人とシステム No.105
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SYSTEM & INTEGRATION造や仕組みの延長上で議論していてはうまくいかないということが分かります。本来、この前提を踏まえた上でDXに取り組まなければならないことになります。また、DXのイネーブラーとなるデジタル化には、DigitizeとDigitalizeの2種類があります。Digitizeはアナログ信号をデジタル信号へと変換することで、Digitalizeはデジタル技術を活用できるようにすることを指していることが一般的であると思われます。すなわち、Digitizeによりデジタル化した情報をDigitalizeすることでうまくデジタルデータを活用し、変革を起こそうというのがDXの本質であるように考えることができます。DXの本質とは、デジタル技術を用いて変革をすることにあると先に述べました。ちまたではDXという言葉で単純なDigitizeや、ちょっとしたDigitalizeをDXと称して販売されることが散見されるように思われます。先に言及したトランスフォーメーションの話を前提とすると、既存の組織や構造の上にデジタルシステムを乗せようとしてもチグハグなシステムになってしまうことが起こります。また、ITベンダが提供する各種ITツールは、前提となっている方法論や考え方が必ず存在します。例えば、PLM(Product Lifecycle Management)やALM(Application Lifecycle Management)は欧米で製品開発やソフトウエア開発を管理する方法として検討されてきたものであり、欧米の文化や業務プロセスを前提としてITツールが開発されています。日本で広まっているPLMやALMのITツールの多くは欧米のITベンダが開発したものであることからも、ITツールをそのまま導入するだけですぐに使えるようになる代物ではないことがお分かりいただけると思います。つまり、ITツールの導入一つ取っても、組織構造・業務プロセスなどのエンタープライズアーキテクチャ全体を有機的に組み替えていくことが本来求められるというわけです。ITツールさえ導入すればDXが実現できるのではなく、トランスフォーメーションした未来を描き、その未来の実現に向けた各種プロジェクトを展開することがDXのような改革に不可欠であるということになります。DXを実現するためには本質的に組織体を含めた仕組みを0から構築する必要があると先に述べました。しかしながら、そのようなことは現実的に難しいというお客さまが大半であると思います。そのため、現実的なアプローチとして「カイゼン」が行われるかと思います。この「カイゼン」という言葉が非常に厄介もので、表面的なものをいくら変えたとしても問題の真因にたどり着かないことが多々あります。そこで、次より適切な「カイゼン」を実現するための考え方についてご紹介します。DXのようなパラダイムシフトを乗り越えるための考え方として、新しいシステムをいかに設計し、運用すべきかについてJames Martin氏は図3(Seven Samurai)のようなフレームワークを提供しています [5] 。このフレームワークは問題対処のために別のシステムを適用すると別の問題を引き起こしていくことについて言及しています。例えるなら、沖縄県のハブを駆除するためにマングースを連れてきたらハブを捕食するのではなく、想定に反して別の固有生物を捕食するようになってしまったという状況と同じようなことです。そのような状況に対するトータルな仕組みとして7つの要素を考慮したシステムを構築することの重要性について述べています(厳密には要素が7つ以上存在する可能性の指摘に対してJames Martin氏本人も認めているところはあるものの、彼が黒澤明監督の映画『七人の侍』が大のお気に入りで、なんとか7つの要素にしようと試みたのが実情だとか)。まず、運用中のシステム(S1)を考えます。このシステムは、製品開発における開発プロセスや、企業の事業システムなど、さまざまなレベルのものとして考えられる代物です。運用システム(S1)において問題(P1)が発生したとします。この問題に対処するために介入システム(S2)が適用されることになります。この介入システムは実現システム(S3)によって生み出されます。介入システムはそのまま現実の問題に対して適用できれば良いのですが、実行環境の様々な影響により、エラーや性能低下などが発生しうります。それにより介入システムは実際に展開されるシステム(S4)と17DXの幻想新しい仕組みを既存の仕組みに 載せるために

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