人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
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No.44 | 社長インタビュー
金型業界の技術の変遷と未来に向けて
―NDES設立30周年によせて―
株式会社メルコ 代表取締役社長 金城 盛順 様の写真
株式会社メルコ
代表取締役社長
金城 盛順 様<

【金城 盛順 様 略歴】

1946年沖縄県生まれ
1974年4月ヤマハ発動機 入社
1979年6月遠州クロス金型事業部へ出向
1986年株式会社メルコ 取締役技術部長
2001年株式会社メルコ 常務取締役
2002年株式会社メルコ 代表取締役社長
NDES 代表取締役社長 竹内 敬二の写真
NDES 代表取締役社長
竹内 敬二

竹内 当社は1977年の設立以来、今年で30周年を迎えます。設立当初から、ずっと一代で一番長くお付き合いをいただいているのは、金城社長になると思います。本日は、30年の歩みと、これからの金型業界の展望などについてお伺いしたいと思います。

技術の変遷

【CAD/CAMシステムの変遷】

金城 1982年にCALMA 120Rを2台導入しました。当時はまだAPTの時代でしたから、型メーカーがCAD/CAMシステムを導入するということは大変なことでした。

当時のCAD/CAMシステムでは単面処理しかできず、複合面にパスを走らせることはできなかったので、CALMAの補助言語DALを使って、その場をしのいでいました。なんとかNCで直彫り加工しようと一生懸命CAMに取り組みましたが、限界を感じていました。

NDESに初めて会ったのは、1983年だったと記憶しています。

初対面でその時困っていた"複合面のパス"の話を切り出しました。複合面にパスを走らせられるかと聞いたら、「できます。」と答えが返ってきたのを覚えています。それで、1983年にGRADE/Gを2台導入しました。

竹内 まだ、GRADE/NCが出る前ですね。

金城 翌年に、GRADE/Gを4台増設しましたので、1984年には、CALMAが2台、GRADE/Gが6台ありました。1985年に日本でインターナショナルDie&Moldフォーラムがあり、ダイカストやプラ型をCAD/CAMシステムを使って製作しているという講演をしたことを覚えていますね。

竹内 我々も、1979年の4月からCALMAを使っていました。2年間使ってみて、貧弱な機能しかなくとても遅いので、自分たちでCADを作ろうと、1981年からGRADEの開発を始めたのです。

2年ぐらいで作り上げましたからすごいPowerだったと思います。

金城 1983年にCAMを一緒に開発しましょうと、NDESの開発者を2名預かりました。開発の部長もちょくちょく来て、非常に熱心で、Powerを感じました。

竹内 遠州クロスさんに修行に行かせていただいて、GRADE/NCという商品ができたのです。

金城 最初はNCのパスの話をしても、お互いにバックグランドが異なっていたので、会話もかみ合わないことがありました。でも、当時から自由曲面は得意でしたね。

竹内 日立造船時代に穴あけや旋盤や切断はしていましたが、鉄板ですから切削はいらなかったのです。

金城 当社にとっても、"コア技術としてのCAD/CAM技術"を前面に出して、ユーザー側と開発側の立場で連携をとって、講演をしたり顧客にPRをしてまいりました。

それで四輪メーカーさんのお客様も増えていきました。お互いに支え合ったということです。

それから、加速度的に機能が向上しましたね。当時MV10000というスーパーミニコンでメモリーが8MB、それにGRADEを6台ぶらさげていました。固定ディスクが1GBで、使う側としては、頼もしく思えました。

竹内 会社にスーパーミニコンを入れて、手の届くものになったというのがすごかったですね。

GRADEがNCの市場に受け入れられた初期の頃ですね。

金城 1990年に新工場を作りましたが、NDESに依頼して何処でも、誰でも情報と物の流れが"見える"ようにイントラネット技術の活用を前提とした新工場にしました。

今はICタグの活用を検討する時代ですが、当時、職場のポイントポイントにバーコードをつけて管理しようとしました。お金をかけましたが、時期尚早でうまくいかなかった。自分たちの手でもっと練った上でITの手段を使えばよかったのですが、自分たちに管理能力がないにもかかわらず、道具に頼ったというのが、うまくいかなかった原因だと思います。

生産管理のシステムも、シンプルに"基準日程"と"実績"との対比ができて、それが工場で見れるようになればいいということで始めました。これは今も使っています。

また、型設計システムでもソリッド設計をかなりのメーカーで活用していますが、1998年頃にソリッドがどうあるべきなのかNDESと話をしています。初期のころから3次元型設計をしていましたが、その延長線上では限界があり、ソリッドにいかなければいけないと考えていたのです。

