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株式会社NTTデータエンジニアリングシステムズ

No.92 お客様事例

3Dプリンター"ならでは"の材料を追求し
新たな造形プロセスの確立に挑む

高機能材料メーカーである日立金属株式会社様は、先端材料における中長期的な開発に全社横断で取り組む新しいコーポレート研究所としてグローバル技術革新センター(GRIT)を2017年3月に設立しました。2018年4月に完成した5階建ての研究施設には、各階の間をクロスするオープンスペースなど交流を重視した空間が設けられ、自由闊達[かったつ]な研究開発が行われています。今回はGRITを訪問して、注力課題として取り組む積層造形用の新たな金属粉末の開発および金属3Dプリンターのプロセス開発についてお話を伺いました。

新たな研究の中心地"GRIT"

日立金属株式会社 グローバル技術革新センター GRIT 戦略革新部 主管研究員 大坪 靖彦 様
日立金属株式会社
グローバル技術革新センター GRIT
戦略革新部 主管研究員
大坪 靖彦 様

日立金属様は、特殊鋼をはじめとする高機能材料の研究開発をベースに、さまざまな金属材料や各種製品を提供する日立グループの中核を担う企業です。同社は、自動車、産業インフラ、エレクトロニクスの関連分野の事業にとどまらず、航空機、エネルギー、医療機器と幅広く事業展開し、新たな価値の製品を生み出す世界でも類を見ない高機能材料の総合メーカーです。事業構造としては、特殊鋼、磁性材料、素形材、電線材料という、4つのセグメントで構成されたカンパニー制を採用しています。それぞれのカンパニーを支えている研究開発拠点として、冶金研究所、磁性材料研究所、素材研究所、電線材料研究所があります。

同社が新たに設立したグローバル技術革新センター(GRIT:Global Research & Innovative Technology center)は、企業基盤を支える研究所です。GRITの役割について、技術潮流の変化を踏まえた10年後、20年後を目標とする新事業創生に向けて、"真の開発型企業"を目指す中心地と位置付けています。

戦略革新部の主管研究員である大坪靖彦様はGRITについて次のように説明します。「これまで、カンパニー制による独立独歩の体制で得意分野での研究開発をスピーディーに進めてきましたが、その一方で、横の交流が限定されるという面がありました。そこで、どこのカンパニーにも属さない研究所として、それぞれの分野にこだわらない幅広い研究分野にアプローチするという新たな役割を担うためにGRITを設立しました。いわば横串のようなものです。既存の研究所と連携しながら、新製品・新技術の開発、新規需要の創出に取り組んでいます」

それを表す特長の一つに、オープンラボ形式があります。日立グループに限らず、他のメーカーや研究所、政府機関、大学、さらにお客さまと連携した共同研究が進められています。現在、その共同研究は16の主要テーマがあり、その1つである金属3Dプリンターは、中長期スパンでの研究開発が行われています。GRITには、全造形方式の金属3Dプリンター装置、その他にも加工機などが設置され、日立グループの中でも他にはない研究拠点として注目されています。

GRIT 3Dオープンラボ
GRIT 3Dオープンラボ

金属3Dプリンターの取り組みについて大坪様は語ります。「日立金属の中でも屋台骨が大きい特殊鋼カンパニーの主力製品は金型材料になります。ですから、我々にとって金属3Dプリンターの存在は、金型が置き換わっていくのではという脅威を感じさせるものでした。しかし、あえて自らの技術を否定する金属3Dプリンターに取り組み、脅威を機会に変えることで市場の変化に対応できると考えたのです。従来の研究体制では難しかったこのような取り組みがGRITにより可能になりました。この金属3Dプリンターに関して日立金属の取り組みは後発ですが、これまで材料メーカーが踏み込んでいない分野であるため、大きなビジネスチャンスと捉えています」

