人とシステム No.100
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 かつては華やかな姿を誇っていたであろう街並みも、今は荒れ果てて、ビルの外壁が所々剥げ落ち、路面には陥没やがれきが目立ち、生物の気配は全く感じることはできない。身を潜めている地下室からは、荒れた街路を苦もなく移動し生体反応を検知する4足歩行ドローンと上空で戦闘用アンドロイドを運ぶために待機する大型飛行ドローンが見えるだけだ。明るい時間に今いる街区から移動することは、ドローンに検知され捕獲される可能性が高いので、このまま待機する判断を仲間に伝える。 辺りが暗い闇に包まれてから行動を開始する。地下室から地上に向かうスロープを駆け上がり、ゴールデンレトリバーのアッシュと共に道路に出る。ミッシェル・劉とケンに目配せし、ひと固まりになり、四方や上空を確認する。アッシュは探査用小型ドローンのモーターや回転翼の微音にも反応できる上に、むやみに吠えるようなこともしない頼れる相棒だ。他の二人も中国拳法とコンピューターの達人で、早く隣街区の抵抗軍と合流し、相手システムに障害を引き起こしたい。 そんな彼らが行動している上空10mほどで、静粛な小型イオンエンジンを持つ探査ドローンのレンズが3人と1匹を確実に捉えていた。探査ドローンからの通知を受け、大量の戦闘用アンドロイドを腹の部分に内蔵した大型ドローンが盛大に飛び出していった。         3.8    モニターに向け右手を大きく横に振り、映画を止める。「OK、アスカ!映画はもういい、静かな音楽でも流して」。「ハイ、ワカリマシタ」。モニターに表示されている映画の情報を読みながら、文句の一つでも言いたくなる。"Termi-nator :Returns"ってなんだよ、100年以上前の古典を何度もリメークするなよ。 AIを現実の生活の中で実感できるようになったあの頃は、その能力に対する期待と不安が、過剰なまでに大きく育ち過ぎていたのだろう。結局、人間対機械という同等の対立構造になるまでAIは進化することなく、「Articial=人工の知能」というよりは「Augmented=人の知能を拡張する」という役割で、現在はあらゆる領域の内部処理で使われている。さて、寝るとするか。明日は、年に1度の出社日だし、テレワークになじんだ身体にはリニアで片道1時間ちょっとであっても大阪本社への移動はつらい。 寝室の各種センサーが冷徹に一人の人間のデータを捉え出していた。               <γ-GTP="120">    2121年2月1日、パーソナル・センサーからの検査情報を受け、メディカルAIが「アルコール摂取過多による、痛風発症の危険大」との判断を保健庁データベースに登録した。1984年に公開された、ジェームズ・キャメロン監督のSF映画、ロボットと人間の戦いを描いています。2005年にレイ・カーツワイル氏が発行した「The Singularity Is Near」で2045年に人工知能が人間の能力を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)が来るとしました。2037年に品川ー大阪間でリニア中央新幹線が開通する計画で、所要時間は約70分となります。2020年に新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)の爆発的な拡大で、テレワークの実施が一部で進みましたが、テレワークでの対応が難しい製造業・物流業などは、エッセンシャル・ワークと呼ばれました。2021年の新しいバージョンのApple Watchで心電図機能が利用できるようになりました。これからの百年背景100TH MEMORIAL37人とシステム No.100 July 2021

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