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株式会社NTTデータエンジニアリングシステムズ

No.91 トピックス

3Dプリンティング技術による歯科デジタルものづくり
最適な人工歯を短時間で製造可能に

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
生命工学領域 健康工学研究部門
生体材料研究グループ
上級主任研究員 岡崎 義光

はじめに

国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下、産総研)は、株式会社アイディエス(以下、アイディエス)と共同で、3Dプリンティング用コバルトクロム合金粉末の薬事承認を取得し、患者に最適な人工歯(入れ歯)を用いた歯科治療を可能にしました。

  • 3Dプリンティング(3次元積層造形)技術を用い、破損しにくく、患者に最適な人工歯の短時間製造を実現
  • 国内初の3Dプリンティング用医療機器としてコバルトクロム合金粉末が厚生労働大臣から承認
  • 従来の歯科鋳造に代わる新たな「歯科デジタルものづくり」による歯科治療が可能

この3Dプリンティング技術は、歯科鋳造後の各パーツを溶接などにより一体化する従来技術と比べて鋳巣などがなく、破損などのリスクを削減でき、信頼性に優れた立体構造の人工歯による治療の実現が可能です。臨床使用のためには、歯科材料の医療機器としての承認が必要となるため、3Dプリンティング用コバルトクロム合金粉末の薬事製造販売承認申請はアイディエスが担当し、産総研は、積層造形材のミクロ組織や耐久性などの力学的安全性評価を行いました。協力して進めることで、医療機器製造販売承認申請から厚生労働大臣承認までが1年未満の短期間で達成でき、平成30年4月27日、厚生労働大臣から国内で初めてクラスⅡの医療機器として3Dプリンティング用コバルトクロム(Co-Cr-Mo-W)合金粉末が製造販売承認(承認番号:23000BZX00121000)されました。

図1 3Dプリンティング技術を用いた人工歯の製造
図1 3Dプリンティング技術を用いた人工歯の製造

図1のように人工歯の製造工程としては、まず、歯科医院で口腔内のデータを取得し、歯科医師の指示に基づき、歯科技工処理を行い、患者に最適な形状の人工歯を設計しました。次に、その設計データに基づき、医療機器として厚生労働省に登録された3Dプリンティング装置にて積層造形します。造形後は、造形材の表面仕上げを行った後に臨床使用しました。

これらの技術により、歯科鋳造では困難で長時間を要する立体構造の人工歯(補綴[ほてつ]修復物)が短時間で造形できるだけでなく、破損やアレルギーに対するリスクが低くなります。さらに、従来の歯科鋳造や切削加工での作製と比較すると、口腔内データをデジタル化するため製品設計を迅速化でき、製造時間の短縮や信頼性の向上を図ることができました。また、必要に応じて同じ製品をすぐに作製できる利点もあります。

社会的な背景

私たちの口腔内の健康と体の健康は密接な関係があります。口腔内の環境を改善することで、健康維持や疾病の改善や予防に効果を発揮できます。ところが、近年では40歳以上から、1人当たりの平均喪失歯数が急増しているのです。さらに、単一および複数の人工歯(クラウン・ブリッジ)を用いた治療に加えて、部分義歯(部分入れ歯)および総義歯(総入れ歯)などの複雑な立体構造を有する人工歯の使用割合も急増している状況です。その上、繰り返し噛むことによる人工歯の破損も増加しています。

また、口腔内に存在する複数の材料における口腔内や口腔外でのアレルギー症状が多く見られ、アレルギー反応の少ない単一材料での一体製造が求められていました。

通常、人工歯の作製に用いる歯科材料は、医薬品医療機器等法に基づき、第三者認証機関により認証されます。しかし、積層造形した人工歯は、製造方法が新技術となるため、認証品目としては取り扱えませんでした。そのため、厚生労働大臣からの認可となり、独立行政法人 医薬品医療機器総合機構による審査を要するため、歯科材料製造販売業者などが薬事製造販売承認申請に消極的な面がありました。

それらの状況を改善するため、産総研が事務局となり、革新的な技術を導入した歯科補綴物開発の促進を目指して、厚生労働省、経済産業省、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構の合同事業である医療機器開発ガイドライン策定事業により、「三次元積層造形技術を用いた歯科補綴装置の開発ガイドライン(手引き)」の案を作成しました。このガイドラインは、厚生労働省、経済産業省の合同検討会での了承後、平成29年3月末、経済産業省のウェブサイトで公開されています。

研究の経緯

日本では整形インプラントなどの治療機器分野の輸入への依存度が高く90%に達していました。産総研では、輸入依存度の低減とともに、異業種分野から医療機器分野への新規参入などを目指して、医療機器のレギュラトリーサイエンスの構築に向けた研究に取り組んできました。今回、3Dプリンティング技術を活用した「歯科デジタルものづくり」の早期実現を目指し、経済産業省のウェブサイトで公開されている歯科補綴装置の開発ガイドラインを参考にして、アイディエスと共同で3Dプリンティング技術による人工歯の実用化に取り組みました。

歯科鋳造法と3Dプリンティング技術の比較

図2は、従来の歯科鋳造法と3Dプリンティング技術の工程を示しており、3Dプリンティング技術を用いると作業工程が短縮できます。また、表には、歯科鋳造法(従来)と3Dプリンティング技術の比較を示します。3Dプリンティング技術では、図2①~⑥の歯科鋳造時に必要となるワックスなどの消耗品が不要となり、積層造形に使用するコバルトクロム合金粉末が再利用できるため、材料の無駄が少なく環境にもやさしいという利点があります。さらに、コバルトクロム合金の鍛造加工に比べても低コストになる製造技術です。夜間に造形すれば、次の日には仕上げ加工ができるため、製造期間は1/3以下に短縮できます。

図2 歯科鋳造法(従来)と3Dプリンティング技術の工程
図2 歯科鋳造法(従来)と3Dプリンティング技術の工程
表 歯科鋳造法(従来)と3Dプリンティング技術の比較
表 歯科鋳造法(従来)と3Dプリンティング技術の比較

おわりに

今回開発した3Dプリンティング技術により、デジタル歯科技術の発展に貢献することができました。今後はIoT技術と連携することで、遠隔地域での利用が期待されています。また、深刻な問題である歯科技工所の閉鎖、技工士の高齢化に歯止めをかけ、技工所の労働環境の改善や歯科大学などでの教育ツールとして活用することで、歯科デジタル化の普及や歯科技工の魅力向上も期待できます。

NTTデータエンジニアリングシステムズ(NDES)

私たちNDESは、産総研様、アイディエス様と連携を強化するとともに新しい材料の登録などを推進し、歯科治療の発展に貢献したいと考えています。さらに、歯科医療用3Dプリンター「EOSINT M 270 Dental」ならびに「EOS M 100 Dental」による歯科医療業界への活用を促進していきます。

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