人とシステム

季刊誌
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No.66 | 社長インタビュー
自動車用ガスケットとヒートインシュレーターで業界をリード
国産部品工業株式会社 商品企画部長 執行役員 阿部 吉隆 様 国産部品工業株式会社
商品企画部長
執行役員 阿部 吉隆 様
国産部品工業株式会社 商品企画部 課長 鈴木 孝志 様 国産部品工業株式会社
商品企画部
課長 鈴木 孝志 様
NDES 代表取締役社長 木下 篤
NDES
代表取締役社長
木下 篤

木下 御社は2011年度の関西モノ作り「元気企業100社」に選ばれたそうですね。おめでとうございます。

最近のハイブリッドカーやEV、PHVなどの次世代エコカーが注目される中で、内燃機関にこだわって、低燃費・高出力エンジン向けのガスケット(MAZDAのSKY ACTIVE用のエンジンガスケット)を製造されているとお伺いしました。

また、新たな製品開発のための基盤技術の開拓にも取り組まれておられるとのこと。今日は、御社の強みである自動車部品の開発・製造のこれまでの取り組みから新たな事業への取り組みなどをご紹介いただければと思います。

事業の歩み

木下 まずは、御社の事業概要についてお伺いさせてください。

主力商品

自動車のパーツ
自動車のパーツ
(上図をクリックすると拡大図が表示されます)

阿部 エンジンには、空気や燃焼ガス、燃料、冷却水、エンジンオイル、ミッションオイルなどさまざまな流体が使われています。これらの流体を密封して漏らさないためのガスケットを製造しています。

また、エンジンから高温の燃焼ガスがエキゾーストマニホールドを通る際に発せられる高温の熱や音を伝えない遮熱・遮音機能を備えたヒートインシュレーターを製造しています。

また、お客様の仕様に沿って単に製造するだけでなく、お客様のニーズを掘り起こしお客様とともに製品の開発・製造に取り組むことをモットーとして、R&Dセンターを設置し、全製品について性能や信頼性、そして量産に向けた生産性等の研究・開発を行っております。

特に、製品開発では、実験とシミュレーションを駆使した検証技術によりコリレーションを確立し、製品開発への投資を抑えつつ高品質の製品開発に取り組んでいます。量産化では、金型の開発・製作・メンテナンスの一貫体制を内製化することにより、製造にかかわる種々の課題を現場で迅速に対応できるようになり、"カイゼン"への意識も向上しました。

創業当時

木下 ガスケットの製造は、創業当時からですか。

阿部 創業当時からアスベスト製の非金属素材を打ち抜いてガスケットを製作していました。

シリンダーヘッドガスケットは、シリンダーヘッド、シリンダーブロックの間に装着されており、高圧力・高温の燃焼ガスをシールするなど、一般的なゴムや樹脂では耐えることのできない高温、高圧の過酷な条件下で使用されます。

ガスケット業界では、シリンダーヘッドガスケットが開発・製造できる会社は、技術的に上位のレベルになります。

当社もシリンダーヘッドガスケットが開発・製造できるように努力をしてきました。

世界で初めてヘッドガスケットをメタル化

深絞り後の予想形状
深絞り後の予想形状
製品
製品

阿部 1970年にアメリカでマスキー法が制定され、大気汚染に対する高い目標値が示されました。1972年にホンダが低燃費・低公害エンジンの先駆けとして世界に知らしめた「CVCCエンジン」を開発し目標値をクリア、1973年にはマツダもロータリーエンジンのサーマルリアクター方式で目標値をクリアしました。しかし、皮肉にもアメリカの国内自動車メーカの反発を受け、1974年に廃案となってしまいました。

当社でもマスキー法をきっかけに、サーマルリアクターを車のボンネットに入れるために熱と音を遮断するヒートインシュレーターを作り始めました。

また、アスベスト規制もありましたので、ガスケットのメタル化にも取り組みました。非金属系のガスケットの性能は材料となる素材によってシール性能が決定されることが多く、素材メーカがいかに高性能な素材を開発してくれるかに関わってきます。

