人とシステム

季刊誌
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No.47 | 社長インタビュー
きらりと光る企業に ―デザインへの夢を形に―
株式会社ギケン 代表取締役 森田 茂隆 様 株式会社ギケン
代表取締役 森田 茂隆 様
NDES 代表取締役社長 竹内 敬二
NDES 代表取締役社長
竹内 敬二

竹内 森田社長とは、私が広島に赴任してきた1985年からのお付き合いですね。当時はインジェクションの試作金型でしたが、今は製品企画・デザインから生産まで実践されています。

本日は、デザインへの熱い思いについてお伺いしたいと思います。

「津田」の自然環境の中に立地

森田 当社は、1981年の設立で早27年になります。竹内社長が所長として広島に赴任された頃、我々は広島市内の出島という所で操業しておりました。もう22年のお付き合いになりますね。

当時は、インジェクションの簡易型で試作品を作っており、まだデザインの業務は影も形もありませんでした。私はもともと建築出身なので、スペースデザインをしていたのですが、まさかプロダクトデザインも仕事にするとは思ってもいませんでした。以前から車のデザインには大変興味があったので今があるのだと思います。

その出島の工場が手狭になり自分の土地ではありませんでしたので、安いところを探していました。当時から環境の良いところでデザインを中心に業務が出来ることを夢みていました。この広島県廿日市市津田は、子どもが小さい頃によくキャンプに来た所ですが、売りに出るとは思ってもいませんでした。話が進み新社屋も完成しました。ところが、引越しの一週間前に、平成3年の台風19号ですべて冠水してしまい大変な被害に合いました。津田の工場がすでに完成していましたので、すぐに移転したのですが持ち込んだ工作機械は全て海水を被っており、それらの立ち上げには大変苦労しました。

竹内 環境と便利さは裏腹ですね。

森田 そうですね。大半のお客様が、ちょっと遠い、もう少し近くならとおっしゃいますが、こちらに来ていただくと、「本当に来てよかった。」と言っていただけます。癒されてお帰りになるようです。現在あるプロジェクトのためにこのスタジオに勤務しているデザイナーも以前はメーカーでデザインの仕事をしていた人で静岡県を拠点にしているデザイナーですが、この環境に魅せられて3年前からここで活動しています。1年のうちの8~9割ここにいるのです。デザイナーにとってこの自然環境は理想に近いとも言ってくれています。これはありがたい話です。

この環境がギケンのモノ作りに生きているとお客様に認めていただけるのが目標です。デザイン業務に関してはお客様の評価が高いですから、ここへ来て本当に正解だったと思います。

竹内 自然の光の中でデザインをすると、部屋の中の蛍光灯とでは、色合いが違うそうですね。

デザインスタジオから見た景色
デザインスタジオから見た景色

森田 そのようですね。色もそうですがむしろ造形においては潤沢な自然光と空間は必要不可欠だそうで事実、業務の中で幾度もここは素晴らしいと評価をいただいています。クルマの様に複雑で精緻な造形には非常に適した環境のデザインスタジオになっていると思います。

ここのレイアウトは前述のデザイナーの方に、窓の位置や形やレイアウト、天井の高さをアドバイスいただきながら作りました。

竹内 スタジオの中に立つと、本当に気持ちが落ち着きますね。

デザイン企画から生産まで

竹内 今は車関係がメインですか。

森田 そうです、車が大半です。最近は建機のカバー、スポーツ用品、福祉介護用品など、企画設計、試作を経て生産まで行っています。変ったところでは農機具のブレードのデータファイルサービス、原発関連の精密機械の加工などもやらせていただいています。基本的には少量生産のものがメインで1万個から5万個といったものです。以前は試作金型だけやっており業務に山谷がありましたが、近年は企画から生産までの一貫した業務が増える傾向にあります。

竹内 生産まで社内でされているので、後工程のために改善したことが自分たちのプラスになりますね。

森田 上流段階で量産のための予防策がどんどん打てるわけですからね。大きな型メーカーは、自社デザインで生産までといった大きな方向展開は難しいでしょうが、少量生産であれば我々のような少人数の方が逆にうまくやっていけます。

竹内 そういうビジネススタイルは、金型屋さんではあまりないでしょう。新しいビジネススタイルですね。ワンストップで上から下までということですね。

森田 広島県のオンリーワン・ナンバーワン企業*1に当社も入っていると、銀行の方が資料を持ってきてくれました。オンリーワン企業には試作屋さんが多く見られます。色々ユニークなことをやっている試作屋さんはやはり強いようです。

