人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
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No.61 | お客様事例
EOSINT P385で自動車部品から新たな分野へ挑戦

原田車両設計株式会社様は、自動車部品の組込系ソフトウェアの制御開発、内外装の部品設計、ものづくりの試作、そして設計請負、エンジニア派遣まで、お客様の要望にお応えするための事業を展開されています。
そして創業以来、顧客満足度向上を第一に考え、従業員を大切にすることがお客様の満足向上につながると確信して、専門性の高い技術の育成、さらに仕事に対する考え方などの社内教育を積極的に行われています。

今回は、EOSINT P385による新しい分野への取り組み、「三方良し」の企業理念などのお話をお伺いしました。

EOSINT P385の導入背景

代表取締役 原田 久光 様
代表取締役 原田 久光 様

当社は自動車部品の開発に携わり、ソフトウェアの制御開発、部品設計、試作、設計請負、エンジニアの派遣などを行っています。

今から十数年前の自動車業界の試作は、光造形が先行していました。ところが、この光造形は剛性が低く、変形、割れなどのもろさがあったため、強度、耐久性に優れた粉末造形が試作に活用され始めました。光造形の試作は2000年頃が一番多く、2005年頃には粉末造形のニーズが高まってきました。

その当時、当社には試作の設備はなく、商社的な立場で試作を受けていましたが、やはり、社内で内製をしたいという思いから、粉末造形機の導入検討を2006年から始めました。EOSINTは、2台分のハイエンド工作機に相当するほどの高額で、これだけの設備投資をして本当にやっていけるのか不安はありました。ただ、商品と販売メーカの哲学やその姿勢に共感できたのがEOSでありNDESだったので、1年間いろいろと検討した結果、2007年にEOSINT P385を導入しました。

自動車部品から新しい分野へ

リーマンショックを乗り越えて

リーマンショック以降の売り上げは、ピーク時で40%近くは落ちましたが、当社はある程度の開発系の仕事をいただけていたので、何とか乗り越えることができました。
このときは派遣事情も厳しく、お客様から大量に派遣終了になった会社もあり、その中には社員を解雇した会社もあったと思います。
当社も人材派遣をしていたのですが、結果的に派遣終了の話は多くはありませんでした。これは、何があっても社員を解雇せずに皆で不況を乗り越えていくと宣言したことで、社内のモチベーションが高くなった結果かもしれません。

試作事業では、EOSINTを導入して1年後にリーマンショックを迎えたこともあり、最近では自動車以外の業務を30%に増やすことを目標にして、様々な分野にアプローチしています。

医療関係への進出

この地域は、自動車、航空関係のものづくりの集積地で業界が厳しい状況になったため、経済産業省の中部経済産業局から医療分野への取り組みを推進されました。これは、名古屋大学医学部、名古屋市立大学医学部、国立長寿医療研究センターの先生方と中小企業を結びつけて、医療現場の課題を企業のものづくり力で解決できないかという取り組みです。

当社も大学の先生方をご紹介していただきました。国からも医療機器の開発・改良に向けた病院・企業間の連携支援事業の公募がありました。先生方には、現状を改善するためのたくさんのアイデアがあるので、それを実現するお手伝いを少しずつ始めています。

MRIデータから造形した脳(左)と肋骨(右)
MRIデータから造形した
脳(左)と肋骨(右)

たとえば、MRIやCTデータからEOSINTで造形できることに着目して、私自身の胆石手術時に撮ったMRIデータを使って実際に肋骨を造形してみました。

それまでは、CADデータからアウトプットするものだと思っていたので、一気に世界が広がりました。さらにEOSINTは、ハイエンドの3Dプリンタであり、高精度で耐久性に優れた造形品は、試作だけでなく最終製品としても活用できることを改めて認識しました。

このことから、名古屋大学医学部からは内臓の精密モデルを作る依頼を受けています。

また、同じ名古屋大学でも介護・看護系の先生からは、お年寄りの巻き爪をケアするニーズが高まっているため、訓練用パーツの依頼を受けています。従来の訓練用パーツをさらに安価にして、機能的な改良もしたいという依頼でした。これは、実習生どうしが訓練用パーツの足をお互いの足に付けて、向かい合って巻き爪のケアをするというもので、実際のケアと同じ状況で訓練できる利点があります。

カラクリトウロウの誕生

部品試作室 室長 新垣 龍太郎 様
部品試作室
室長 新垣 龍太郎 様

元トヨタ自動車デザイナーの根津孝太氏にお会いする機会がありました。このとき、 EOSINTで造形した花弁が歯車のように回る名刺サイズのサンプルをお渡しすると、この造形技術に興味を持っていただけました。

