人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
お客さまにお役に立つ情報をお届けする情報誌です。

No.47 | システム紹介
実世界の「色」をコンピュータ上で再現
6バンド色再現システムと“ColorDesignerTM
株式会社 NTTデータ
ヘルスケアシステム事業本部 医療福祉事業部
システム企画担当 課長代理
工学博士 橋本 勝

はじめに

デザイン・製造の分野において、デッサン画を基にCG・CADソフトで3次元的に可視化・図面化してモックアップの作成、そして製造へと、個々の工程間ではデジタル化された3D形状データが流通しています。

しかし「色」に関してはどうでしょうか?パソコンの画面上に表示された画像を見て、色を判断できますか?現状では難しいと思います。なぜでしょうか?

【ケース①】CGで正確な色のシミュレーションができない

色見本を参考にしながらの色パラメータの調整に苦労した経験はありませんか?1種類だけならともかく、カラーバリエーションが増えている昨今では非常に手間がかかる作業です。

【ケース②】表示される画像の色がモニタ毎に違う

電気屋さんへ行くと、多くのテレビやPC用モニタが並んでいます。でも、どれも同じ映像(画像)が入力されているはずなのに「色が違う」と思ったことはありませんか?

【ケース③】写真の色が実物と違う

デジタルカメラで撮った写真をモニタ上に表示したり、プリンタで印刷してみたら、実物と色が違って困ったことはありませんか?

上記の問題のため、現実には画像データではなく、サンプル素材や時にはカラー担当者が移動して、実物を実際に見ての確認作業や、一色分のみの試作が多いのではないでしょうか。

今回は、これらの問題を解決するソリューションの一つとして弊社で開発しました、カメラで撮影した実画像の6バンド色再現システムと、カラーリングシミュレーション対応CGソフトウェア "ColorDesignerTM"をご紹介いたします(図1)。本システムの導入により人や物の移動が大幅に減り、時間と費用の削減に貢献できると考えます。

6バンド色再現システムでの色再現結果 ColorDesignerで作成したCGと模型との比較
図1 色再現結果の例
(左) 6バンド色再現システムでの色再現結果
(右) ColorDesignerで作成したCGと模型との比較

6色で「色=スペクトル」を表現

図2 スペクトルの再現精度の比較(概念図)
図2 スペクトルの再現精度の比較(概念図)
(上図をクリックすると拡大図が表示されます)

通常コンピュータの世界では、色はR、G、B(Red:赤、Green:緑、Blue:青)の3色で表現します。しかし「色」を物理的に分析すると、スペクトルと呼ばれる波形で表現されます。スペクトルが人間の目やカメラに入り、色として知覚・記録されるのです。このスペクトルを正確に計測し再現できれば、色を正確に表現することができます。

しかしRGBの3色の情報からでは、精度よくスペクトルを再現することができません。そこで弊社のシステムでは、通常の2倍である6色(バンド)で「色」を表現することでスペクトルの推定精度を上げ、色の再現精度を格段に向上させることに成功しました(図2)。

また、スペクトルの再現精度が向上したことにより、撮影時とは異なる照明光で画像に変換することもできます(例:白熱灯下で撮影⇒太陽光下での画像へ変換)。色の見えは、観察する照明環境により異なります。この照明環境による色の見えの違いを、精度良くシミュレーションすることができます。

6バンド色再現システム

市販の一眼レフ・デジタルカメラのレンズの前に特殊なカラーフィルタを装着(図3)、フィルタ無し/有りのそれぞれの状態で被写体を撮影して合計2枚の画像を得ます。この2枚の画像(3色×2=6色)から、専用のソフトウェアを用いて画素毎にスペクトルを推定し、実物と同じ色を忠実に再現します。システムの構成例を図4に示します。カラーフィルタと色再現ソフトウェア以外は、通常の市販品が利用できます。

図3-1 6バンド画像撮影用カメラの概観(フィルタを装着した状態) 図3-1 6バンド画像撮影用カメラの概観(フィルタを外した状態)
図3 6バンド画像撮影用カメラの概観
(左)フィルタを装着した状態
(右)フィルタを外した状態
図4 6バンド色再現システムの構成例
図4 6バンド色再現システムの構成例
(上図をクリックすると拡大図が表示されます)

CGソフトウェア "ColorDesignerTM"

本ソフトウェアでは、他のCAD等のソフトウェアで作成した形状データを読み込み、カラーリングのシミュレーションを行います。

色の情報としては、地の色である拡散反射色と、光沢の色である鏡面反射色のスペクトルを分光計にて計測します。得られたデータは6バンドに変換した後にColorDesignerへ読み込まれ、モデルの表面に割り当てられます。シミュレーション結果は、即座に画面上で確認できます。自動車用塗料の色見本AutoPaintColors(日本塗料工業会発行)中の170色に対しモニタ上での色再現性を評価したところ、平均色差⊿Lab=1.2という良好な結果を得ております。

また、視点を移動・光源を移動・光源の種類を変更した場合の画像も、画面上でインタラクティブに確認することができます。6バンド色再現システムで撮影した画像を、テクスチャとして利用することもできます。さらに、背景画像にハイダイナミックレンジ画像(HDRI)を利用することで、写り込みの様子も含めたリアルなシミュレーションが可能になります。

おわりに

図5 6バンド色再現システムおよびColorDesignerの活用例
図5 6バンド色再現システムおよびColorDesignerの活用例
(上図をクリックすると拡大図が表示されます)

図5に6バンド色再現システムとColorDesignerの活用イメージを例示します。本システムにより、遠隔地間でも色に関するコミュニケーションが齟齬無く行われるようになり、皆様の業務に少しでもお役に立てれば幸いです。

※ "ColorDesignerTM"はNTTデータの商標です。