3えているとのこと、どのような動機で入会されてくるのでしょうか。小出 個社単独で活動することの不安がひとつ理由にあると思います。今後のビジネス環境を見据えるのに、自社のみのアンテナでは到底追いつかない状況になっています。腕に覚えがあり技術技能を強みにするだけでは通用しなくなってきて、多岐にわたる視点を持つことが必要です。日本金型工業会が令和2年に策定した金型産業ビジョンでも、「工場から企業への転換」を掲げています。 例えば、現在、金型の取引がある産業は生産金額比で自動車産業が70%強を占めていますが、バブル崩壊前は自動車産業が35%、家電産業が30%だったところ、リーマンショックなどを経てこのような自動車産業に依存した構成になっています。自動車業界が100年に一度の変革期と言われる中、暗中模索ながらも、これから自動車以外の産業の割合を拡大させた産業構造を目指し、手を打つことが求められてきます。東 工場から企業への転換というところでは、金型業界のお客さまから、収益面で価格競争も大きな問題になっているとお聞きします。小出 そうですね。仕事を受けるために業界内で下げ合ってきた価格もすでに限界にきています。自分たちでその歯止めをかける努力をしなくてはいけませんし、取引の環境を改善していかないことには今後ますます厳しくなります。金型業界全体が同じ意識を持つとともに、ビジネスチャンスを見つけたり、提案や交渉をしたりするための力を、これまでより高めていく必要があると思います。白瀬 そのためにも人材育成は課題ですよね。これから発展的なことを進めるには、基礎をしっかり自分のものにした上で考察することが必要ですが、今のように最小限の人手では、若手社員にその基礎を教える余力がないのが現実だと思います。いろいろな経験や失敗をして成長する機会を設けられる時間もありません。小出 技術面でも、納期に関わる仕事を優先せざるを得ませんから、教育や新しい挑戦に割ける時間の余裕はありません。人材不足の中で金型業界を成長させていくには、生身の人間が必要なところと、ロボットやAIに置き換えるなど自動化できるところを仕分けながら、大々的にやり方を変えていくしかありません。AIやIoT、ファクトリーオートメーションの導入は至上命令のようになっていますが、自分たちとしての答えを持ち合わせた変革が大切です。白瀬 ロボットやAIはただ導入すればいいものではなく、金型業界を先導する2つの団体東 私たちは金型業界との長いお付き合いの中で多くのことを学び、設計の2次元から3次元への移行をはじめ、さまざまな変革にも立ち会ってまいりました。本日は、今後の金型業界を切り開く議論の場にできればと、日本金型工業会、型技術協会の両会長にお集まりいただきました。まず各団体のご活動や近況をご紹介いただけますか。小出 日本金型工業会は主に金型メーカーの会員からなる業界団体で、今年設立65周年を迎えます。会員数は年々少しずつ増え、全国645社ほど加入しています。金型の製造は地域によって取引先や取り扱う種類の特色が異なることから、当初は東部、中部、西部の地域ごとに団体が作られていましたが、海外との競争や国内の産業構造の変化に対応するためにも金型業界全体で一枚岩になっていこうという背景もあり、現在では全国的な団体として活動しています。金型産業は国内で約7,000の事業者、約1.5兆円の市場規模を持つ産業ですから、これを保持するのが私たちの役目だと考えています。白瀬 型技術協会は産業界と官や学をまたいで人や技術が交流し、経験と知識を融合させることが重要だという考えのもと1982年に設立されました。製造現場で何が起こっているか、研究者が何を考えているか、お互いに理解することで、新しい技術を使った新しいアイデアを生み出したり、共同研究を行ったりと型技術によるものづくりの成長に産学連携で取り組んでいます。ものづくりに正解というものはありませんが、製造業を取り巻く環境が激変する中、これから求められる技術は何か、ものづくりをどう成長させるか、いろいろな観点から議論を交わしています。東 小出会長は静岡県磐田市に本社を構えダイカスト用、鋳造用金型を設計製作する株式会社小出製作所の代表取締役、白瀬会長は工作機械、CAD/CAM、生産システム、産業用ロボットを研究テーマに神戸大学機械工学専攻の教授としても活躍されています。お二人がおそろいになるのは初めてだと先ほど伺いました。本日は、ぜひそれぞれのお立場から忌憚なくお話しください。人手不足の中、新たな成長をするためには東 近年、さまざまな業界団体で会員を集めるのに苦心されている印象があります。日本金型工業会では会員数が増
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