい。業種にも向き不向きが出てきますし、国が違えば、現場も違います。主力になっている欧米のPC-CADなどは、非常にシンプルなシステムで、普遍性が高く応用が利く段階で世に出てくる。広がりやすいのではないのですか。

岡田 必ずしも世界に冠たる製造業のないイスラエルからなぜバーチャルファクトリというソフトが出てくるのか。アメリカのあるベンチャーでは、75%がインドの人でした。解析能力が高く、アメリカで仕事ができるのは、英語を話せるからです。日本のライバルは欧米だけではなく、どんどん増えていますよね。その中で製造に強いというのをどうやって確保するのでしょうか。ソフトが問題ですね。ビデオテープのハードはほとんど日本で作りますが、中のソフトウェアはそうでもない。日本が強いというのをどうやってキープするのかが、これからの課題ですね。