非金属系ガスケットの標準的な厚みは1.0mmぐらいです。永久変形しやすく耐久性が劣ります。しかも薄い非金属系ガスケットは製造的に限界がありますね。

金属系ガスケットの場合では薄くすることもでき、耐久性にも優れています。

薄い肉厚のヘッドガスケットを開発するために、自動車メーカとの共同開発で、世界で初めて乗用車用ガソリンエンジンのヘッドガスケットを金属系材料で製品化することができました。金属系のガスケットの標準的な厚みは、0.4mmになります。

非金属系の一般ガスケットの製造から、技術的に難しいと言われるヘッドガスケット製造に参入できたのは、アスベスト規制という法的トリガーがあったからです。

MAZDA SKYACTIVE に搭載

阿部 MAZDA SKYACTIVEには、メタル化した当社のヘッドガスケット製品が使用されています。

解析の取り組み

解析結果
解析結果
不具合対策として、解析の検証結果を利用した例 結果:Eng耐久クリア(クラックなし)
不具合対策として、
解析の検証結果を利用した例
結果:Eng耐久クリア
(クラックなし)

木下 燃費の向上を図るため、車を軽量化する、特に鋳鉄製の高剛性なエンジンがアルミ合金に変わって低剛性となり、その分シールドとしての高機能を要求されるガスケットにもさらなる進化が求められる......、いろいろなご苦労をされているそうですね。

阿部 エンジンは、シリンダーブロックとヘッドをボルトによって結合されますが、この時過大な力、つまりボルトの締め付け力、軸力が強すぎると、エンジンの変形を引き起こし、弱いとエンジン内の熱や流体が漏れやすくなる。つまりこの漏れを防止するのがガスケットの役目で、エンジンを製造する側としては、アルミ合金で低剛性のために軸力を抑えたい、一方ガスケット製造メーカとしては、シールド性能を引き出すために軸力を上げたい、この両者の追いかけっこの関係、つまりトレードオフ関係の最適化がエンジンガスケットの世界です。

以前は、開発の段階で試作品を耐久テストで性能評価をし、機能不具合を解決するというスタイルでできていましたが、最近では、メーカからの指導もあって、極力ものを作らず、つまり試作レスで機能評価ができるものづくりに取り組むようになりました。

我々の投資はほとんどが実験設備と人でした。特殊な実験設備を持って試験装置や計測器を増やしてお客様にPRしてきました。しかし、その都度実験で対応することになると、現象の再現性や開発コストの低減等の面で効果が見られません。

また、メーカからの要求として開発のリードタイムの短縮をどんどん求められます。まったくの新規の製品開発では、実験は不可欠ですが、製品の改良やこれまでの実験データやシミュレーション技術を活用して、効率の良い製品開発ができる体制を築きたいと考えています。

例えば、メーカのデザインレビューの設計審査では、エンジン設計でなぜこのガスケットを採用したかというエビデンスが必要となります。その際に、ガスケットの機械的特性値を実験による測定データだけでなく、シミュレーションにそのまま利用できるデータ形式でもお客様に提供しています。これは、私たちが自社商品の性能をシミュレーション技術で評価できるようになったことによるものです。

木下 解析を取り入れたりして、今までのものづくりの形を進化させたということですね。

海外展開

木下 海外にも関連会社をお持ちですね。

阿部 当社は中国とタイとマレーシアに拠点があります。マレーシアは1990年、タイは1996年、中国は2005年に設立しました。3拠点とも単独資本です。マレーシアは、プロトンという現地自動車会社の仕事を受けています。プロトンは、日本の自動車メーカの技術提供の元に作った国営に近い会社です。今は技術を蓄積し、独自で開発・製造ができる会社になっています。現在、プロトン社向けにはガスケットとヒートインシュレーターを納品しています。

3拠点とも売り上げは維持していますが、安定したビジネスを運営しているのは現地自動車メーカに納品しているマレーシアの会社です。

木下 海外進出の苦労話とか、これは気を付けたほうがいいということはありますか。

阿部 中国は大変大きな成長市場ですが、私たちのビジネスとしてはフィールドが広すぎますね。中国国内の自動車総生産量は多いですが、自動車メーカも多数あり、一説ですが120社ぐらいあるとも言われているみたいですね。そのため1社当たりの生産量はさほど多くはありません。例えば、生産ランキング40位の会社で年産20万台です。ですから、1社から1部品を受注しても、納品する部品の数量はこんなに少ないのかという感じです。