材料開発に活用するEOS M 290と
Simufact Additive

2018年6月に導入した金属3DプリンターEOS M 290について大坪様は次のように評価します。「EOSは世界シェアがトップであり信頼性に優れている点が導入の決め手になりました。ソフトウエア関係では、造形データ作成時にEOSPRINTを使うことでスムーズに造形できることも利点の一つです」

先端材料開発部 研究員 岡本 晋哉 様
先端材料開発部 研究員
岡本 晋哉 様
先端材料開発部 主任研究員 博士(工学) 青田 欣也 様
先端材料開発部 主任研究員 博士(工学)
青田 欣也 様
先端材料開発部 研究員 岡本 賢一 様
先端材料開発部 研究員
岡本 賢一 様

さらに、EOSのアプリケーションである溶融プロセスを監視するモニタリングシステム「EOSTATE Exposure OT」を導入しています。3Dプリンティングのプロセスをリアルタイムで追うことで品質管理の効率化を図ることを目的としています。その他には、金属積層造形プロセスシミュレーションソフトウエア「Simufact Additive」を導入して造形時の変形予測に活用しています。

現在、金属3Dプリンターの材料開発を行っているメンバーは、エンジニア10名とオペレーター3名です。さまざまなバックグラウンドを持った人材が集まり、設計、品質保証、操作、ソリューション化といったそれぞれの立場から、新たな可能性を模索しています。おのおのの担当者の声も交えて、研究機関ならではの活用現状をご紹介いただきました。

初期の段階から開発に加わり、現在はトータルでのソリューション化を担当している研究員の岡本晋哉様によると、「材料開発と造形プロセスの開発を行っています。3Dプリンターの材料という新たな金属粉末に加えて、造形プロセスも開発し、トータルでのソリューションとして提供します」と研究機関の役割を説明します。

品質保証を担当する主任研究員の青田欣也様は、「EOSTATE Exposure OTによるモニタリングで、欠陥が出たときの状況を調べて原因を探っています。造形の良しあしを判定する機能は、その判定基準をユーザーが設定するスタンスになっています。そのため、モニタリングの結果と充填率の相関について集計しながら、最適な判定について試行錯誤している段階です。それらが積み重なって実績になってきています」と取り組みを話します。

さらに、設計を担当する研究員の岡本賢一様は、「Simufact Additiveについては利用し始めたばかりですが、ソリなどの変形や残留応力などを予測して、設計へフィードバックするようにしています。設計の段階で不具合をつぶしていれば、EOSオペレーターの負担を軽減できます。また、新しい製品の量産になると、成功例よりも失敗例が数多くあった方が役に立ちます。研究段階でいかに多くの失敗をして、その挽回方法を用意するかが重要です」と話します。

大坪様も「そういった試行錯誤は研究所だからできることです。どれだけ少ないサポートで変形することなく、特性、組織も異常なく造形できるのかというノウハウが重要になってきます。我々は材料メーカーという強みを生かして、形を造形するだけでなく、製品の特性まで保証したモノづくりをご提案したいと考えています。そういう意味でもEOSTATE Exposure OTやSimufact Additiveは必要なツールです。さらに、お客さまの要請に応えていくためにも、研究員のノウハウを積み重ねながら形にしていきたいと思います」と研究開発としてのスタンスを説明します。

GRITのコラボレーションラウンジにて
GRITのコラボレーションラウンジにて

"ならでは材料""ならでは設計"

開発した金属粉末(右上)とEOS M 290による造形物(左下)
開発した金属粉末(右上)とEOS M 290による造形物(左下)

「3Dプリンターならではの材料を提供していくことが材料メーカーとしての使命だと思っています。我々は、3Dプリンターならではの特長を生かすことを"ならでは材料"、"ならでは設計"、"ならでは造形"と言って、プロセス開発までを含めた研究開発に取り組んでいます。また、3Dプリンターの普及では、日本は遅れていると感じていますが、材料の研究開発では、まだ大きな可能性があると考えています」と積層造形用の新たな金属粉末のビジネスチャンスについて大坪様は語ります。そういう環境下で、すでに誕生した金属粉末があります。

