人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
お客さまにお役に立つ情報をお届けする情報誌です。

No.14 | 社長インタビュー
米国CAD市場の現状とIronCADのインパクト
人物写真 Visionary Design Systems
デイブ・タイリー社長
(38才)
Dave Tiley

IronCAD(アイアンキャド)は、Windowsベースの3次元CADで、ここ数年成長著しい「ミッドレンジCAD」に分類されるソフトウエアです。
HZSは、この2月にIronCADの開発元である米国Visionary Design Systems社(VDS)と、IronCADの日本での総代理店契約を締結、4月より、「コラボレイティブ・デザイン・ツールIronCAD」として国内での販売を開始しました。

今回は、TECHNO FUSION'99 東京に参加のため来日した、VDS社長のデイブ・タイリーに「米国CAD市場の現状とIronCADのインパクト」と題して話をしていただきました。
なお、IronCADの機能と特長などについては、「人とシステム」13号で詳しくご紹介しております。合わせてご覧ください。

会社名の由来は?

ロゴ

"Visionary Design Systems"という名前を選んだ理由は、「Visionary(明確なビジョンを持った)」という言葉が好きだったからです。また、当社のロゴに、シンボリックに使用している"Visionary"の"V"も、将来に向かったビジョンをイメージして「光線」を形どったもので、とても気に入っています。

会社設立の経緯は?

人物写真
日立造船情報システム
社長 桑木

VDS("Visionary Design Systems")は、4人の創設者により1990年6月1日に創設されました。4人の創設者とは、デイブ・コナー(Dave Conner)、ジョー・カンシラ(Joe Concilla)、ゲイリー・ストール(Gary Stoll)、それに私です。
もちろん4人ともまだ会社に在籍しており、強いチームワークで仕事をしています。

VDSは、3Dソリッドモデリングと製品データ管理(PDM)を中心とする機械設計ソリューションのリセラーとしてスタートしました。(リセラー時代。90年~93年)

時が経つにつれて、ヘビーサービスに重点をおいたシステムインテグレーションモデルに事業内容をシフトしました。(システムインテグレータ時代。94年~96年)

さらに、約3年前に、WindowsNTとインターネットの到来により再度世界が大きく変わりつつあることを悟りました。

当時私達は、HP社のCAD(現在のCoCeate社のSolidDesignerなど)を中心にビジネスを行っていましたが、このトレンドの到来については、彼らと私達とは意見が合いませんでした。そこで、非常に大きな危険をおかして当社独自のツールを作ることを決意しました。

1997年3月、VDSは優れた技術とスタッフを持つ別会社(3D/EYE)と合併しました。これは、奇跡的なほど良い組み合わせだったといえるでしょう。というのもVDSにはこの分野のシステムインテグレータとして、販売、マーケティングおよび技術サポートサービスに関する優れた専門知識がありましたし、相手会社は最も先進的なソフトウエア開発技術を備えていたからです。

IronCAD開発の動機は?

VDSは、9年以上も前から、製造分野のお客様の要望に耳を傾けてきました。そして、システムに関して、お客様の成功を妨げている大きな障害となる一貫した問題がいくつかあることを知りました。

まず第一に、お客様は覚えやすいシステムを望んでいるということが挙げられます。既存のパラメトリックベースのソリッドモデラーは、習得にざっと半年~1年はかかります。自社のより多くの技術者に、これを習得させ3次元設計のメリットを浸透させていくためには、企業は膨大な時間的、人的投資が必要になりますが、実際には、それだけの投資の都合をつけることができません。

お客様へのヒアリングから分かった2つ目の大きな問題は「インターオペラビリティ」ということです。(訳者注;「インターオペラビリティ」(相互操作性)とは、異なる複数のシステム間で、データ形式に煩わされずに、CADが相互に扱えるということ。) お客様は、他のシステムやデータ形式とほとんどやり取りができないような独自の閉鎖的なシステムやアーキテクチャにうんざりしていました。第3の大きな課題として、設計プロセスのどの局面でも活用でき、ツールに合うよう設計プロセスを変更しなくてもいい、フレキシビリティのあるシステムをお客様が望んでいるということがヒアリングから分かりました。現在のほとんどのCADシステムは、非常に面倒な制約条件の中で、しかも前もって様々な設計意図をデザインの初期段階で織り込んでおかなければならないという、フレキシビリティの小さい構造を持っています。

私達は、最後に挙げたこの障害こそが、お客様のわずか15%しか3次元システムを使っていない理由だと考えます。私達は現在の市場を調べ、その結果、全く新しいアプローチにより、お客様に独自のサービスを提供できるという極めて大きなビジネスチャンスがあることが分かりました。こういう背景でIronCADを開発することになったのです。

現在のCAD市場をどのように見ていらっしゃいますか?