そして、初対面だったにも関わらず、一緒に2009年の「100% Design Tokyo」に出展することになりました。

カラクリトウロウ
カラクリトウロウ

そのときに製作したのが、カラクリトウロウです。灯篭が回ることで花歯車も回る仕組みで、これを構成する部品のほとんどをEOSINTで造形しました。この展示会では、用意していた1,000部のパンフレットがすべて無くなるほどの人気で大盛況でした。

また、このカラクリトウロウは、新聞やテレビ局の取材を受け、自動車産業が落ち込んだピンチをチャンスに変えた企業の取り組みとして度々紹介していただきました。

やはり、主力は自動車のものづくり

ものづくりのネットワーク

最近、ここ数ヶ月は本業の自動車関係が忙しくなってきており、この土日は30人が出勤していました。

当社は、大手の自動車メーカ様と直接のお付き合いがあり、試作事業も上流の仕事をいただけるため、チームを組んでネットワークでの、ものづくりに取り組んでいます。

パートナー企業さんも関東、関西と全国に広がり、それぞれが得意な技術力を活かして皆の総合力で受注して納品することを実践しています。

これまで当社は、大手自動車メーカ様のものづくりのお手伝いを主に行なっていましたが、今は、試作をお願いしていた協力メーカさんから設計や造形の仕事をいただけるようになりました。

お互いを思いやる「持ちつ持たれつ」と言う関係が本当の意味で築けた気がします。

次世代自動車のノウハウも蓄積

当社は、次世代自動車として電気自動車開発にも注目しています。昨年、電気自動車普及協議会が設立されました。この会は、EVの普及促進、啓蒙活動、また電気自動車がもたらす新しい未来環境を提言、整備することを目的にされています。

中小企業や自治体が中心となり、ガソリン車から電気自動車に転換するコンバートEVの事業になります。ガソリン車のエンジン、燃料タンク、排気管、トランスミッションなど不要な部品を外し、EVモータ、インバータ、バッテリなどを搭載します。

当社は、自動車のワイヤハーネスの設計を得意としており、これまでも改造した電気自動車でレースに出たことや電気自動車の開発プロジェクトに参加させていただいたこともあり、コンバートEVのノウハウを少し持っています。

また当社は、次世代自動車が普及しても必要になるシート、電線、機能部品、内外装の樹脂部品などの設計を得意としていますので、将来は、お客様からいただいた開発の仕事を社内でできる環境を作りたいと考えています。

3Dデータの裾野を広げる

EOSINT P385
EOSINT P385
法輪寺三重塔の造形物
法輪寺三重塔の造形物

EOSINTは、自動車関係はもちろんですが、家電関係、ロボットのボディーなどにも使っています。

その他にも、3Dデータを活用する会として「3D-GAN(URL:http://www.3d-gan.jp/)」という一般社団法人があり、そこの造形サービス窓口から当社に3Dデータが送られてきます。

EOSINTで造形して納品するのですが、その3Dデータの形状の周りに箱を作って造形しています。お客様へは、その箱ごと送るので自分で粉を払いながら形状を発掘できるという楽しみがあると思います。依頼されるお客様は、企業、一般の方、デザイナーさんなどがいらっしゃいます。

この3D-GANは、3Dデータを使える人をもっと広げようとしている団体です。我々にとって3Dデータは当たり前のものですが、一般の方にはまだまだ身近なものではないため、それを広げるための活動をされています。既に、リーズナブルな価格で一般仕様の3Dプリンタも販売されています。これで3Dデータから実際のものを造形することが一般的になれば、3Dデータの裾野が広がり、必ずハイエンドであるEOSINTの需要につながると思います。当社も3Dデータが一般的になるようなお手伝いができればと思っています。

仕事を通して人は幸せになれる

「三方良し」の哲学に則って

今、関西からは家電系の受注もいただきいろいろな分野の新規営業を月に20件ほどしております。そして、既存客数が140~150社あるので、そのバランスを考えて営業しています。
新規に営業して見積のご提案ができるまでは10社回って1社、そこから受注までの確立を考えると20社回っても2社になるという仮説を立てて、関東、関西方面へ今も積極的に営業しています。

そのときの当社の営業の仕方は、まず企業理念の説明から始めます。名刺の裏にもありますが、「世のため人のため、地域のために、製品開発を通して、明るく楽しく心豊かな生活をつくるために貢献します。」という企業理念を大切にしています。

これは、江戸時代に確立された近江商人の「売り手良し、買い手良し、世間良し」の「三方良し」の哲学に則ったWin-Win-Winの理念です。当社は、この企業理念を守って商売をしていれば必ず良い方向に進むという確信を持っています。