竹内 CADも2次元から、3次元のサーフェスモデラー、3次元グラフィックディスプレイ、ソリッドモデラーと変遷してきています。5年おきぐらいで出てきていると思います。

【工作機械と工法の変遷】

金城 ハードウェアの進歩がバックグラウンドにあるのも大きな要素ですね。

それは、金型も同じですね。金型も工作機械の進化とともに作り方が変わっています。

竹内 工作機械は、回転数は速くなりますし、ものすごく良くなっていますね。

金城 ソフトウェアの世界と同じです。工作機械の回転数ひとつとってみても、1980年代は、大型では2000~3000回転だったのが、今は何万~何十万回転で物を削る。基本的には、回転そのものがどんどん変化しています。

このようにハードウエア(工作機械)の変遷により、切削工具もサーメット、CBN、ダイヤモンド工具と変化して、それに伴って加工領域も精度も、さらに技術の進化として"CAMソフト"、"加工段取り"というように変遷が拡大していきます。

現在5軸加工に皆様が注目していますが、突然出てきた技術、工法ではなく、"高速回転"-"刃具の進化"-"CAMソフトの進化"と流れが進化したのですが、思ったように品質とスピードが上がらないということでの見直しがあり、"一段取りで効率よく加工できそうな5軸加工"というように、技術の進化の延長線上での必然性から出てきた技術だと理解しています。

人とナレッジ

竹内 ソリッドが世の中に浸透し、さらに有効活用するとなると、次に"人"と"ナレッジ"ということが課題になりそうですね。

金城 ハードウエア(道具)が進化し、それに伴ってシステムを考えていくと、そのシステムを使う人の問題になりますね。このタイトルの「人とシステム」にまさしく行き着くのです。NDESのe-LearningビジネスやE-Trainer(金型の電子教材)も"人"というキーワードからきているのだろうと理解しています。

竹内 そうです。"人とシステム"が融合するように前に進みたいですね。

金城 "人"をどのように教育するかという流れの中に、"人、組織の持っている情報"をどのようにマネージメントするかという関係で"ナレッジ"があるのかもしれません。技術も人も常に進化しているものですから、"ナレッジ"も自分で増長するような、生態系に近いような仕組みでいけるといいですね。

今後の金型業界の課題 -トライ一発に向けて-

竹内 我々はずっと金型業界にシステムをご提供してきましたが、今後の金型業界の課題をどのように考えていらっしゃいますか。

金城 製造業で一番求められているのは品質です。金型業界でも昔から変わらない"お客様のニーズ"は、品質=トライ一発だと思っています。"良い物を早く"="コストの作り込み"という図式は変わらないと思います。

ですから当社は"トライ一発"、"リードタイム1/2"を目標として金型作りを行っています。

そのためのプロセスとして、まず設計段階での"狙い目の品質"を確実に表現しなければなりません。

"お客様の要求仕様"を具体的に金型に表現しないといけないのです。この金型で、こういう考え方で、こういう理屈で構想ができ上がっているのですということを、お客様の仕様を、具体的に金型として表現しないといけないのです。

金型は手段ですから、製品の品質を保持しなければなりません。ややもすると、設計のプロセスは絵を描くということが主体になっています。

そこに金型として"熱問題"、"強度"、"方案"等の命を吹き込まないと、"トライ一発"ということにならないですね。

竹内 トライ一発でかつ成形サイクルを短くするために、冷却穴をたくさん明けると型が弱くなりますし矛盾しますね。その点で、CAE技術の広がりはいかがですか。

金城 矛盾するところがあるから、理屈では説明ができないわけです。

矛盾したことを一生懸命現実のものとして受け止めようとしているのです。そこで経験、カン、コツに繋がっているのかもしれませんが、それを容認し続けると"トライ一発"は達成できません。

技術屋としてそこを何とかしたいと思っています。

CAE技術(解析)にも期待をしているのですが、我々側が実態をデータとして把握できる工夫が足りないのかもしれませんが、解析した結果と実績のギャップがまだ大きくて、充分活用できていないと感じています。

ただし、解析技術そのものの進化には大いに期待していますし、"トライ一発"に結びつけることができる技術であるという理解はしているつもりです。

竹内 ヤマハ発動機はインドネシアにも工場がありますから、近場で金型をという話で御社もインドネシア拠点をお持ちですね。一時、海外に金型が出ていき空洞化と言われましたが、今は戻ってきているとも聞きますが。

金城 お客様の方も揺れ動いているのではないでしょうか。

金型が出ていきました、戻ってきましたと言われますが、そうではないと私は見ています。

各拠点で物を作るわけですから、拠点で金型も作りたいということで、まず金型を各拠点でやってみたところが、製品として売るのはグローバルなので、当然日本並みの品質を要求するわけです。そうすると"コストが安い"と判断した基準が揺らいできたということではないでしょうか。モノづくりをグローバルな観点で見るとどうなるのか、という考え方がしっかりしていないとダメだということでしょう。