海外の工場で最も重要なのは、品質管理です。日本では、品質は製造現場で作られる考え方が常識で、それぞれの立場でカイゼン活動が定着し、一定の品質が確保できています。例えば"チョコ停"のように設備の停止の要因は種々の原因がありますが、オペレータの技量により経験的に回避できたり、発生しても速やかに状況を判断して容易に回復できるなど、完全自動化ができないラインでは、人と設備の関わりがとても重要です。国内にはそういう技能者がいますが、海外ではオペレータや技術者を早期に育成することが課題となっています。

木下 国内と海外で生産調整をされるということですね。

阿部 日本で主力製品だけで競争力をつける活動も限界があり、作りやすいガスケットは海外に出すと決めています。製造移管するのも容易ではなく、まだコストがかかっています。今後、海外でも作れる工法、金型、設備に変えていかないとだめなのです。管理面だけでレベルを上げるということは、無理なような気がします。

産学連携

木下 大学とも共同研究をされているそうですね。

鈴木 大学との共同研究は、2008年から取り組みをスタートさせ、毎年テーマを設定して、時には学生のフレキシブルな発想も生かしながら共同で新商品企画に取り組んでいます。

院生との共同研究でおもしろいのは、ある課題に向けて、取り組みをする場合、企業側は保有設備や加工技術、売り上げ見込みなどの環境や既存の経験が新商品開発の妨げとなり、活動が中止となってしまう事が少なくありません。院生と共同研究をする場合は、そうではなく、企業側では今までの経験から省略してしまいがちなアイディアも含めた仮説モデルから検証し、種々の条件を設定し、具体的かつ定量的なモデルを検討してくれます。一緒にやっていて、とても刺激となります。

木下 新しい商品の市場としては自動車関係ですか。

鈴木 まずは、お客様との信頼関係を築いている自動車分野への投入を目標として、商品開発に取り組んでいます。ガスケットとヒートインシュレーターの本業だけで利益確保できる体制にする活動も重要なのですが、市場のマスが決まっていますので、これらの製品ばかりにこだわって、技術開発していくのは将来的に不安があります。時代にマッチした新しい商品開発に取り組み、売り上げが10%~20%増を見込めるように取り組んでいます。

成果としては、日本機械学会等で論文発表も行いました。

スパイラーを用いたマイクロ水力発電装置 設置場所:京都府京丹波町仏主 和知川上流 左岸
スパイラーを用いたマイクロ水力発電装置 設置場所:京都府京丹波町仏主 和知川上流 左岸

より具体的な産学連携活動の目標は、"戦略的基盤技術高度化支援事業"の採択を受けることで、現在も勢力的に活動中です。

また、産官連携活動としても、平成20年度発足の開発研究会の中で、スパイラー技術を水力発電装置の回転部に適用しようとするプロジェクトで活動中です。法規制の緩い小川に設置可能で実用化可能な「スパイラーを用いたマイクロ水力発電装置」を試作開発することができました。

*スパイラーを用いたマイクロ水力発電装置の掲載記事
「クリエイティブ京都M&T」 2011年7/8月号(No.69)

新たな基盤技術の取り組み

熱交換器の熱流体解析の事例
熱交換器の熱流体解析の事例

木下 基盤技術として、解析技術の向上を目的に流体の分野への適用にも取り組まれているとお聞きしました。具体的にどのような取り組みなのでしょうか?

鈴木 従来からのプレス技術の基盤技術に加え、新たな基盤技術として、熱流体の工学領域に着目し取り組み活動中です。まずはその第一歩として流体解析スキルを身に付けています。

車載用熱交換器の熱流体解析に取り組んでいます。

今後の取り組み --技術課題の抽出--

阿部 CAD/CAM, CAEを代表に、検証能力ツールが整ってきた現在、掘り起こされた技術課題、そしてその解決手法や施策を形式知としてデータベース化することが重要と考えています。

特に、プロジェクト活動の場合は、これからを担う若い人には技術課題をピックアップできる能力を養ってほしいです。また第三者に得られた知見をわかりやすく伝えるということも大事ですね。生産技術者の育成、そこが最近の悩みですね。

木下 生産技術者の育成について、私たちNDESはどのようなご支援ができるでしょうか?

