人とシステム

季刊誌
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No.19 | システム紹介
福井研究室における三次元CAD/CAMを利用した研究と教育
東京工科大学
工学部機械制御工学科 教授
工学博士 福井 雅彦 様

略歴

人物写真
東京工科大学
工学部 機械制御工学科
教授 工学博士 福井雅彦 様
大学写真
東京工科大学全景
1942年 大阪府守口市生まれ
1964年 同志社大学 工学研究科 電気工学 修士課程修了
同年 東京大学 工学部精密機械科 助手
1972年 東京大学より工学博士号授与
1992年 東京大学 工学部精密機械工学科 専任講師
1992年 九州工業大学 工学部設計生産工学科「高精度金型講座」客員教授
1994年 東京工科大学 工学部機械制御工学科 教授

東京工科大学(TOKYO ENGINEERING UNIVERSITY)は創立されて13年になる東京都八王子市にある学生数4000人強の単科系の大学です。大学の学部は2学部で構成され、工学部は以下に示す4学科に分かれています。

 1) 工学部:4学科(電子工学科、情報工学科、情報通信工学科、機械制御工学科)
 2) メデイア学部:1学科(メデイア学科)

はじめに

IT化の中核を構成するのがコンピュータで、物造りの分野では、CAD/CAMシステムがそれに相当する装置である。最近のCAD/CAMシステム、その中でも三次元ソリッドCAD/CAM技術は新しい時代21世紀に向けての物造りの世界を大きく変える可能性を秘めた技術であると言える。例えば、CAD/CAM技術とヴィジュル技術が結びつきメデアの世界を形成し、これが現在新たな可能性を秘めた新技術開発の分野や物造り分野等に急激、かつ急速に浸透、普及しつつある。

上記のような産業界のIT技術の技術展開を踏まえ、現在福井研究室では、物造り(主に金型造り)に的を絞り三次元ソリッドCAD/CAM技術の生かし方とその可能性などについて模索検討を行っている。以下に当方の大学で行っている三次元CAD/CAMシステムを使った物造りに関する研究、教育状況について述べることにする。

研究テーマ紹介とCAD/CAM教育

1.研究テーマの紹介

福井研究室では、今年度卒論学生21名と大学院学生3名が在籍している。このため、研究テーマは10テーマあるが、その内CAD/CAMを使った物造りに関係するテーマを挙げると以下のようになる。

  1. 三次元金型用高速高品位加工の研究(加工工法、データ精度)
  2. 金型用硬脆材料の三次元高能率形状加工の研究(加工工法、工具)
  3. 試作レス加工の研究
  4. ヴィジュアルエンジニアリングの研究(金型に拘らない部品)
  5. 角筒絞りのCAEの研究
  6. マグネシウム合金材の新ダイカスト成形法の研究(CAEを含む)
  7. 超薄物プラスチック成形品の成形技術に関する研究(CAEを含む)
  8. 金型内組み立てに関する研究(ヴィジュアル技術利用)

以上の研究テーマ全てCAD/CAMシステムを大なり小なり利用するものである。研究成果例として、図1にホイール金型の高速高品位加工例を、図2に冷間鍛造金型トラニオンを超硬合金材に対して直彫り三次元形状加工した例を示しておく。

加工例
図1.高速高品位加工例(ホイール)
加工例
図2.超硬合金の三次元直彫り例(トラニオン)

また、研究室には

 ①三次元CAD/CAMシステム3台(サーフェース、ソリッド、パス出しができる)
 ②ミッドレンジタイプの三次元ソリッドCADシステム4台(2種のシステム)

があり、学生数が多い関係でCAD/CAMシステムは不足している。このため、学生の研究テーマによっては学生を企業に派遣し、企業にあるCAE、CAD/CAMシステムを利用して研究を進めている。

2.CAD/CAM教育

学生に対するCAD/CAM教育は、現在当学科の授業カリキュラムの関係と指導者の関係で授業では行っていない。このため、福井研究室では毎年卒業研究着手学生が研究室に配属が決まるとすぐ毎年2月初めからCAD/CAMの教育を始める。教育のやり方は、三次元CAD/CAMに関しては、CAD/CAMメーカにお願いをして、一般の実習教育プログラムと同じ教育を3週間程度行ってもらっている。また、三次元ソリッドCADに関しては、CADメーカが一般ユーザに対して行っている教育プログラムと同じ教育を3日間程度行ってもらっている。このようなCAD/CAM教育を行った後モデリング形状、研究テーマを与え復習、実体験を繰り返しながらCAD/CAMの使用技術を身につけさせている。

