人とシステム

季刊誌
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No.42 | 社長インタビュー
世界に誇る日本の型技術
人物の写真
ファインテック株式会社
代表取締役社長
中川 威雄 様

中川 威雄 様 略歴

1938年 東京生まれ
1967年 東京大学 大学院 精密機械工学科 博士課程修了
1979年 東京大学 生産技術研究所 教授
1985年 同所付属
先端素材開発研究センター長
1985年 理化学研究所 素形材工学 主任研究員(兼)
1999年 東京大学を定年退職
東京大学名誉教授、理化学研究所名誉研究員
人物の写真
NDES 代表取締役副社長
渡辺 雅治

渡辺 中川先生は、金型業界に多大な貢献をなさってきました。東大を退官後は、ファインテック株式会社を経営されていますので、会社設立の主旨や現状の活動についてお伺いしたいと思います。また、中国および東南アジアの金型産業の概要や、今後の日本の金型産業の進むべき方向についてもお話いただけますでしょうか。

大学発の製造業 第一号

中川 前回の「人とシステム」のインタビューは、2000年の春でしたから、東京大学を退官して、ティームズ研究所を設立し、いろいろな会社の技術顧問をして、自由業という感じのころでした。

その後、2000年10月にファインテック株式会社を起業しました。アメリカのインターネットの設備に関して、光通信部品の注文がたくさん日本に来ていましたので、資金を集めて生産設備の投資をしました。しかし、2001年の4月に人を採用したころには、もうマーケットがなくなっていたのです。いわゆる光通信バブル崩壊で大損害を出してしまったのです。土地バブルのときは他人事と思っていましたが、自分がその身になるとは思いもしませんでした。

製造業というのは、経営の経験のない大学の先生の手に負えるものではないことを痛感しています。大学発のベンチャーで本格的な製造業の第一号らしいのですが、まだ第二号が出てきていないようです。製造業は設備投資に大きなお金がかかるので大変です。会社を経営するというのは、迷うことも即座に決めなければいけないし、失敗したらつぶれてしまいます。それが毎日のように繰り返されますから、若いころなら眠れなくなって、食事ものどを通らなくなったと思います。

しかし、6年間必死にもがいて、現在はレンズや導光板などの光学素子や超精密部品の成形金型を製造・販売しています。また、それらの金型を製造する工作機械を開発し、販売を始めています。やっと会社らしい形になってきました。さらに、中国にレンズ工場を作っているところです。

日本の製造業の現状

中川 グローバルな競争が激しくなって、日本では製造業で生きていくには、新製品を開発するか、他の人が作れないとても難しいものを作るか、生産財を作るかです。良い分野を開拓して、仕事がたくさんあると思っていても、すぐに中国や台湾などへ仕事が移っていってしまいます。今の日本では、モノづくりでやっていくには、とても難しい状況です。

【アジアの国への技術移転】

中川 これはどんなモノづくりにも共通することですが、一社しか作っていないものは、隠しておけば製造ノウハウはライバルにはわからないですし、生産設備自体を自分たちで工夫して作ったりしていますから、簡単に流出しません。しかし、生産設備が外から買えるものは、簡単に技術移転すると思った方がいいでしょう。半導体、液晶、携帯電話やデジカメも、設備とともに流出しましたが、素材や電子部品関係の日本の独占率は、まだかなり高いですね。

金型も、まだ日本でしか作れない難しいものもありますが、CAD/CAM/CAEが世界共通で、工作機械は、制限なしに買えます。そうするとあとは微妙なノウハウだけです。確かに金型設計に多くのノウハウはあるのですが、金型の種類によっては製品を見れば設計がわかるものも多いのです。金型を購入すればノウハウが含まれていますので、金型を販売している以上は簡単に伝わってしまいます。

それでも伝わらない難しいノウハウは多少ありますが、停年になった人が教えたり、日本に来て習えば伝わります。このような技術流出は、頭の痛い問題なのですが、歴史的に見れば、日本も最初は外国の真似をしてこの高いレベルに達したのです。

渡辺 中国なども、習いながらレベルを上げていくということは、日本と同じなのでしょうか。

中川 昔に比べると今はずっと加速しています。3次元CADでの製品設計や、CAD/CAMなどIT化しています。次々と良いツールがたくさん出てきていますから、転写するだけで金型ができてしまいます。

昔は、熟練工が工作機械を上手に使いこなして金型ができていましたが、工作機械がよくなり、CAD/CAMが普及したことで、誰でも熟練工と同じようにできますし、手仕上げの割合も減ってきています。

