人とシステム No.102
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14 SDGs(持続可能な開発目標)は、企業経営を持続可能にするヒント集と思っています。 「SDGsはビジネスチャンス」という声を聞きますが、どうでしょうか? 会社のホームページにカラフルなSDGsのアイコンを掲げ、スーツに円形のSDGsバッジを身につければ売上高は増えるかというと、SDGsに賛同しただけでは得られるものはないと思います。問題はSDGs達成に貢献する意識があるか、ないかです。 確かに社会課題や環境問題を解決するビジネスは成長しています。ただし、簡単にSDGs達成への貢献が業績向上につながるとは限りません。そこで、まずは自社の課題解決にSDGsを活用してはどうでしょうか。自社の経営を長続きさせる上で課題はありませんか。その「社内課題」解決のヒントがSDGsだと思っています。 『日刊工業新聞』(月~金曜発刊)は企業活動に関連する情報を提供する産業紙であり、主に職場で購読されており、SDGs報道にもビジネスの視点を入れ、企業活動に役立ててもらう内容を目指しています。これまでのSDGsに取り組む多くの中小企業への取材から、「人とシステム」をご覧の皆さまにもご参考いただける事例を紹介したいです。 そもそもSDGsは条約ではないので法的拘束力はなく、達成できなくても罰則はありません。ではなぜ、企業はSDGs達成に貢献するように求められているのでしょうか。私の考えですが、企業がSDGs達成に貢献するメリットは会社と社会を良くし、ファンを増やすことでしょう。会社を良くすると従業員が会社に愛着を持ってくれます。ファンとなった従業員は簡単に離職しません。社会を良くすると消費者や取引先、地域がファンになってくれます。従業員、消費者、取引先、地域に根強いファンを増やすことは経営を長続きさせる(=サステナブル経営)重要な要素です。 ここで、実例をもとに、中小企業によるSDGsへの取り組みケースを紹介します。 金属加工業のA社があるとします。同社は従業員10人。社長は「良い仕事をしているけど、大企業に比べ知名度がない」と課題を抱えていました。社長はSDGsを勉強し、捨てていた材料を活用して商品をつくることにしました。SDGsのターゲット「廃棄物を大幅に削減」の実践です。 すると、この取り組みを地元のテレビ局や新聞社が「10人の町工場がSDGs」という気を引くタイトルで紹介しました。番組や記事を従業員の家族や知人も見るはずです。従業員は「うちの会社が話題になっている」と感じ、会社に誇りを持てるはずです。SDGsによって知名度がアップするだけでなく、従業員が会社のファンになる効果です。 次に装置メーカーのB社があるとします。同社の社長は「従業員にも会社に誇りを持ってほしい」と思い描いています。ある日、SDGsが理想の姿と重なると思いました。そして社長は従業員と一緒にSDGsと事業の関係を整理しました。自動化装置は未経験者や障がい者も操作できるのでターゲット「障がい者を含むすべての男女の完全かつ生産的な雇用」に貢献しています。また、新しい目標として廃棄物削減、有害物を含まない材料の採用を掲げました。ターゲット「廃棄物を大幅に削減」「化学物質の健康への影響を最小化」がヒントです。どれも“社会を良くする”活動です。 B社はSDGsに取り組む企業を登録する自治体の「SDGsパートナー」制度に登録しました。SDGs推進企業として積極的にPRして社会から評価され、従業員も“良い会社”と胸を張れるようになります。活動によって従業員が会社に誇りを持つきっかけになります。根強い会社のファンとなった従業員は熱心に働いてくれるので、持続可能な経営につながります。株式会社日刊工業新聞社編集局 第二産業部 編集委員松木 喬はじめに従業員、消費者、取引先 地域に根強いファンを増やすSDGsは中小企業の経営を持続可能にするヒント集

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