人とシステム No.105
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腸の微生物をそのまま移植康健人による臨床実験で、健常者の便微生物をそのまま移植す予防医学と腸内フローラ 予防医学において、病気を発症していない健康者から病気の原因を取り除いたり、病気の発症を防いだりするための措置を取ることを、1次予防と呼んでいます。また、病気を発症した人をより早く診断し、早期治療を行って病気の進行を抑えることを2次予防といいます。さらに3次予防は、治療後の後遺症や再発の防止、また効果的なリハビリを行うことを指しています。プロバイオティクスやプレバイオティクスは、すべての段階の予防に適用が可能です。 さまざまな疾病の発症に腸内フローラが関わっていることから、あらかじめ予防的に腸内フローラから問題となる菌を取り除いたり、または状態を改善する作用を持つ菌を腸内に定着させたり、このような研究を軸としたこれまでにない手法の開発が期待されています。腸内環境の改善を目指した最新研究 さまざまな薬剤に対する効きやすさに、個人差があることはよく知られています。善玉菌を増やすプロバイオティクスにも、反応性が高い人となかなか効果が現れない人とがいます。腸内には、さまざまな微生物が腸内へむやみに定着することを防ぐシステムがあり、健康であれば一過的な腸内フローラの乱れを正常に戻せますが、逆にプロバイオティクス菌株をそのまま排泄してしまうこともあります。そのため、安定的に腸管に定着することで機能を発揮する菌株の開発が重要となります。 また、免疫や生体防御の観点からすると、腸内細菌やプロバイオティクスの作用は、必ずしも生菌でなくとも発揮される可能性があるといいます。例えば、少々の加熱では活性が失われない菌や、分厚い細胞壁で免疫作用が守られる死菌体など、生菌と同等の効果がある菌なども存在します。 さまざまな研究結果が多くの製品となり、身近に手に入るようになってきました。健康には、日々の食生活や運動が大切であり、きれいな腸内フローラを保つことも重要です。意識して腸内環境の改善に取り組まれてはいかがでしょうか。「腸内フローラ」は3回にわたりお届けしてきました。各号を通して、皆さまのご参考になれば幸いです。次号から新たなテーマがスタートします。お楽しみに。21ドナー便均一な便懸濁液出所:Way J.W. et al, J Formosan Med Assoc, 118: S23‐S31, 2019より改変・引用IBD(炎症性腸疾患)患者への生理食塩水に懸濁する便微生物移植の方法濾過便液を内視鏡的に患者の大腸内に注入する濾過ることで、病状が改善されたという結果が出ています。これは、便微生物移植(FMT)と呼ばれるもので、多様な研究が続いています。今後は、FMTからさらに発展し、有用な内在性微生物の組み合わせを確立させ腸内に移植する、選択的腸内微生物移植(SMT)の研究に期待が集まっています。2022年のヒット商品や流行語に、乳酸菌シロタ株が最高密度の乳製品乳酸菌飲料「ヤクルト1000」が選ばれ、腸内環境の改善に対する注目度の高さが伺えました。健康に深く関係する腸内フローラの研究についてご紹介してきた「腸内フローラの科学」は最終回を迎え、今号は身体にも脳にも大きな影響がある腸の役割と、今後期待される最新研究などをご紹介します。※おもしろサイエンス「腸内フローラの科学」(日刊工業新聞社刊2020年6月発行)著者:東京農業大学 教授 野本康二 様な期待が集まる腸内フローラとプロバイオティクス研究

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