ですから、事業内容の説明は企業理念の後になります。これまで、当社の考え方に共感していただいたお客様とは、長いお付き合いをさせていただいています。

目先の損得だけを気にするのではなくやはり、「三方良し」の精神で、安く早く対応し、「原田車両設計に頼んでよかった」と言っていただけることが一番重要なのです。

社員一人ひとりが幸せに

幸せというのは何なのか、人それぞれにあると思います。仕事を通して人は幸せになることができると本気で思っています。共通した幸せの一つには、他人から必要とされることがあります。

例えば、同じチームで仕事をしていて、あなたは居なくても困らないと言われたらショックですね、食事ものどを通らなくなりそうです。反対にあなたには居てもらわないと困ると言われたらうれしいですね。誰もが自分の生活のために働いているのですが、実は仕事を通して幸せも望んでいるはずだと思います。

今も新卒採用の最中で、「働くとは?」という話をよくしています。例えば、二人いてどちらの人と一緒に働きたいですか?と聞く時に、ひとりはお金をもらわなくても働く人と、もう一人はお金をもらわないと働かない人がいれば、どちらを選びますかと聞くと、皆さん無給の人と答えます。では、自分は無給でも働きますかと聞くと、無理ですと答えます。次に、時給850円と800円の同じバイトがあれば、どちらを選ぶかと聞くと、850円のバイトと答えます。

日本人は子どもの頃から、損か得か、それと人に騙されないようにと考えることが染みついているようです。それだから、自分のことになると損をしたくないと思い、他人から必要とされる生き方に踏み出せないのです。それと同じで、騙されたくないという思いが強くて、どうしても自分を優先するので志の無い生き方になり、や はり他人から必要とされません。

ですから、残業はしたくない、早く帰りたいと自分の都合を主張するばかりで、他人への配慮ができないのに、 他人には損得なしに付き合ってくれることを望んだりします。これでは、いつまでたっても誰にも必要とされずに空回りするだけです。

そこで、もう一歩踏み出して一旦は損をしてもいい、騙されてもいいと考えることができれば、必ず誰かが必要としてくれます。そして、いつも必要としてくれる人がいることで、安定した穏やかな心になれ結果として幸せになれると思います。

どんなにテクニックや技術を磨いても、心のあり方ができていなければ、仕事は続かなくなるでしょう。景気が良い時には相手をしてくれても、不況でピンチになった時、これまでの付けが回ってくると思います。むしろ、利己ではなく、お先にどうぞという利他の心を持って日常の生活や仕事ができればいいと考えています。

社員教育では、「情けは人のためならず」のように、因果応報といって巡りめぐることで商売も成り立っていくのではないか、という話を全員にしています。まずは、毎月1回「ことだま」として社長メッセージを給与明細に入れています。

そして今年から、月1回は全員が参加する座談会を開いています。茶菓子を食べながら夜の8時頃から1~2時間ほどいろいろな話をして、盛り上がると12時ぐらいまで話をしていることもあります。もちろん、自宅に社員を呼んで宴会をすることもあります。そういう場で、生きていく上で大切なことがあるという話をしています。

生活のために働くことは当たり前のことです。もし、それ以外で働いている意味をみつけたら、その人は毎日楽しくいきいきと働いていると思います。これに答えられる人は100人に1人もいないかもしれません。

できれば、子どもには親が楽しく仕事をしている様子を話してほしいと思います。そうすることで、将来、子どもは仕事が楽しいものだという夢を持つようになります。

私は、社員がいきいきとして、仕事が楽しいという会社を作りたいと考えています。この会社の目的は、お客様のものづくりのお手伝いをさせていただきながら、社員一人ひとりが幸せになることです。

おわりに

いろいろなお話をお伺いしていく中で、働く意味を改めて考えることができました。

2009年に「トレンドたまご」(テレビ東京系列WBS)でカラクリトウロウが紹介されました。この出演は原田社長の念願だったとのこと。

大変お忙しいところ、貴重な時間を割いてお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

会社プロフィール

本社
本社

原田車両設計株式会社

URL http://www.hvd.co.jp/
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本社 〒470-0224 愛知県みよし市三好町中島24 中島ビル
設立 1998年6月1日(創業1993年10月1日)
資本金 3,000万円
従業員 91名(2011年1月現在)
事業内容 ・制御開発(ソフトウェア)
・自動車部品設計(ワイヤハーネス・シート・
 内外装樹脂部品・ドアロック・シートアジャスタ・
 ブレーキシステム)
・設計請負(開発委託)モーターショー開発委託など
・技術者派遣(労働者派遣事業 般2309-0039)
・プラスチック部品の試作製造