現在福井研究室では、95%の学生がCAD/CAMを大なり小なり使ってモデリングや加工パス出しを行うことができる。この期間は2ヶ月から3ヶ月程度である。ただし、ある程度自由自在にCADシステムが使えるようになるかは個人の努力とセンスに依存する。図3に研修直後の学生が作成したホイール図を図4に実製品であるプリンタハウジング部品図を示す。

CAD画面
図3.IronCADで作成したホイール
CAD画面
図4.プリンタハウジング部品

この2例は研修直後の学生がそれぞれ工夫をしながら三次元ソリッドCADを使い作成したものである。特に、図3 のモデル作成に関しては、 モデル製作者のセンスが左右するものであると考える。

三次元ソリッドCADの研究事例

1.機構部品金型への適用例

図5はプラスチック機構部品(歯車)金型製作での金型構成部品図をミッドレンジタイプの三次元ソリッドCADシステム(IronCAD)で作成した一例を示す。図6,7に金型の入れ子部分拡大図と歯車キャビテイ図を示す。

CAD画面
図5.IronCADによるプラスチック機構部品金型構成図
図6.キャビテイ部拡大図
CAD画面
図7.対象金型(歯車)キャビテイ図

これらの三つの金型関係図面をみてわかるように適用した対象金型が使用したCADシステムの機能にうまく合致した例で、対象金型により使用するCADシステムが異なることはCADシステムを利用して金型設計を行っている人ならよくおわかりだと思う。しかし、図5を見てわかるように金型構成部品をヴィジュアル化することにより不足部品、部品の役目など金型を初めて経験する人は勿論のこと金型の経験が長い人にとっても非常にわかりやすい図であると言える。また、この紙面中では、表現できないが図5に示した金型構成部品を組み立て順序をアニメイション技術と結びつけヴィジュアル化することにより金型の組み立て作業等に利用でき経験豊富な金型技術者でなくても金型の組み立作業行うことができる。高給取りを使わないで前述のような作業ができる等メリットが沢山発生することが考えられる。

2.試作レスへの適用例

最近金型を使わないで製品を製作する金型レス法や少量生産用金型の製作法として光造形法で代表される簡易金型法などが各所で報告されている。ここで事例を紹介するのは、最近自動車メーカで試行されている試作レス(金型を使わないで製品を作る)での物造りを試みた事例について紹介する。

対象にした製品はコンピュータ付属部品であるマウスである。対象にしたマウスを三次元ソリッドCADシステムで構成部品を作成したのが図8である。また、図9は図8を基にマウス外観形状の加工パスを作成し、その加工パスで木材を加工した結果である。このように製品モデリングは勿論のこと製品内部の部品構成のヴィジュアル化ができることに加え、製品形状の確認、試作レスの可能性の検討も比較的簡単にできることがわかった。

この試作レスに対する試み例でわかるように、図面作成以外に外観形状に個性を生かすモデリングや設計が出来たり、内部の機構部品の動作、大きさ、形状等をヴィジュアル化して詳細検討できることなど物造りにとって今まで図面上で出来なかったことなど従来手間がかかってあまり実行されていなかったことなどもできるようになった。

構成図
図8.試作レスを試みたマウス構成図
結果例
図9.試作レス確認加工結果例

今後への期待

福井研究室での物造りに対する三次元CAD/CAMシステムの研究・教育での活用の仕方についてさわりの部分について述べさせて頂いた。研究、教育事例でもおわかりのようにやりたいことができるCAD/CAMシステムはあるが、それを自由自在にできるに関しては時間と繰り返しの試行錯誤を行うことはできることはわかった。これからCAD/CAM教育を受けていない人達にもヴィジュアル技術が広く拡大することを考えるとより簡単に操作できる安価なシステムが販売されることを期待する。また、大学で研究、教育活動を行う私共にとっては、学生諸君のCAD/CAM利用の状況から判断してCAD/CAM教育を東京工科大学でももっともっと充実させる必要があることを痛切に感じている。このため今後CAD/CAMシステムメーカのご協力を多いにお願いする次第である。

最後に大学で抱えているCAD/CAM教育、研究での問題点を以下に挙げておく。

  1. EWS等のハイエンドコンピュータを用いたCAD/CAM/CAEシステムの購入費、保守費の問題(正価では大変、1システムでは稼働率が悪いなども)
  2. CAD/CAMシステムの研修費の問題(学生諸君に対する企業でのCAD/CAM研修費は研究室予算では適用できないなど)

等である。上記した問題は全てお金が関わる問題で、現在の大学の研究費では常に最先端のシステムを購入、維持することが出来ない現状にある。このような大学の状況を考慮頂きミッドレンジタイプのCAD/CAMシステムの開発と大学に対してはソフトウエアのアカデミック版の販売をお願いする次第である。