そうはいっても、簡単には設計できない金型もあります。金型は、少し製品形状が変わっただけでも急に難しくなりますので、そういう難しい金型が日本に残っているのです。応用という点では、真似をした人と、苦労して育ててきた人とは随分差がありますから、一発でできない可能性はあります。

日本の中をよく見ると、この会社でしかできないという金型はほとんどありません。大抵、複数の会社ができるのです。ということは、同じような経験をした人は同じような工夫を思いつくものなのです。

一発ではできなくても、ヒントを与えられたり、2~3回失敗をすれば、ここをこう直せばいいのだと、同じような結果になってきます。

自分の会社で苦労して作り上げたものだから、自分の会社しかできないと自慢する人がいますが、これは、うぬぼれか、意図的にそう言っているのではないかと思います。自分が独自に工夫を加えたものでも、もう少し謙虚になるべきだと思いますね。

【日本の自動車が強い要因は?】

渡辺 日本の自動車は確かに世界各地で作っていますが、日本が強いですね。自動車が勝っている要因は何でしょうか。

中川 自動車は、ユーザが自動車全体のシステムとして、燃費がいいとか運転性能がいいとか、長持ちするだろうなどと思って買います。

パソコンは、部品産業の分業が進んでいて、他社で作った部品を組み合わせるだけです。それぞれの部品はかなり完成度が高く、有名なメーカが組もうと小さな会社が組もうと、同じものができるぐらいに標準化が進んでいます。これは昔にはなかった新しい生産システムです。

自動車は、共通備品になったり、専門メーカから買ってきたり、モジュール化されているものも多少ありますが、自動車メーカで部品まで設計し、品質を向上させシステムとしての完成度が高くないとだめなのです。

もうひとつ大きいのは製造コストです。値段を安く作らないと、競争力がないわけです。日本のメーカは国内で激烈な競争の中で戦ってきましたから、外国に比べていい物を安く作れたので勝てたのです。一つずつの部品についても、品質を高めコストを下げるために、徹底して工夫しているのです。

【中国における自動車の生産】

中川 日本では国内で約1千万台の車を生産していまして、約半分を日本国内で販売しています。中国のマーケットが車の販売量で日本を越えました。今中国では約5百万台の車を生産しているのです。実態はほとんど外資系の会社ですが、数年もたたないうちに日本の国内の生産量を超すといわれています。所得はまだ低くても、人口が日本の10倍の国ですから、それだけ大きなマーケットがあるということです。

少し前までは、世界中で自動車を一番安く作る国は日本だと言われていました。労働者の人件費は世界一になっていても製造コストは安かった。ロボットの使用も断トツに多いですし、上手な作り方をしていたのです。では、中国はというと、新車は10万台の規模の工場を作っています。日本のメーカが日本の最高の生産設備を持って行く。製造する車の中に高級車も含まれています。部品のレベルでいえば、半導体や液晶の過去の話と同じなのです。間接費や土地代、流通コストなども製造コスト削減に効いてきます。

中国では所得の高い人が結構多くなっているようで、高級車が売れています。その世界標準の乗用車が中国で安く作れそうなのです。品質は同等でないと、あるいは、ライバル以上でないと売れないものですから、世界どこで作っても同じ品質を保証しなければなりません。今は、次のモデルが出るとわかったら買い控えをしますから、世界中で同時にニューモデルを出さなければいけない。

部品も現地調達が増えてきていますし、ボディーやプラスチックなど大きな金型を使うような成形部品は、現地調達をせざるを得ない。確かに金型づくりは部品生産より遅れてはいますが、金型生産の現地化が進んできています。そのときに、中国製の品質の悪い金型が受け入れられるわけがない。そうすると、現地調達の金型もそこまでレベルを上げざるをえません。自動車メーカは技術が上がるまで指導せざるをえません。金型以外も自動車部品では同じことが行われています。自動車産業は裾野が広いですし、作り方も生産管理もしっかりしていますから、中国に定着するとその波及効果は大きいはずです。

しかし、中国を含めてアジアの製造業の発展は日本にとって脅威だけではありません。日本は非常に恵まれた位置にいるのです。日本の最近の好景気をみても、ある意味ではアジア立地をフルに活用しているのかもしれませんし、もっとうまくやればもっと上手に活用できる。ヨーロッパやアメリカから見れば日本の立地条件はうらやましいでしょうね。

アジア諸国とのコラボレーション

渡辺 中国を含めた東南アジアの金型産業と、日本の金型産業とコラボレーションできる可能性はあるのでしょうか。共存共栄しましょうよということも聞きますが。

中川 今までも、台湾のメーカと共同でやって成功例もありますし、理論的には可能なのですが、日本の金型産業というのは多くは零細企業ですから、自動車会社のように自分たちが出て行って、自分たちで経営するのは難しいのではないかと思います。