*1:平成17年度ものづくり日本一企業調査事業(評議会)、平成15年度広島ものづくり調査事業(広島県)及び平成12・15年東京商工リサーチ調べのデータより

デザインへの取り組み

竹内 デザインに取り組まれたのは、いつ頃からでしょうか。

森田 本格的にやり始めたのはつい最近です。

デザインスタジオ
デザインスタジオ

まさかこんなに本格的にこの仕事に取り組むことになるとは思っていなかったのですが、常々デザインに関わる仕事をしたいと思っていましたし、夢でもありましたので、あるとき、さる会社の方にお願いをしてメーカーからなんとかデザインの仕事を出してもらって、ホイールの加工をしたのがスタートです。10年ほど前のことです。とにかくデザインに関わりたかったのです。次の変革としては、6年ほど前にショーカーのアルミのインテリアパーツの製作を受けたことですね。2003年9月にスタジオを作り、2007年には定盤を一面追加し倍の広さにしてより応用の効くものにしました。

【カーナビボックス】

カーナビボックス
カーナビボックス

2年ほど前にメーカーの全車種別カーナビボックスの開発という大きなチャンスをいただきました。やはりデザインから生産までですが、多種多様な要件をクリアーして、1年ほどで生産にこぎつけることができました。これはお客様からも「よくやってくれました。」と言っていただき、それからはお客様の我々を見る目も変ったように感じました。チャンスをいただいて本当に感謝しておりますし、同時に後に生きる貴重な経験をさせていただきました。

お客様の満足度向上のために

森田 2005年にISO9001を取得しました。その頃先程お話したカーナビボックスの仕事が決まって、ISOを取得していてよかったと思いました。今はISOを道具にして、体制強化のために組織を変えようとしていますし、社員が働く環境をできる限り良くしたいと思っています。そして、重要なのは人材をどう育成していくかですね。

昔は食べていくのに一生懸命で、目の前の業務をこなすのに必死で生きてきました。こういうことが身体に染み付いてしまっているので、いきなり顧客満足度と言われてもどうしたらいいのかわかりませんでした。何のためにやるのか、どう質を上げるのか、他社の事例も踏まえながらわかりやすいギケンマニュアルを模索中です。社長と初めてお会いしたときから比べると、ここまで会社に余裕ができたと思いますし、またここまでやらなければお客様から仕事を出していただけないのでしょう。会社のレベルが上がってきたということですね。

竹内 今はお客様がISOを持っているかどうかをベースに仕事を選びますからね。単なるコスト競争では大変です。

森田 小さくてもきらりと光る会社になりたいですね。そのためにやることは序々にではありますが見えてきました。

大切なのは人-マルチタレントの育成-

森田 当社にも10代から20年近くやっているモデラーが2人います。時代はデータ先行で、工業デザインの世界を語るとき、アナログ技術が時代錯誤で過去の遺物のように思われますが、クルマの造形に代表される高度なデザイン業務においては、形に対する感性の優れた彼らデザイナー、モデラーに頼るほかないのです。つまりこれは彼らの持つアナログ領域の能力如何によっては、作られる形に差が出てくるということを意味します。2本の腕のみで形作られた表情豊かな形を見る度に、彼らの感覚、感性の奥深さには感動します。当社の若手にこの優れた感性をどう育成していくかは常に頭にあり、王道はないのでしょうが、試行錯誤の毎日です。

竹内 匠の世界ですね。デジタルとアナログが融合するということで、CADでモデリングして5軸で削っても、最後は人の手に戻るのでしょうね。

森田 今、クレーモデルの原型はNCで削るのですがやはり、本格的な造形工程はモデラーの手によるアナログです。デジタル中心の開発はますます加速するでしょうが、人の感性を表現できるマシンでも出てこない限り、手による仕事が絶えることはないでしょう。少なくはなっても無くなることはないと思いますし、そうあってほしいものです。デザインは、研究開発的な要素、言い換えれば試行錯誤がすごく多いので、ビジネスとしてデザインと今の業務をどのように連動、融合させるのかということが大変難しいですね。

竹内 型を作る人の考え方とデザイナーの考え方は相反することが多いですね。ものづくりをしている人がデザインをすると、作れるものしかデザインできない。それは面白くないですね。デザイナーというのは作れないものをデザインするから面白いのです。

ETCカバー
ETCカバー

森田 今当社のデザイナー志望の若手は、プロのデザイナーのもとでみっちりデザインの勉強をしています。次のステージでは設計、加工もやらせます。CADの画面では一瞬で穴を開けられますが、実際の鉄板に穴を開けることがどんなに感動するのかということを教えてあげたいと思っています。我々のような小さな会社だから出来ることでもあるからです。モノ作りの基礎、基本をしっかり学んだ上で、ユニークで個性豊かなデザイナーに成長してほしいと願っています。

現代のモノ作りにはバーチャルとアクチャルの双方をよく知り、うまく2つの世界を行き来できなければなりません。何かのスペシャリストでは無くマルチな技能と素晴らしい感性とその表現力を持った人材の育成に力を入れています。

もともとマルチタレントの必要性は常に頭にありましたし、少人数の会社ですから、多才な人材が必要不可欠とも言えます。それが将来的に当社のカラーになっていくような気がします。