人物写真
日立造船情報システム
取締役 石川

市場調査によりますと、メカニカルエンジニアのわずか15%しか3次元CADを使っておらず、残りのほとんどは2次元CADを使っております。ところが、どのエンジニアも例外なく頭の中では3次元で思考しているといることが分かっています。さて、この食い違いはどういう理由によるのでしょうか?

  • 既存のシステムが難しすぎて使いこなせないこと。
  • エンジニアの自由な発想を試させることで革新性を促すことが不得意なこと。
  • そして、他のシステムのデータと互換性を持たないこと。

これらが理由だと私達は考えています。IronCADは1998年6月にリリースされましたが、これはCAD業界において実に10年ぶりの新しいアーキテクチャーの登場でした。
(訳者注;10年前の1988年にPro/Eが登場しフィーチャーベースパラメトリックモデリングアーキテクチャーが提案された。)

現在のCAD市場でIronCADが果たす役割はどういうことですか?

まず、世界はもはや従来型のCAD製品や企業を必要としていないと私は考えます。昨年6月当社がIronCADを市場に導入するまでは、CADは「アイデアのドキュメント化」、つまり、ほぼアイデアの固まった設計を、正確に記述するためにのみ用いられていました。

これは、従来のCADのアーキテクチャーが、最終的な設計ゴールがどのような様子になるのかおおよそ把握してから、設計に着手するよう設計者に求めるという構造をとっていたためです。

従来型のパラメトリックモデラーを使った場合、最初にモデルをどのように作ったのかということで、後でどれだけ変更できるかということが決まってしまいます。世界はもはや従来型のCADシステムを必要としておらず、全く新しいアプローチを必要としていると私が言うのはこのためです。

「皆がIronCADのことばかり話題にするのはなぜでしょう?」「IronCADがこのように成功している理由は何だとお考えですか?」私はよくこういう質問を受けます。これはお客様がより良い設計方法を求めていることを意味しています。

IronCADを開発することで、私達はこういう要望に応え、問題の解決を試みたのです。IronCADがCAD市場始まって以来のヒット製品となっているのは、まさにこのためです。会社内の誰もが同じように使いこなせるツールが初めて登場したわけです。

IronCADは、設計プロセスのあらゆる局面で革新性を追求できるツールです。しかも、その操作がモデルに向かってダイレクトであるために他のどのツールよりも高速です。したがって、当社のメッセージは極めて簡単です。

操作画面

「Eveyone Innovates Faster」。つまり、一人一人が(Everyone)、それぞれの業務を革新し革新的な製品を作る(Innovates)。しかもどのツールより短い時間で(Faster)。

しかし同時に、IronCADはまだスタートを切ったばかりだということも覚えておいてください。IronCADは、この業界で先例のないような速さで、機能を追加し、またこれを拡張させています。独自のアーキテクチャーなればこそ、これが可能なのです。

アメリカの製造業者は何をやろうとしているのですか?
何かキーワードがありますか?

とても面白い質問ですね。1つキーワードをあげるとすれば「インターネット」がそうかもしれません。電子商取引(e-Commerce)が現在小売業に与えている影響は大変大きいですが、今やその影響は、設計会社や製造会社にも及びつつあります。アメリカの製造業者は、この電子商取引の世界に対応するために物事を処理する方法を根本から変えるよう迫られています。

電子商取引の世界を勝ち抜くために、製造業者は、大幅なコスト削減と「インターネット・タイム」に沿うやり方で物事を処理しなければならないという共通の認識があります。

インターネットが作り出すこのような変化に対する第2の課題は、製造業者に限らず、リアルタイムで「マス・カスタマイゼーション」(訳者注;単一の商品を販売するという従来の形態ではなく、お客様ごとにカスタマイズされた製品やサービスを提供すること)を提供できなければならないということでしょう。

VDSの強みは何ですか?

