人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
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No.59 | システム紹介
個人の失敗を大事(おおごと)にしないために
PLM事業本部 開発統括部 PLMソリューション開発部
第二開発グループ 主任技師 田中 秀樹
ふたたびとある会社で

とある会社で

技術の田中さんが先輩の山本さんに怒られているようです。多少、誇張はしていますが、全て筆者の想像で書いたことで、どこかの会社をイメージしたわけではありません。

田中さんも、いつも過去トラを見ているわけではないようで、これも問題ですが、これまでの経験で大丈夫であろうと、作業を進めてしまったのが失敗の素だったようです。しかし、探しにくい資料や更新されない過去トラ集の運用にも、問題がありそうです。

失敗学と行動経済学

製造業における成功事例ではなく、失敗事例こそが今後の品質改善に多く寄与できるとして、「失敗学」という言葉を提唱したのが畑村洋太郎です。科学技術振興機構が運営する失敗知識データベースに各製造分野における失敗事例が紹介されています。

その失敗学では、失敗が起こる原因として、次の4種類に区分されています。

  1. 組織に起因する原因
  2. 個人に起因する原因
  3. 個人・組織のいずれにも起因ない原因
  4. 誰の責任でもない原因

最後の2つの原因は、例えば、リーマン・ショックのような経済状態の激変や宇宙人の襲来など未知との遭遇によるもので、我々の関心事は最初の2因にあります。

1. 組織に起因する原因

  • 企画不良
    製品デザインが悪い、会社組織の構成が悪い、会社の戦略が悪い、など
  • 価値観不良
    グローバル化で異文化に対応できない、M&Aによる経営者と現場の乖離、など
  • 組織運営不良
    硬直化した組織運営、組織間の壁、事無かれ主義、など

2. 個人に起因する原因

  • 無知
    技術伝承不良、知識不足、など
  • 不注意
    徹夜による疲労、理解不足、など
  • 手順の不遵守
    手順無視、連絡不足、など
  • 誤判断
    誤った状況判断、狭い視野、など
  • 調査・検討不足
    事前検討不足、仮想演習不足、など

人間は、過去の成功を思い描きがちです。そのような過去の事象は、記憶の中でどんどん美化されていくものでもあります。改めて、上述した組織・個人に起因する失敗の原因を見直してみると、いずれかの項目に思い当たる節があるのではないでしょうか。

成功に学ぶというのは、こうすればうまくいきますよ、というマニュアル化に陥ることのように思えます。個人活動での失敗の原因とプロセス、組織的に起こされた失敗の原因とプロセス、それらを学ぶことによってこそ、個人は成長し、組織は成熟していくと、「失敗学」は教えてくれます。

ところで、伝統的な経済学では、完全に合理的に判断する人間が経済活動をするものとして、理論付けされてきたと言われ、その合理的な人間を「ホモ・エコノミクス(経済人)」と称しています。一方、完全に合理的でない人間が、市場で誤りを起こしながら経済活動をすることを対象とした学問に「行動経済学」があります。このような完全に合理的でない人間が、問題解決、判断を行う際、時間と費用の掛かる最適な解ではなく、簡便で、ある程度満足できる解を求める方法を元にして、経済の仕組みを解き明かしています。その方法のいくつかを以下に紹介します。

  • 代表性に基づく方法
    小数の例でも全体を代表していると思って判断する
  • 利用可能性に基づく方法
    思い起こしやすい事例をもとに判断する
  • 係留と調整に基づく方法
    特定の初期情報に依存して調整された判断をする

利用可能性の方法で典型的な例が、自動車で移動する方が、飛行機で移動するより安心だと思う、人間の行動です。航空機の墜落をつい思い起こしてしまうからなのでしょう。

最新の経済学と失敗学に、共通する考え方があることに気付かれると思います。

個人の失敗を大事(おおごと)にしないために

日本の製造業の現場にお伺いすることがありますが、正直感じることは、必要最低限のツールを導入され、足りない分を高度な人間力でカバーされていることです。3D-CAD/CAM/CAE は、人間の手計算では、できない領域のためや、顧客との関係上導入はされています。しかし、設備投資の削減などの影響で、CADデータや関係する資料などの管理は、まだまだ個人に頼った運用になっていることが多いようです。

このような状況下、本稿の最初で記したような事態が製造現場で起こっており、紙と担当者個人に運用管理が依存しているのであれば、私どもが、簡単導入PDMとして提案しているドキュメント管理システム「SPACE-Doc」を検討していただきたいと思います。「SPACE-Doc」のようなシステムを元にした運用ルールを構築することで、発生をゼロにできない担当者の失敗を大事(おおごと)にしない、手立てになると思います。

「SPACE-Doc」は次のような特長を持っています。

  • Windowsライクな簡単操作
  • ユーザ毎のアクセス権で安全運用
  • ファイル単位の履歴管理とプレビュー機能
  • 検索属性の自動付加などの高いカスタマイズ性

最後に、参考文献にあった言葉を記しておきたいと思います。

「人間は必然的に誤りを起こす。一人一人の注意によって誤りを最小化することは大事である。しかし、誤りは決してゼロにはならない。もっと大切なのは、人間の誤りをシステム全体の重大事故につなげないような予防システムである。」

参考文献

  1. 「失敗学のすすめ」著:畑村 洋太郎 講談社(ISBN-13:978-4062103466)
  2. 「行動経済学」著:依田 高典 中央公論新社(ISBN-13:978-4121020413)

※「SPACE-Doc」の最新情報

人とシステム 57号(2010年4月発行)「かんたんPDM、ドキュメント管理-SPACE-Doc V3 のご紹介」

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