ab17 萩原一郎先生は長く衝突安全車の開発に取り組んでこられました。衝突の際の衝撃は、車両構造の変形による運動エネルギーの吸収です。日本の研究者や技術者を中心に、いろいろな構造が開発されましたが、1990年代以降、折り紙構造に着目した研究が進められました。その成果の1つが、「反転らせん折り紙構造」の採用です。それまでは部材の自長の70%程度しか変形しなかったものが、自長の90%の変形に成功。折り紙構造の軽くて剛性が高いという特性は、衝突エネルギー吸収材としても優れていることが証明されました。萩原先生は、エネルギー吸収折り紙構造をはじめとする折り紙工学全般に加えて、折り紙式プリンター、折畳扇の研究などを続けられています。 また、奈良知惠先生は、数学的な考察から4次元折り紙の研究も進められています。一般的な折り紙は、平坦な2次元の紙を直線の折り目に沿って折ることで、3次元の立体に近づけます。その折る動作は、折り目で分割された一方を直線の周りに回転させています。線対称に折り重なった状態では、直線で分割された一方が鏡映されます。そして、この原理を4次元に上げて考えるとどうなるかという研究が、4次元折り紙の基本です。 紙の代わりに立方体を、数学的に“折る”とどうなるのでしょうか。立方体を、その中心点と各辺でできる三角形で切り分けて、鏡映します。すると、中心点から各面に伸ばされた線で構成された四角錐が、それぞれの面を境に外側に伸びて、ひし形の十二面体になります。同様に、直方体を分割して“折る”と切頂八面体を作ることができます。いずれの場合も、折り目で区切られた立体で埋まっています。これは、空間充填立体であることの証明であり、工学的な発展が考えられます。その他にも、4次元で折った立体を3次元に戻し、さらに2次元にまで折り畳む研究にも取り組まれていて、これらの研究にも期待が集まっています。 最新研究に関しては概要のみご紹介しましたが、折り紙の科学が持つ可能性をお伝えできたのではないでしょうか。次号から新たなテーマがスタートします。お楽しみに。h展開図反転らせん折り紙構造立方体を切り分けて面を境に外側に伸ばす操作が数学的な4次元折り紙出典:講演記録動画:http://cmma.mims.meiji.ac.jp/events/jointresearch_seminars/index_2021.html#001「2重被覆立方体の展開図」より3号にわたりお届けしてきた「折り紙の科学」について、最終回となる今回は、私たちの目に見えるところ、見えないところで活躍する折り紙工学の実例をご紹介します。また、著者である萩原一郎先生・奈良知惠先生が取り組まれている研究の一端についてもご紹介できればと思います。※おもしろサイエンスシリーズ「折り紙の科学」(日刊工業新聞社刊 2019年3月発行) 著者:明治大学 研究特別教授 萩原 一郎 様・明治大学 研究・知財戦略機構 客員研究員 奈良 知惠 様見えないところで社会を変える折り紙の科学
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