人とシステム No.105
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展示会などに向けてオーダーが入るので、どうしても春夏秋冬のコレクション時期に集中しがちです。お客さまからオーダーを受けると、まず色見本としてビーカー染めという色の確認作業から始めます。そこで承認されると次に初回サンプルの染色、展示会サンプルの染色を行い、量産へと流れていきます。従来この最初のビーカー染めは、依頼通りの色を出すため、経験のある職人が生地と染料の特性を見極めて何度も染め直しを行う時間のかかる作業でした。そのため、繁忙期に数十社から数十色単位のオーダーが集中すると、このビーカー染めがボトルネックとなり仕事を取れないことが多くありました。そこで、ビーカー染めの作業の効率化を図るため、1995年にCCM(コンピューター・カラー・マッチングシステム)というシステムを導入しました。3多くの染料から必要な分量を自動的に配合(上)。専用のスキャナーで見本を分析することで、再現する染料を自動で選出(左下)。ビーカー染めと呼ばれる見本染めを経て製品化(右下)。一点物に近い物の量産ができるメイドインジャパンの独自技術東 この度は、御社のデジタル化における取り組みについての対談を快くお引き受けいただき、ありがとうございます。私たちのお客さまである製造業と御社の業種は異なりますが、苦労している点は同じかと思います。御社のデジタル化の取り組みから、気づきや学びへとつなげていければと考えております。まず、御社のご紹介から伺えますか。内田 先祖は、織物の産地であった群馬県桐生市で代々呉服屋を営んでいました。私の祖父が東京に出てきて染色の修行を行った後、明治42年に内田染工場を創業し、今年で114年目を迎えます。私がその3代目となります。東 歴史ある染物工場として、さまざまな製品を染色されているそうですが、御社の得意とする分野を伺えますか。内田 染色には、糸や綿を染める先染めや生地を染める後染め、縫製後の衣類を染める製品染めがあります。当社はその中の製品染めを得意としており、デザインの良さをさらに引き出すグラデーション染めやスプレー染め、独特の模様が出る板締染や刷毛染めなど、さまざまな技法を使って染めています。また、染めるだけでなく脱色をうまく組み合わせることで、日本製ならではの風合いと、これまでにない新たな価値を生み出す染色を行っています。東 御社が得意とする製品染めは、どのようなお客さまから依頼されてくるのですか。内田 アパレルメーカーだけでなく、トップアイドルやスポーツ選手、ミュージシャンのコスチューム、パリコレに参加しているようなデザイナーズブランドなども手掛けています。ほとんどの素材を染める技術を持っているので、幅広い分野でご利用いただいています。特に一点物に近い物を量産できることが、一番の強みだといえます。お客さまからは、困ったときの「駆け込み寺」のように頼りにされており、どうしてもこの素材のこの色が欲しいと、ファッションショーの前々日に依頼が入ることもあります。東 確かにアイドルグループの衣装は、それぞれが個性的なのに統一感のあるイメージになっています。これが一点物に近い量産ということですね。こういったオリジナルの染色をされている職人さんの作業を一部DX化することで、大幅な効率化を実現されたそうですが、最初に取り組まれたのはどのようなことだったのですか。内田 アパレル関連の染色依頼は、ファッションショーやビーカー染めが2週間から1日に削減できた時間を新たな研究開発へ東 CCMの導入について、職人の技術をシステム化することに反対はなかったのですか。内田 反対というより、「このようなシステムを使いこなせるか」や「自分の今の仕事を取られないか」という不安の声が多くありました。東 分かります。さまざまな職種で人工知能(AI)が普及し始めたころ、自分の仕事がなくなる、あるいはAIに使われるのではないか、という同じような不安を持たれた方も

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