阿部 中小企業向けのCAD/CAMは、運用の仕方など、自社用のシナリオを作ってから導入したほうがいいですね。

Space-E/Pressによる板厚変化量の見込み
Space-E/Pressによる板厚変化量の見込み

例えば、Space-E/Pressのアウトプット、例えばブランク展開、トリム展開、スプリングバックについて、結果のデータを見てどう読み取らないといけないかということをNDESと議論させてもらおうと思っています。とかく経験に基づく判断や考察は、暗黙知になりやすく、形式化されたものとして皆で共有することが難しいですね。

今後、予測技術を使って事前に問題を把握し、その対策を打てる設計手法や生産技術を構築していきたいと考えていますが、個々の経験値、暗黙知頼みでは検討もままならず、おそらくNDESの技術者との議論は難しいでしょう。

汎用のツール、例えばSpace-E/Pressを使って、その入出力を自らの設計情報や生産情報にすり合わせることによって、お互いに議論ができるのではと考えています。大げさに言えば、互いに違った立場同士で議論することにより、うちの技術者にロジカル・シンキングを身に着けてもらえばと思っています。

一方で、NDESも生産技術のより細部を見ることができる、つまりノウハウがたまる、システムの商品企画に効果があると思います。

NDESへ

室内の様子と画面
室内の様子と画面

阿部 CADデータと測定データを比較するCAT機能を進化させてもらいたいです。製品の品質をチェックする専門家による技術論議ではなく、誰でもわかりやすく、物事の理屈通りの傾向が現れているのかどうかの判断ができるようにということです。

品質管理という立場ではなくても、工場でものを作って、えっというような品質のものがごくまれにあるのです。結局それは材料自体の品質に問題があるのか、製造条件にばらつきがあるのか、どちらに原因があるかということは推測できますが、原因の特定まではできていませんでした。

毎日工場で物を作っているのですから、製造中の各工程で製品形状を測定して、常に品質チェックができるような仕組みが構築できるといいですね。そうすると品質にばらつきが出たときに測定データから瞬時に原因を突き止めることができると思います。

例えば3工程ある製品の場合、1工程目に計測をして、1工程目の測定の傾向で、2工程目の下死点を制御するのです。計測機として金型内にギャップセンサーを取り付けて、不良レス化に取り組みたいと考えています。俗にいう"プレス加工技術の知能化"への方向付けです。

今までは、最終工程の製品、つまり納品する製品について品質の良し悪しを判断していました。ですから、品質の悪い製品の場合、どの工程に起因しているのかわからなかったのです。

事例ですが、フープ材をプレスで加工しているのですが、材料のロット違いにより発生していた不具合が未然に防止できるようになり、生産性の向上につながりました。

木下 測定値を反映させて次の工程を制御するということですね。

阿部 計測の自動化は、人為的な誤差が入らない、膨大なデータが継続して取れる、ということが最大のメリットです。NDESには中小企業から見てこうしたニーズがあるということを認識してもらいたいですね。

データの統計処理をする最小二乗法などが入っていれば、数式化ができます。理屈の世界でできる話なので、視点や使い方のヒントを教えてもらったら、使いこなせるようになると思います。

木下 CAD/CAMだけではなく、CATなどを応用して、生産技術の多様な問題に取り組んでもらいたいということですね。本日は貴重なお話をお伺いし、まことにありがとうございました。

会社プロフィール

本社・京都工場
本社・京都工場

logo
国産部品工業株式会社

URL http://www.kbk-k.co.jp(外部サイトへ移動します)

本社 京都府綾部市城山町7-2
創業 1941年
設立 1950年
資本金 6,500万円
従業員 172名(2012年4月現在)
事業内容

自動車等のエンジンのシーリングパーツの製造

  • ガスケット
  • ヒートインシュレーター
  • ステンレスメッシュなど