人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
お客さまにお役に立つ情報をお届けする情報誌です。

No.78 | システム紹介
デジタルエンタープライズが開く
Industry 4.0への道
シーメンスインダストリーソフトウェア
ソリューションコンサルティング部
五島 直

1. ドイツ製造業の復権をかける Industry 4.0

先進諸国では、製造業こそが経済成長の基盤であるとして、次世代のものづくりに向けた製造イノベーションを模索しています。米国では3Dプリンターをはじめとするアドバンスド・マニュファクチャリングを推進しており、日本でも2014年に内閣府主導で戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)を立ち上げています。製造エンジニアリングの国際競争が激しさを増す中、ドイツは2010年にイノベーション推進政策の基本方針として「ハイテク戦略2020」を掲げました。その具体化戦略として、ドイツが2012年に発表した「未来プロジェクト10」の一つが、Industry 4.0です。

ドイツ語で、「Industrie 4.0」と表記されるこのプロジェクトは、従来より情報通信技術(ICT)と生産技術で製造業をけん引してきたドイツの威信をかけて、文字通り第4次産業革命ともいうべき世界をリードする製造革新を目指しています。ドイツ政府はこのプロジェクトに合計2億ユーロの予算を拠出し、シーメンス、ボッシュ、ダイムラー、SAPなどドイツ製造業関連の有力企業や業界団体と大学や研究所が連携してこのプロジェクトに関連した研究を実施中です。

Industry 4.0が描くものづくりは、これまでのものづくりと何が変わるのでしょうか。それは、デジタル情報とネットワークを駆使したスマート工場による究極のマス・カスタマイゼーションの実現というべきものです。すなわち、Industry4.0では、IoT(Internet of Things)、IoS(Internet of Service)、CPS(Cyber Physical System)、M2M(Machine to Machine)のコミュニケーションを活用したスマート工場による次世代のものづくりを志向しています。スマート工場では、顧客の要求に応じて製造される製品に、製造に必要な全ての情報がデジタル情報としてひもづいており、製品の受注段階だけでなく、製造直前の仕様変更にも対応し、生産設備が相互に製造仕様をコミュニケーションしながら製造プロセスをダイナミックに再構成できる自律生産システムによって製品を製造します。これは、固定化したラインと平準化生産による量産とは対極ともいえるマス・カスタマイゼーションの実現であり、個別生産でも収益を上げ製造できるビジネスモデルとエンジニアリングを可能にします。さらに、Industry4.0のワーキンググループでは、こうした技術面だけではなく、それを支えるために要求される労働者の職能範囲の拡大や生涯学習の必要性、関連する法整備などについても重要なテーマとして取り上げられており、工場だけでなく社会インフラも含めた広範な取り組みであることがうかがえます。

2. シーメンスの提唱するデジタルエンタープライズ・プラットホーム

ところで、Industry4.0が目指すスマート工場や自律生産システムを活用するには、製品情報だけでなく、製造プロセス情報も含めてものづくりに必要な情報がデジタル化されなければなりません。ものづくりの情報は、計画段階と製造現場の両方の情報をデジタル化する必要があります。PLM(Product Lifecycle Management)導入で3D設計が進んだ先進企業であっても、製造現場の情報のデジタル化と活用までできている企業は少ないのが現状です。そのため、シーメンスではIndustry4.0が発表される数年前から、製造業の新たな競争力を高める基盤として、デジタル情報でPLM、MOM(Manufacturing Operation Management)、および工場のトータルオートメーションをつなぐデジタルエンタープライズ・プラットホームを提唱すると同時に、Industry 4.0のワーキンググループのコアメンバーとしてISA-95(ISO-62264)参照モデルに準拠したポートフォリオを提案しています。シーメンスでは、こうしたコンセプトをアンベルグなどの自社工場に導入し、生産効率や品質改善の効果を実際に検証しつつ、製造業へ新たな付加価値を提案しています。

3. 生産プロセスのデジタルモデル(BOP)を核とした
生産技術アプリケーション連携

図1 TCM(BOP)を核とした生産技術アプリケーションのデータ連携
図1 TCM(BOP)を核とした生産技術アプリケーションのデータ連携
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ものづくりに必要なデジタル情報は、PLMによる製品開発情報だけでなく、生産プロセス情報のデジタル化がMOMや工場オートメーションへの橋渡しとして重要になってきます。シーメンスの提唱するデジタルエンタープライズ・プラットホームでは、Teamcenterが製品と生産プロセスの両方のデジタル情報を一元管理する役割を担います。特に、スマート工場で今後必要とされる生産プロセスのスマートモデルのベースとなるのがBOP(Bill Of Process)で、製品、工程および工場設備情報をひもづけたデータモデルであり、日本流に言えば「製造の4M(Man Machine Material Method)」に相当するものづくりの情報をコンピューター上に表現します。BOPはTeamcenterに製造系アプリケーションを拡張したTCM(Teamcenter Manufacturing)で作成できます。TCMでBOPを作成することにより、製品設計のBOM(Bill Of Material)と連携(BOM-BOP連携)して、設計変更が影響する工程や設備を特定し工程設計や設備設計の差分変更が可能になります。さらに、生産シミュレーションと連携して、製造開始前に工程の成立性を検証し、電子作業指示書(EWI)を発行したり、ロボットやNC機械などの制御プログラムを作成したりすることができます(図1)。

4. CPSの重要な要素となるデジタルマニュファクチャリング

図2 シーメンスの提案するデジタルマニュファクチャリング
図2 シーメンスの提案するデジタルマニュファクチャリング
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Industry4.0が志向するスマート工場は、CPSによってダイナミックに製造プロセスを変更可能にする工場です。そこでのものづくりのデジタル情報伝達は、PLMやERPなどの計画系の情報システムから工場への一方通行ではなく、MES(Manufacturing Execution System)を通じて製造現場からも情報を吸い上げ、コンピューター上のデジタルモデルに現場の情報を常に反映しながら、更新、発展していくことが求められます。シーメンスの提唱するデジタルエンタープライズプラットホームでは、BOPがCPSを実現する重要な要素となります。つまり、BOPは生産プロセスのマスターモデルとして、現場の最新情報を反映しながら、次の製品設計や工程設計、事前検証に再利用ができるとともに、MES/MOMや工場オートメーションへのマスター情報として活用することができます。このようにシーメンスは、Teamcenterを基盤とし、Industry 4.0など次世代の製造革新に必要不可欠なエンタープライズ規模のデジタルマニュファクチャリング・ソリューションを提案していきます(図2)。

参考文献

  • 「戦略的イニシアティブIndustrie 4.0」の実現へ向けて、Industrie 4.0ワーキンググループ報告書(日本語翻訳版)、2013年4月、野村総合研究所
  • 日経Factory2014テキスト、2014 
  • Industrie 4.0:製造業に革新を、AREA REPORTS,2013年9月、ジェトロセンサー