人とシステム No.100
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いると伺っています。AIにもこの脳の生成モデルの考え方が使われているのでしょうか。渡邉 実は脳を模した機械学習はかつて下火になっていたのですが、コンピューターの計算能力や学習させるデータの質が向上してきたことで、10年ほど前から再び評価されるようになりました。人体に張り巡らされたセンサーの情報から脳内で3次元世界が構成されるように、数値的に情報を入力することで仮想の世界を何百万、何千万と好きなだけ作り出すこともできると考えています。すると、人の認知や予測を超えた環境を作り上げて、それをAIに学習させることも可能になります。東 その仕組みは解析ソリューションで役立てられそうです。例えば異常が発生した際のシミュレーションをするとき、人が認知していない状況をいくつも用意することは、すでに発生した事象のみからでは見つけるのが難しいという課題があります。渡邉 さらに脳は、「もし~だったら、…だろう」というふうに未来のことを予測できるので、その働きをAIにも備えられると考えています。例えば、車を運転していて左に車線変更をしようとするとき、左車線の車が前をどうぞと譲ってくれたらハンドルを回しますよね。それと同時に、もしかしたら後ろからバイクが来るかもしれないと考えるわけです。これは別に繰り返し同じ条件を学習したからではなく、以前バイクが急に現れたなという回想があって、かつ、ここで急にスピードを緩めたらどうなるかというシミュレーションをしています。東 それも興味深いです。私たちは現在、車の自動運転開発で必要とされる試験ケースの提供に向けて、NTTデータグループ会社と共にシナリオベースデザインというソリューションに取り組んでいます。安全かつ安心に運転するために、走行時に発生する条件をシミュレーションしてシナリオを作成し、そのシナリオを仮想現実内でテストします。そこで抽出する条件は、事故が必ず起きる条件でも、事故が絶対に起こらない条件でもなくて、事故が起こるのかどうかが分からない、不確かでグレーゾーンな条件なのです。今のお話はこのようなシナリオ作成に有効なシミュレーションだと思います。渡邉 自動車をはじめ、いろいろな産業分野で、現状どのようにAIの受容が進んでいるのか強い関心があります。また、私自身、車が好きでずっとマニュアルミッションのオープンカーにこだわって乗り回していることもあり、個人的に自動運転の動向も楽しみです。必要とされる技術の真価を発揮するためには東 AIは昨今叫ばれているDXの中でも大きなテーマです。製造業のお客さまの現場では、人の目や手の判断による仕事が多く、それが日本のものづくりの良いところの一つです。私たちは、その仕事を誰もが的確に永続的にできるようにデジタルの力でどうにかできないか、AIを活用できないかというご相談へのお手伝いをさせていただくことがあります。しかし、こうした人による判断や作業のデジタル化は、私たちの課題でもあり、昨今のDXの流れにおけるジレンマでもあります。渡邉 つまりそれは、職人芸や匠の技といわれるものでしょうか。東 そうです。日本の製造現場ではそれに加えて、現場でのすり合わせというものがあります。例えば、設計工程から上がってきた図面を製造工程で受け取った際に、図面の誤りを見つけたり、後工程のことを考慮したりして、図面上にはない調整をします。渡邉 常に絶対的なルールに従って作るわけではなく、製造時のそれぞれの工程で気づいたことを反映させていくということですね。アナログ部分での技術力や応用力の高さを感じます。東 実際にお客さまをお訪ねすると、現場での調整力にとても感服します。一方、私たちのジレンマとして、効率的にデジタル化するには、全体を通して作業のプロセスや条件の統一が図られている状態が一番なんです。しかし、そうすると絶対的なルールを作ることに近づくことになります。本当にお客さまのためになるソリューションとはなんだろうかと常に頭を悩ませていて、人ならではの部分をいかにデジタル化するかという試行錯誤と、業務そのもののプロセスや考え方の改革についてもご提案できるようにしていく必要があると思っています。渡邉 日本の少子高齢化社会は、世界がこれから突き当たっていく問題に良くも悪くも先立って直面している状況だと捉えていて、その面でも本質的な自動化や省人化を考える岐路にあると思います。東 そう思います。あわせて、そうした自動化などのためのツールを取り入れる上での意識づくりも必要になってきます。例えばAIを入れようとしたとき、いま人の行っている作業を自動化することを目指すのか、AIだからこそできる処理に業務を変えてみようとするのか、こうした自動化4人とシステム No.100 July 2021SPECIAL REPORT

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