人とシステム No.100
34/40

REFRESH折り紙を再現するための折り図と展開図置いた紙の裏側が出るような折り目が「谷折り線」、表側が出るような折り目が「山折り線」です。折り紙設計のためのソフトも開発されていて、一般公開されている「ツリー・メーカー(TreeMaker)」などはインターネットで入手可能です。折り紙の設計図折り紙の科学①折り紙を科学すると見えてきたいろいろな可能性● ● ● ● ● 私たちに親しみ深い折り紙は、1枚の紙を折って対象物に近似させる創作です。江戸時代にはすでに庶民の間で楽しまれていたことが浮世絵などにも描かれています。1950年代頃には作品として認められるようになり、近代折り紙として広がりました。近代折り紙の特徴は、「折り図」と「展開図」です。日本の古典折り紙でも折り方を図に示すことはありましたが、近代折り紙では、すべての折り手順が書き表され、完成品の再現性を高めています。 展開図は折り紙の設計図で、折り目パターンとも呼びます。出来上がった折り鶴を元の1枚の紙に戻すと、折り目が付いていることが分かります。最も基本となる折り方は、紙の表が出る山折りと、裏が出る谷折りです。それを図面に表すと、どのように折るのかが簡便に分かります。 折った作品を展開図に広げてみると、折り線の交点について必ず成り立つ性質がいくつかあることが分かっています。特に、「前川の定理」と「川崎の定理」の2つが重要です。いずれも折り線と交点の関係性を明確にしたもので、右図の折り鶴の展開図でも確認できます。 前川の定理を発見したソフトウエアエンジニアの前川淳氏は、ご自身で「悪魔」という優れた作品も生み出されています。手の5本の指を折るところにも工夫があります。 1つの角を4つの領域に分けることで、5本の境界線を作っています。これを実現できたのも、明確な展開図があるからであり、多くの人が複雑な作品を再現できるようになりました。 定理などの規則性が分かることで、折った後から展開図を起こすだけでなく、先に折り紙を設計して展開図を作成するという発展の道が開かれます。従来は、イメージに近づけるために試行錯誤しながら作っていた折り紙が、完成品を思い描いて、それに合う展開図を設計するという新たな手法を獲得することになりました。このように、折り紙の構造を研究することは、より複雑で芸術性の高い折り紙作品の創造にとどまらず、工業や産業分野への応用という面でも非常に魅力的です。1枚の紙から作られたとは思えない前川淳氏による作品「悪魔」。展開図の左右の端の複雑な折り目が手の部分に対応しています「前川の定理」各交点には偶数本の折り線が集まり、山谷の差は常に2「川崎の定理」中心角は1つ置きの合計が180度①+②=180度①②折り鶴の展開図32人とシステム No.100 July 2021

元のページ  ../index.html#34

このブックを見る