お客様の要望に耳を傾け、お客様のニーズを理解し、そのニーズを満たす最良のソリューションを提供する、という点でVDSは優れていると私は思います。

お客様は、VDSの、お客様の業務に対する細心の注意力と、お客様の満足度に焦点を当てた企業戦略を評価してくれています。このことは、当社の最大の強みは、当社の社員にあるということを表しています。当社の社員こそ、最大の資産であり、最大のリソースだと私は思います。

世界中を旅して、VDSチームといっしょに作業することをお客様がどのように評価してくださっているかを直にお聞きすることは、私にとって最大の喜びです。

VDSがモデルとしている企業はありますか?

すごいスピードで変化しつづけるこの世界で、当社の恒久的なモデルとなるような企業があるとは思えません。VDS流のやり方は、他の優良企業の持ち味をどんどん取り込むことで生まれているのだと考えます。

VDSの今後の戦略は?

ビジネスアドミニストレータとして、ひとつは、CAD市場を支配すること。もう一つは、Webベースのデザインチェーンインテグレーションの分野でマーケット・リーダーになる、ということに的を絞っています。

VDSは非常に団結性が強いように思われます。
会社経営上、最も重要な要素は何だとお考えですか?

人物写真

まず、当社のすべての社員は、当社の企業目的を明確に把握しています。次に、会社の目標達成のために本分を尽くす上で、社員に会社の所有権を取得できるようにしています。社員をVDSの出資者にすることでこの考え方をサポートしています。

社員へはVDSへの参加時に株式オプションを与えます。さらに、優れた貢献をした社員にはその見返りとして、月単位、四半期単位、年単位でさらに株式を増やすチャンスが与えられます。

経営者として、どのようにありたいと考えていますか?

人物写真
平成11年5月21日 TECHNO FUSION'99 東京会場にて

私はかねがね父の経営スタイルを崇拝しており、父にならおうと努めてきました。彼は非常に高潔な人で皆を分け隔てなく扱い、皆からも尊敬されていました。

HZSの印象をお聞かせください

VDS全体がHZSのスタッフの方々に深い感銘を受けております。最初の会合の時から、HZSとVDSの提携は見事な組み合わせになるだろうという予感がありました。
日本でパートナーを探す際、同じ経営理念を持つパートナー、信頼できるパートナーをということを念頭に置きました。

そして、このような特質をHZSに見出しましました。HZSが非常に強い文化と、際立ったチームワークを持っていることを知っています。私が一緒に活動したHZSの人達全員から非常に深い感銘を受けています。

最後に、HZSに期待することをお聞かせください

私は今回、TECHNO FUSION'99 東京のために来日し、たくさんのHZSスタッフとHZSのお客様にお会いしました。そして、HZSが日本でのIronCADビジネスの輝かしいスタートをきったことを見て、成功を確信しました。

また私は、HZSがIronCADで日本市場を支配し、これからも互いに信頼できる良いパートナーシップを継続していけることを確信しています。

会社プロフィール

Visionary Design Systems

本社 カリフォルニア州サンタクララ
社員 190名
売上 約$40M

VDS社史

会社設立~リセラー時代 (1990-1993)

1990年6月 米国カリフォルニア州で設立

Hewlett Packard社の戦略パートナーとなる

Daratech誌で、"CAD/CAMシステムのリセラー/SI企業で最速成長企業"と評される

システムインテグレータ時代 (1994-1996)

CADを中心としたコンサルティング、教育、サポート体制確立(全米18拠点開設)

PDM(Product Data Management)ビジネス開始

最初の商品ConnectVDSにより、Machine Design Product of the Year受賞

Inc 500誌で、全米成長企業58位にランキング

ソフトウエアサプライヤー時代(1997~)

3D/EYE買収

Computer Graphics World誌、Cadence誌、Byte Magazine誌などから批評家賞など受賞

1998年6月 IronCAD 1.0 リリース