竹内 職人さんは、一人ですべてやりますからね。

森田 すし職人に例えるなら、魚の選別に始まり、綺麗に捌いて、握って客に出し、旨い!と唸らせなければなりません。もちろん自分で刃物も研がなければなりません。これをやりたいのです。技能の伝承という視点では、小ロットでデザインから生産まで一通りできて、棟梁がいて、その下に職人がいてその技を引き継ぐという形です。現代にマッチした徒弟制度を構築したいものです。

竹内 今また若い人が気づき始めて、今の匠がいる間になんとか技術を引き継いでいこうとしていますね。

森田 若者が気づき始めていると言われましたね。そのとおりですし、そこに携わる中で、お金ではなくて業務の内容に感動して親方についていくという姿勢の人が増えています。今は、お客様からの信用・信頼を積んでいる最中で、お客様にいかに満足してもらえるか、もう少し偉そうに言うと、「さすがだね!」といかに感動してもらえるかです。

今後に向けて

竹内 次のステップで商売を大きくされるときに、東南アジアなどの進出を考えていらっしゃいますか。

森田 海外展開は、我々のグループが韓国・タイ・インドなど積極的にやっています。それはそれで大切なことです。しかし一方で地場であるこの地とのより良い結びつきも大切にしていかなければなりません。足元をしっかり見ながら地域との共存、貢献に結びつく活動が出来ればと考えています。次のステップとしては、車以外のものを探そうと思っています。新しいものの企画、提案にはEOSINTは大きな力を発揮しそうです。いつか導入したいですね。

竹内 車に限らずワンストップでできるというのは、いろいろな仕事を受けることができますね。

森田 介護用品からスポーツ関連の製品に至るまでいろいろ開発しています。

25人ほどの会社がメーカーと直接仕事をさせてもらえるというのは、リスクもありますが、メリットもずいぶんあります。そのメリットをここをとりまく自然環境の中で思う存分発揮できればしっかりとした未来が開けると確信しています。

【企業のネットワーク】

竹内 会社の規模を大きくすべきではないかもしれないですね。

森田 そうだと思います。社員一人ひとりの顔の見える会社にしたいですからね。

人の力は不思議なもので同じモノ作りへの志を持つ人たちが出会えば、それがネットワークに発展し大きな力となります。ネットワークでの大きなプロジェクトの受注もこれからは増えるかも知れません。

NDESに期待するところ

竹内 最後に私どもに対する要望などについてお話しいただけますか。

森田 今はCATIA、Space-E、Vividなどを使っていますが、今後デザインをやっていく上で、もっといろいろなものが必要になってくると思います。御社のシステムを使っていろいろな事例をお互いに共有しながら進化させていきたいですね。また、お客様の設計開発のお手伝いもやっていきたいと思っていますので、そのために必要な新たな設備などを紹介していただきたいとも思います。

さらに、これからは品質保証やリスク管理が重要になってくるので、このような事例も含めて紹介していただけるとありがたいと思います。そういうところまで会社がきていると思います。

竹内 広島にいた頃は、森田社長がそこまでデザインに思い入れがあるとは思っていませんでした。社長の描かれた夢が確実に形になっていますね。

森田 モノ作りは人作りでもあると思っています。デザインという長年の夢を少しずつ形にしながら、同時に未来に向けて豊かな感性を持った人を育てていくことも、大きな意味ではデザインかもしれません。

竹内 我々に対しても、痒いところに手が届く企業になってほしいということですね。GRADE、Space-EとずっとCADをやってきましたが、CADの世界はもう成熟していますので、これからは応用技術ですね。我々の役割は、ものづくりに役に立つ入口から出口までのシステムをご提案することだと思います。

敷地内の山つつじ
敷地内の山つつじ

森田 社長が入口から出口までとおっしゃいましたが、私もこのインタビューのために、「入口から出口まで、提案企画から品質保証まで」と応えようと思っていました。本誌のタイトルの「人とシステム」の人は、そこにどういうポリシーを持った人がいるかですね。それとシステムですね。

オンリーワン企業とは個性が如何に大切な時代かを端的に表していると思います。おのずとそう言われる未来が近いことを信じて精進していくつもりです。

竹内 これから先もその姿勢でずっと続けられるのでしょうね。

森田 そうですね。人も自然の一部で草木がそうであるように育つ環境で人も変ってきます。この豊かな環境の中で時間をかみ締めながら、いいモノと豊かな人作りをライフワークにしたいものです。

竹内 本日は、お忙しいところをどうもありがとうございました。

会社プロフィール

株式会社ギケン

株式会社 ギケン

URL http://www.gkn.co.jp/(外部サイトへ移動します)

本社〒738-0222 広島県廿日市市津田字檜木尾834-2
設立1981年11月
資本金10,000千円
従業員数25名
事業概要企画・デザイン、製品設計、試作、量産、検査
グループクリエイティブテクノロジー、 樹脂技研、カイロスエンジニアリング ASIS(韓国)、ASIS INDIA(インド)、AMT(タイ)、CMT(カナダ)、TARUS Shanghai(中国)