金型づくりは人の要素が大きい分野です。人件費が一桁違うところに行くわけですから、日本人が出て行くだけでコストアップになります。気をつけなければいけないのは、20~30人、50人のレベルで企業としてやれるので、すぐライバルが現れます。そのライバルにどう打ち勝っていくかということで、経営力の問題になります。ところが、日本の金型屋さんは、事業を拡大して成功した人もいますが、元々経営力のあまりない人が多いのです。育てた社員は定着しないし、すぐ同じようなライバルと競争しなければいけないので、出かけていってもなかなか続かないのです。

日本も外国の技術を学んだ時代がありましたが、外国籍の金型屋さんは日本には存在しないですね。世界を見てもほとんどないのではないでしょうか。金型単独の海外進出は一般的にはやさしくないですね。むしろ、金型を使った部品産業の方が有望だと思います。

【世界最大規模の中国の金型工場】

中川 中国に鴻海精密工業という大きな会社がありまして、私はそこの指導をしているのですが、今年の売り上げ予想が約3兆円です。中国で最大の製造業です。パソコン、携帯電話、ゲーム機などを作っている会社です。金型工場に15,000~20,000人いますし、日本の最高の工作機械が数多く入っています。金型用を扱う日本の工作機械メーカから、その会社のことを"世界最大のユーザです"とよく聞かされます。

渡辺 その会社の金型部門の歴史はどれくらいになるのでしょうか。

中川 射出成形品製造で1974年に6人で始めた台湾の会社です。今は、20万人以上の規模になっています。皆さん中国の工場というとハイアールなどしか知りませんが、この会社はその数倍以上の大きさです。金型にはとりわけ力を入れています。工場を見ると、信じられないくらい大きいですし、リードタイムの短さも世界一、金型を作る時間は速いですね。すごくIT化されていて、ペーパレスになっています。とにかく金型工場の規模の大きさには驚かされます。

もちろん、本当に難しい金型などは、まだまだ日本のほうが高いレベルです。しかし、我々もPCやゲーム機は中国製を使っていますが、出来が悪いものはなくなってきました。そのようなレベルの製品は十分作れます。世界中の大手メーカのOEMの会社ですから、その技術を低く見てはいけません。

渡辺 短期間に良いツールが利用できるようになってきたおかげで、昔のように習うのではなく、それで一気に立ち上がるところがありますね。

中川 これは、やはり金型づくりのIT化が一番大きく効いていて、ちょっと習っただけでできるようになってしまいました。工作機械などの生産財の技術レベルも上がり、それらをどんどん輸出したから、半導体や液晶と同じようなことが起こっているといえるかもしれません。中国では三交代で機械を動かしますから、携帯電話も焼入れの本型が1週間でできるのです。その一社だけで、日本全体の倍ぐらいの数の携帯電話を作るのです。技術的な問題などは類型的ですので、最初は手こずってもすぐに解決されていきます。

日本では、日本と中国の金型産業についていろいろなことを発言されていますが、発展途上国がどのように技術を吸収して、どうなっているか、現実を見ておかないといけないですね。中国はピンからキリまであって、町工場のようなところは、我々と競争をする分野ではなくあまり重要ではありません。日本と競合するハイテク企業分野の状況に対して冷静に対処しなければいけないと思います。

【コラボレーションのUターン現象】

渡辺 中国や韓国で日本で使う金型の半製品を作って、日本で仕上げるというようなコラボレーションのUターン現象がおきているとき聞きます。こういう仕事のやり方は、今後も続くのでしょうか。

中川 先のことはわかりませんが、もともとは円高の到来で金型の値下げ要求がきつくて、金型のユーザが日本から安い国へ注文を出し、調達し始めました。確かに安かったそうですが、日本の厳しい品質では、成形品が合格しなかったので、日本で手直しをしたりしていました。せっかく安く買っても時間もコストもかかり、トータル安くないなということで、反省して一時日本に戻ってきたのです。

日本はその後不況が続き、金型価格が安くなって、外国からの調達に魅力がなくなって、国外に出すのが減ったのです。ただ、依然として人件費の差はあるし、台湾や韓国のレベルも上がったので、そのまま買ってきて使えるものもずいぶん増えてきました。金型を安く調達するために、向こうで作らせているものもあり、輸入も増えています。ただ、非常に難しい加工や、合わせが難しいものなどは、おっしゃるとおりそこだけ日本でやるという分業もあります。この状態はある程度は続くでしょう。

