人とシステム No.103
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4けてお客さまから聞き取った要件を定義書にまとめて作りこんでいましたが、時間がかかるためコストがかかり、さらにその間に環境が変化すればシステムに求められる役割も変わってしまいます。そこで、お客さまの課題を即座にシステムに落とし込んで試していただき、そこで出た課題をまたすぐにシステムに落とし込むという流れを1カ月程度で行えるようにしたいと考えています。石井 当社もシステム開発の依頼をした時に、要件定義書の作成に苦労した覚えがありますね。私たちにとって慣れない用語や網羅的に伝えられない事柄もあって、最初に全てのシステム要件を固めることはとても難しく感じました。東 お客さまのそうした負担を減らしたいと思っています。そのためにもますますお客さまのニーズを読み取る力が重要になってくると考えています。かがですか。石井 2021年12月からご注文の受付を始めたのですが、昨今の世界情勢から部材調達などが遅れており、1月の時点で8月まで納品が延びるとアナウンスせざるを得ない状況でした。ところが、ありがたいことにそれ以降もご注文が入ってきています。 これにより、世の中にないものを作ればお客さまは待ってくださるのだということが分かり、また、それがOXの強みであると再認識しました。当社は「未来を開発する」をビジョンに掲げており、もともとチャレンジ精神の強い会社だったのですが、時間が経つにつれ保守的な会社になっていたのではないかと感じています。未来を開発しなくなったらOXは社会に存在意義がなくなってしまう、そうした思いでチャレンジしたこの新しいZZRが、ご評価を得られたことで、社員もOXのあるべき姿を改めて実感できたと思います。あるべき姿を改めて実感できた最新日常用車いすZZR東 先ほど、2021年12月に販売開始された日常用車いすのフラグシップモデルを拝見しました。この製品にもパラスポーツの成果が反映されているということですね。石井 ご覧いただいたのは2003年から提供している「ZZR」シリーズの最新モデルで、「CARBON GPX」というレース用車いすの技術を応用したチャレンジングな製品です。特に今回は素材を変えることに挑戦し、軽量化と乗り心地の向上を実現させています。東 まさに厳しいパラスポーツ競技の場で磨き上げられた技術ですね。具体的にどのように改良されたのでしょうか。石井 当社の日常用車いすとして初めてアンダーフレームにカーボンファイバーを採用したほか、従来アルミニウムを使っていた箇所をマグネシウムに置き換えるなどの改良をしました。自動車のシャーシにあたるアンダーフレームにカーボンファイバーを用いることで、走行時の衝撃を吸収し、不快な振動を抑えられます。アンダーフレームはサイズ展開があまりなく、必要な金型の種類も少なく済むことからカーボンファイバーが有用です。一方、お客さまの体格や使い方に応じたバリエーションが必要な箇所には、ベンダーによる曲げ加工やTIG溶接ができるマグネシウムを採用しました。さらに製造工程でも、フレームの試作に初めて3Dプリンターを使うなどの試みをしました。東 素材にかなりの目新しさが表れていますね。洗練されたデザインにも目を引かれましたが、お客さまからの反響はい新しい価値や体験を提供するかけがえのない存在となる東 これまでにない製品を世に出すことはリスクもありますが、やはりチャレンジを続けることも重要ですね。未来を開発しよう、新しい試みに挑戦しようという思いは、聞いていてワクワクします。石井 自分たちの製品が今一番手であっても、世に出た時点で古いものになりますから、その先を目指さないと当社の存在意義に反することになると思っています。また、当社は車いす市場で後発だったことから、市場投入に後れをとったときの苦労も痛感しています。二番手以降の製品は、先行製品の特長と重ならないようにするため開発の自由度が減り、価格面での制約も出てきます。市場初はリスクが高くてもリターンも大きいので、カバーしうるリスクなら新しい提案を重ねていきたいと考えています。こうしたことを踏まえ、当社の思いを落とし込んだ製品を市場にぶつけて訴求し続けています。市場で見えている情報からは今ある要望や課題にだけ応じることもできますが、理念実現のためにも、お客さまに新しい価値や体験を提供する存在でありたいです。ただ、それには撤退の見極めも重要ですね。判断には痛みも伴いますが、早めに手を打てる体制が必要だと特に最近感じています。東 私もプロジェクトの撤退を考えるとき社員の頑張りを思うと迷いが出てしまいます。ですが、タイミングを逃すと次のチャレンジに割けるリソースもなくなってしまうため、あらかじめ撤退基準を決める仕組みにしています。

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