人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
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No.63 | システム紹介
Space-Eで実現する
デジタルエンジニアリングにおける4つのCサイクル
製造ソリューション統括部 製造システム営業部
浜松出張所 所長 阿部田 哲史

はじめに

製造業のデジタルエンジニアリングを支える4つのC(CAD,CAM,CAEそしてCAT)は、それぞれ、システムベンダーによる継続的な機能改良と、現場の利用技術の向上によって、ものづくりには欠かすことのできないツールとして、その利用が定着しています。

しかし、デジタルエンジニアリングの本来の目的が、「3Dによるプロセス連係と、それによる品質とコストの最適化」であることを考えると、解決するべき課題は潜在しているものと考えられます。

製造業やシステムベンダーが、理想を標榜しつつも見過ごしている潜在的な課題を認識し、何が最低限の善後策になり得るのかを、最近再注目されつつあるRE(リバースエンジニアリング)を題材に改善案の一端をご紹介します。

REにおける課題認識

ここ数年、プレス、ダイカスト、樹脂を問わず、あらゆる金型の設計・製造~成型に携わる企業の設計・生産技術部門では、設計段階での金型の熟成と、それによる試作コストの削減を目的に、CAEが活用され、検査・品質管理部門においては、非接触測定器やCATの活用も進められています。

ここで取り上げた2つのツール(CAE,CAT)は、(事前、事後の違いはあるものの、いずれにしても)設計者が、初期検討したCADデータと成型品との差異によって、成型時に発生するひずみを認識し、変形見込み量を判断するために活用されるもので、これらの結果は、何らかの方法で、初期のCADデータに反映することによってその目的を達成します。

特に、金型設計・製造~成型の段階においては、このようなデータのフィードバックやツール間の連係行為も含めて、REと捉えて差しつかえないと思われます。

では実際に、設計者が判断した変形見込み量をどのようにしてCADデータに反映させるのでしょうか?

ある手法では、CAEで検出されたひずみ量の数値をもとに、製品データの面や形状を修正・編集し、再度モデリングをしたり、また別の手法では、CAEやCATから出力されたSTLデータに覆いかぶせるように、オペレータがキャラクタ部や面の分割を判断しながら新たに形状をモデリングしているのが実情のようです。

これらの手法の問題点は、せっかくCAEやCATを使って、CADデータと成型品との差異をデジタルに認識したにも関わらず、そのフィードバックがオペレータのスキルやツールの機能に依存している点です。これでは、元とはまったく違う素性のCADデータになってしまいかねません。また、この二度手間のような作業に、多大な時間と労力が掛かっていることも見過ごせない点です。さらに、そうして再作成したCADデータが、その後のCAM工程などに有効に活用できる状態にあるのかどうかも疑問です。

図1 3Dデジタルエンジニアリングの連係課題
図1 3Dデジタルエンジニアリングの連係課題

一見目立たないこれらの手間が、まさにデジタルエンジニアリングを阻害している課題(図1)と捉えることができますが、実際にはこのような面倒が存在していることは認識していても、各現場の作業者の努力によって、またはツールに頼らずとも勘や経験を駆使できる熟練技術者によって、その急場を凌いでしまっていることもあり、課題として大きく取り上げられることは少ない。

企業内での分業化が徹底していたり、工場や企業間を跨いでデータ授受が行われている場合は、なおさら見過ごされている可能性が高いと思われます。

4Cサイクルの有効性

一方で、ものづくりの新興国では、熟練者のノウハウに替わる埋め合わせを、ツールを駆使することによって克服しようとしており、日本よりも早く3D化が推し進められているようにみえます。

日本のものづくりの現場でも、無形のノウハウの人的継承は困難で、今後はやはりツールに頼らざるを得ない状況があり、勘や経験をツールに照合させた数値化が急がれているところです。

設計部門のCAD、解析部門のCAE、検査部門のCAT、そして加工部門のCAM。これまでは各部門がそれぞれに最適と思われるツールを導入し、それぞれの範疇でコストや工数削減を図ってきましたが、それでも全体俯瞰した際の二度手間や負荷はなくなっていません。

また、REにおける前述のような課題は、特に各種ツールが出揃い普及しだした最近になってから顕在化してきたこともあり、まだまだその対策や改善への取り組みは遅れ気味な部分です。

データ連係を一元化するという観点で、システムそのものを統一してしまおうとする向きもありますが、あらゆる場面で万能なシステムなど存在せず、一気に刷新するのであればその設備投資額も相当なものとなります。

実際にはREに関わる4つのC(CAD/CAE/CAM/CAT)と、各部門既設の得意なツールとそのデータ資産を有効に連係させることが、現実に見合った発想です。この連係を円滑化できれば、各部門でクローズしていたデータが有効活用され、部門間でのヒューマンエラーやデータの分散を抑止し、大幅な工数削減と設計ノウハウの蓄積や継承など、おおいに期待できるものとなります。

この4C間のデータ連係の課題と有効性は、デジタルエンジニアリングの応用技術を駆使している大手企業や大学・各種研究機関などではいち早く認識されており、既に、連係に必要となりうるツールの模索・検証、人材育成に着手し、この総合的なワークフローを実践しようとしています。

一例では、浜松市や静岡大学工学部が中心となって運営している「はままつデジタル・マイスター養成プログラム」でも、地域の製造業向けにデータ連係の有効性を唱え、各種デジタルツールを活用した企画・開発・設計から製造技術までを一貫して構築できる、総合的能力を有する人材の育成に力を注いでいます。

データ連係を中継する「レ・フィット」機能

図2 レ・フィットの例(バック・フォワード見込み)
図2 レ・フィットの例(バック・フォワード見込み)

この部門間をまたぐデータ連係時の課題の一部をCAD側で解決するべく、当社は昨年、3次元CADシステムSpace-Eの追加モジュールとして、Space-E/Global Deformation PLUSをリリースしました。このモジュールに搭載されている「レ・フィット」機能を使うと、CAEやCAT側が出力したSTLデータと、反映させたいCADデータから仮に創出したSTLデータの差異を検出し、その変位ベクトルを変形条件として元のCADデータを一括変形することができます。

測定値などにCADデータをフィッティングさせる場合は「バック変形」、CAEなどから出力された変形量分を逆方向に見込みたい場合は「フォワード変形」と、変位ベクトルの向きを切り替えることも可能です(図2)。

この手法は、CAEやCATから出力されたSTLデータをもとに新たに形状をモデリングするのとは違い、あくまで元のCADデータを、システム側が変位ベクトルを参照しながら変形するため、操作者のスキルに左右されることはありません。また、元のCADモデルの素性(意匠)を維持することができるので、その後の編集や修正、またはCAMにデータを引き渡した際にも影響が及ばないモデルをアウトプットできます。「レ・フィット」は、前述の4Cサイクルを廻す際の中継機能(裏表紙参照)として、有効なツールになり得るものと考えています。

まとめ

当社は、この「レ・フィット」を、4C間のデータ連係を図るうえでの重要な中継機能と位置づけ、設計から解析まで連係動作するSpace-E/Pressなどにも内包させています。さらに深い要望に応えられるよう、CAD上での各種STL修正・編集機能、またはSTLデータからのモデリングなどを追加機能としてさらなる機能拡張に着手しています。

今後は、デジタルツールを駆使して4C間の円滑なデータ連係を図ろうとされる現場において、課題の改善・業務のさらなる効率化、そしてノウハウの連係を実現するための環境を提供できるものと確信しています。

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