いずれ、金型の生産量では中国に抜かれますが、当分の間は技術的にみれば、日本が圧倒的にトップですし、金型の生産量も世界一です。

金型の学校

渡辺 中国ではそういうことを見越して、金型の学校やエンジニアの養成を、国として行っているようですね。

中川 中国だけではなく、東南アジアは、製造業に力を入れていますが、人件費が安いからと最初はアセンブリの会社が進出してきて、次は部品会社が来る。でも、そのとき使う金型はみんな本国から持ってくるので、モノづくりの肝心な技術が根付かない。それに気がついて金型には国を上げて力を入れてきたのです。中国も大学に金型の学科を作ったりしています。ただし、それが効果があったかどうかは、正直言ってはっきりわかりません。

さきほどの1万人以上の金型工がいる中国の会社は、自分で金型学校を作って毎年2000人ぐらい教育しています。半年~1年の研修です。金型づくりには、工作機械が使えないといけないし、CADもわからないといけない。モノづくりの基本を教えることができるのです。金型以外の生産設備やアセンブリー作業でも、金型の素養がある人は、つぶしがきくのです。金型のわかる人が、射出成形機やプレス機械を使って生産したほうがいい製品ができてきますし、うまいやり方だと思いました。

ここでは、映像を上手に使ったすばらしいテキストができています。日本のいろいろなハンドブックなども、中国語に訳されてデータベースになっています。

中国の電気製品などが強くなったのは、昔日本の会社が出て行って技術を向上させたというのがベースになっていると思います。そういう意味では、日本は中国のモノづくりにとても貢献しています。もっと中国に感謝してもらわなくてはいけないのですが。

日本の強さは、新しい技術開発

渡辺 今後の日本の金型産業の進むべき方向は、どういうところでしょうか。

【日本のエンジニアは、日々工夫】

中川 アジアは、量的には日本に追いついて追い越していくでしょうが、機械を買ってきて並べて使いこなしたからといって、新しい技術を開発できることとは違います。開発には、人間の知恵を働かせなければならない。知恵を出す訓練や、知恵が出てきたときに形にしたり工業製品にまとめる訓練は、中国、台湾や韓国ではまだ十分ではないのです。今のところ、身近なところで真似をするだけで商売が成り立ってきたので、そういう経験が少ないのです。

日本のエンジニアは、以前と同じことをしている人はほぼゼロでしょう。いつも、会社にとって新しいものに取り掛かっていて、いろいろなトラブルを予測して、それを見越して工夫をしています。若いころからずっと、今までのモノづくりを工夫改善することをしています。ソフト開発でもそうだと思いますが、皆が毎日よりいいものを作ろうと努力しています。

【アジアのエンジニアは、使いこなすレベル】

中川 アジアのエンジニアは、今のところあるものを使いこなすだけです。使いこなすときも、先輩という国が、どう使っているかを調査して、それと同じように使えればいいというレベルです。

本当に優秀で理解力のある人でも、新しい工夫となると止まってしまうことが多いのです。人間というのは、いくら賢い人でも、訓練をしていないと工夫する能力が育たないようです。

日本の大学生にも同じようなことが言えます。受験で難しい問題をさっさと解いてきたのに、卒論などで、世の中にある課題を考えて、解けない問題でもいいから取り組んでみなさいと言うと、混乱して何もできないことがよく見られます。あんなに難しい問題が解ける学生が、どうしてできないのかと不思議なくらいです。

でも日本では、その後企業に入って訓練されます。そこが日本の強みで、アジア諸国で同じものができたからといって、そう簡単には追いついたことにはならないのです。アジアの有力な会社からなかなか新しい技術が出てこないのは、この訓練の違いだと思います。

そういう意味では、ヨーロッパやアメリカは新しいものをたくさん作り出しています。日本もずいぶん前から自ら工夫して生み出す方向になっています。アジアの諸国では、今後会社の規模が大きくなって実力がつくにつれ、日本の本当の強さを実感すると思います。

【日本は人的資源に恵まれた国】

渡辺 今まで、欧米と比べて日本はクリエイティブさがないと言われてきましたが、その点はいかがでしょうか。

中川 私は、そんな時代は卒業して、日本は次から次へと新製品を開発していると思っています。

日本人もかつては欧米信仰で真似をしてきた。ただ、真似することを否定してはいけないのです。教育は、まさに先輩の真似です。小さいころから、自分の独自の考えを出させる教育をすべきと言う人がいますが、私はこの考えに反対です。基本的なことはきちんと教えて、それを乗り越えるところから独自性を出す。それを大学でやりたいのですが、なかなかそうはできてない。その後企業に入り、常に工夫を強いられていて、それがいまや日本人の特性になってきています。こうした訓練のおかげで人材が育ち、それゆえ日本は人的資源には恵まれていると思っています。