ですから我々日本の金型メーカーも、ただ"安い、高い"だけでなく、お客様が求めているのは"金型が良ければ付加価値の高い製品が生産される"という前提での金型を提供するという考え方を、是非お客様に提案する努力が必要だと思います。

そういう観点で見たとき、形だけ作るという金型はどんどん海外に出て行くでしょう。

けれどもサイクルタイムも短い、方案的トラブルもなくウエルドレスで寿命も長い、そういう付加価値の高い金型を我々は指向せざるを得ない。

お客様が金型に何を求めているかというニーズをしっかり捉えないといけないと思っています。

中国との工程分業

竹内 御社は中国にも合弁会社がありますが、中国での事業展開はいかがですか。

金城 我々が今心掛けているのは、我々の中国での合弁会社をいかに活用するかということです。

たまに"中国での合弁会社うまくいかないのでは"と言われることがありますが、我々は非常に良いパートナーに恵まれていまして、うまくいっています。

特に中国での課題は"人の育成"です。

金型メーカーとしては"人の育成"に時間がかかりますので、粘り強く育成するシステムとプログラムを実行しているつもりです。

その一つの方法として"工程分業による教育"です。我々の業務の工程分業をすることにより、"日本並み品質"の仕事の取り組み方法を教育しているつもりです。経営的観点から見ても"工程分業"は大きな成果が上がっています。

竹内 金型の中でここは簡単だから、ここは難しいからと分けることができるのですか。また、すでにやっていらっしゃるのですか。

金城 分けられます。バンパーの金型等でも分業できますよ。生産準備などでのルーチン業務の中国展開は、金型メーカーさんは皆様やっていると思います。また、部品の工程分業も結構やっていると思いますが。

NDESに期待するところ

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竹内 国内では、近場で話し合いなどできると思うのですが、中国との距離感は問題ないのでしょうか。

金城 ここからが、NDESにお願いしたいところです。製造業がどんどんグローバルになっていくわけですから、情報、コミュニケーション技術がこれからの大きな武器ですよね。

NDESがNTT データグループの傘下になって良かったのかもしれません。

ひとつの例で言いますと、中国、インドネシアの合弁会社とやり取りするわけですね。何に困るかというと"現場が見えない"ということです。

それで、モノづくり現場がリアルタイムに"見える"状態になるといいと思っています。

インターネット技術が進化しているとはいえ、海外でのネットワーク環境は必ずしも良いわけではありません。現状はデータ圧縮技術、データ配信の暗号化、セキュリティ、音と映像のずれ等課題があります。

"レスポンス"の良いネットワーク環境技術が必要ですね。日本に居ながら向こうの工場が手に取るように見えてこないと、行かなければならない。私は、情報=コミュニケーションがうまくいけば"品質"はめざましく向上すると思います。

たとえば、工場の中の情報の一つとして図面があります。これをできるだけ少なくしたい。当社の仕上げの人たちは、複雑な金型の構造のソリッドを、ビューワーでくるくる回しながら工場で見ています。図面は理解をするのが難しいのですが、3次元のソリッド形状ならすぐに理解できます。

それは何かと言うと、情報の伝達、コミュニケーションにつながっていきます。形状が理解できれば質が上がります。情報の質、コミュニケーションをどうやって向上させるかという道具を考えていくと、製造業の中におけるCAMのあり方も変わってくると思っています。

技術、ハード、システムが進化しても、最終的には人ですから、人が持っているものをどのようにして情報とし、なおかつコミュニケーションのできる状態にするかということが鍵を握りそうな気がします。

これは、海外では難しいのです。個人の情報であって組織の情報ではないですから。組織に情報があるというのが日本のモノづくりの強さです。

モノづくりの中でずっとやってきたNDESに、NTTデータの技術と融合してやってほしいと期待しています。

情報と物と人の動きを一体化させてモノづくりをダイナミックに変え、日本でそのシステムが確立できたら、海外工場に展開したいと思っています。

竹内 我々も、NTTデータとのシナジー効果を発揮して、今まで以上にお客様のお役に立てるよう頑張ってまいります。

これからも末永くお付き合いいただきたく、どうぞよろしくお願いします。本日は、お忙しいところをどうもありがとうございました。

会社プロフィール

株式会社 メルコ

設立1986年
資本金3.5億円
従業員数88名
売上高27億円(2006年12月期)
主な取引先四輪メーカー各社、ヤマハ発動機株式会社 他
事業概要樹脂成形用、鋳造用、金型の設計・製作