一つは、5つの元素を均等な割合で含む40μmの金属粉末です。日立製作所の研究開発グループと共同で3Dプリンターによる積層造形に適した金属粉末を開発するとともに、この粉末をレーザー焼結法で積層する造形プロセスの条件を突き止め、ハイエントロピー合金「HiPEACE®」の開発に成功しました。この金属粉末は、高い強度、耐食性を備えており、既存のニッケル基合金よりも過酷な環境で用いることができる可能性があります。

もう一つが、鍛造で従来使っていた材料を3Dプリンターに適応させた材料で、耐食性の高い特長を持ちます。

これらは、これまでにない3Dプリンター"ならでは"の工法から生まれた材料と言えるでしょう。今後について大坪様は、「3Dプリンターの新しい材料を開発するとともに、そのレシピも当社が開発して総合的なソリューションをご提供できればと考えています。今後の実用化に向けて取り組んでいます」と話します。

海外との研究開発

2018年10月、日立金属様はシンガポール製造技術研究所(SIMTech)と金属積層造形や金属粉末の開発をはじめとする共同研究に関する契約を締結しました。造形技術から後処理まで幅広いエンジニアを揃え研究開発を行うSIMTechに対して、日立金属様は、造形技術はもとより、品質を保証した新たな金属粉末材料を提供することで、次世代の金属積層造形の技術開発を進めます。

海外との取り組みについて、大坪様は「シンガポールには、世界各国のメーカーが進出してきていますし、アジアの拠点になっています。これからは海外との共同研究も進めながら3Dプリンターの特長を生かした新しい材料など、材料メーカー"ならでは"のモノづくりの提案を続けていきたいと思います」と説明します。

NDESへ

EOS M 290の前にて先端材料開発部の皆様 左から岡本 晋哉 様、牛 晶 様、青田 欣也 様、大坪 靖彦 様、岡本 賢一 様、吉田 恵美子 様、川野 高明 様
EOS M 290の前にて先端材料開発部の皆様
 左から
 岡本 晋哉 様、牛 晶 様、青田 欣也 様、大坪 靖彦 様、
 岡本 賢一 様、吉田 恵美子 様、川野 高明 様

研究開発の場でEOS M 290は、日中はもとより夜も週末も無人稼働しています。最後にEOSとNDESへの期待を伺うと、青田様は「最初、スタッフはみんな初心者だったので、NDESの教育やサポートの手厚さとマニュアル類が充実していることに感謝しています」と運用面での利点を話します。

岡本賢一様は「EOS M 290は使いやすいですし、EOSTATE Exposure OTなど、研究開発にも役立つ機能があって助かっています。ゆくゆくは、蓄積したEOSTATE Exposure OTのデータをベースにAIに機械学習させて、どんな場面で欠陥がでるのか分析したいと考えています」と今後の取り組みも話します。

大坪様がこう締めくくります。「NDESの一生懸命なサポートのおかげで、スムーズに立ち上がれたと思います。私自身、NDESのAMデザインラボに行き、技術的なことで話ができるエンジニアがいると分かり、安心して任せられると思いました」

日立金属様は、材料の分野からモノづくりのための研究開発を続けています。そこには、新たな可能性を探る地道な積み重ねがありました。NDESも、材料開発という分野にご協力すべく、努めてまいります。

会社プロフィール

日立金属株式会社
グローバル技術革新センター(GRIT)の外観
本社 東京都港区港南一丁目2番70号
グローバル技術革新センター 埼玉県熊谷市三ヶ尻5200番地
設立 1956年4月10日
資本金 26,284百万円(2018年3月末現在)
社員数 日立金属グループ連結
30,390名(2018年3月末現在)
事業内容 特殊鋼製品、磁性材料、素形材製品、電線材料の製造と販売

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