渡辺 どこの会社でも、人の力を活性化して新たなチャレンジをしていくということですね。

中川 それ以外にないですね。芸術の分野でも、アニメの分野でも、素晴らしい日本人が出ています。どこの国の人でも、本来の頭の程度は同じだと思います。日本の教育も特別に進んでいるわけではないのですが、教育が終わった後で日本人は会社でつらい思いをしながら、クリエイティブなことを日常的に行っていて、そこで人が育っているのではないかと思います。

日本ほど、狭い国で情報がすぐに伝わり、協力してくれるインフラもできて、新しいものを作るのにこんないいところはないと思いますが、逆に言うと、すごく商売がしにくい国ですね。すぐにライバルが現れて、さらに改良されたものが出てくるのですから。この日本で生き残れば、世界で羽ばたける。あまり悲観することもないですね。

【開発が日本に残れば大丈夫】

中川 自動車生産でも、海外に多くの工場ができていますが、自動車もエレクトロニクス化が進み、ますます高度になっているので、日本には新車の開発力が残れば日本の自動車産業は大丈夫だと思います。一時、白物家電の生産が海外に移転したときに、物を作っているところでないと新製品の開発ができないということから、白物家電も現地で開発するようになりました。しかし、最近の家電は東南アジアでは開発できないような機能を付けているものが多いですから、日本で量産しなくても日本に開発部隊が残ればいいと考えた方がよいと思います。

エンジニアにとっては、工夫するということが本質的におもしろいし、好きなのではないでしょうか。良いエンジニアがたくさん育ってほしいのですが、最近の大学生の理系離れは心配です。

NDESに期待するところ

渡辺 日立造船からNTTデータの傘下となり、再スタートしましたので、NDESに期待するところについて、メッセージをいただけますでしょうか。

人物の写真

中川 私は、金型分野の技術開発に携わってきて、ITを軽視していたのではないのですが、IT化にはあまり貢献してきませんでした。しかし、大学を退官するころは、政府のプロジェクトなどでソフトの分野にも関与しまして、その重要度を認識するだけでなく、ある程度は面白みもわかります。

ソフトウェアは、方向が間違っていなければ、要した時間に比例していい成果が出るということを感じました。それに比べて、ハードはリスクが大きく、一発狙いをしますと、失敗してしまうことがあります。

ソフトウェアは、着実に努力して蓄積を重ねていけば技術のレベルも上がり、商品の品質もよくなります。そういう目で見ると、金型の生産財としては、情報技術はかなり大きなツールになっていて、工作機械と同等のレベルになっていると思います。日本の金型用の工作機械は、世界のトップです。ところが、情報関係は、もともと外国の輸入品が多い。これはしかたがないにしても、世界標準のようなものが是非日本で生まれてほしいと思うのです。日本で金型をうまく作れるのは、情報技術を上手に使っている国だからです。アメリカで、金型の製造にITを導入しようとしたときに、ITだけを頼ったために失敗したわけです。日本の場合は、製造現場の泥臭いノウハウとうまく組み合わせて成功した。それが、本来の形ではないかと思いますので、金型用のソフトでも、日本の独自の有効な技術が世界の標準となるものを作っていただきたいと期待しています。

その開発は、今の日本のユーザと協調して頑張れば必ずできると信じているのですが、その際相当強いリーダーシップが必要ではないかという気がします。きちっと計画を作ってみんなを引張っていく。ユーザの中にもそういうことに関して高い見識を持って協力できる方がかなりいらっしゃるはずです。

欧米やインドや中国では、コンピュータに関しては非常にレベルの高い人が大勢いると思いますが、日本のように泥臭いところまでわかった上で、指導できる人は、少ないのではないかと思います。

日本で本当にいいものができたら、これは世界を制覇できると思います。この分野は、ハードに比べれば急速に進歩している分野ですから、チャンスではないかと思います。貴社の成功を大いに期待しています。

渡辺 当社もNDESとして新たな一歩を踏み出し、ご期待に沿うことができるよう努力してまいります。

大学発の製造業のベンチャー第一号として、ファインテック株式会社のますますのご発展を祈念しております。本日は、お忙しいところをどうもありがとうございました。

会社プロフィール

ファインテック株式会社

設立 2000年10月6日
資本金 135,900万円
従業員数 20名
売上高 9億円(平成17年3月)
事業概要 各種超精密加工試作
光学部品用金型と精密微細部品用成形金型の販売・製造
金型用精密工作機械の製造・販売