人とシステム No.106
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SYSTEM & INTEGRATION19図1で示すような学術的な概念を理解するのは非常に難解です。ここではもう少しかみ砕いた形で「設計」を表現していきたいと思います。著者は設計とは「無限の解空間から解の存在可能空間を定義し、その中で目的関数に対して現時点の技術的制約を踏まえて最適なものを選び抜く行為」だと考えています。理解しやすいように図で表現すると図2のようになります。設計を始める段階は何もありません。要求を実現するにはまず、設計解が存在する空間を定めるために適切な座標系を設定します(図2ではx-y平面で表現)。次に目的関数や制約関数および関数に対する不等式を定義します。これらの関数は要求の数が増えれば増えていきます。考え得る全ての関数とその不等式で構成された領域が設計解の存在可能空間となります(図2の網掛けで示された領域)。ここまでくるとはじめて、具体的な設計行為に移れます。具体的な設計解を導出することは、解の存在可能空間から最適な点はどこなのか探す行為とみなせます。無限の解空間から解の存在可能空間を定義し、(その時点で)最適な設計解を導くことを実現するために使用するのが、SEであると著者は考えています。SEと関連が深い考え方に「デザイン思考」があります。一般的にデザイン思考と言われているものはアメリカのデザイン会社であるIDEO社によるものが流布していると言われます。デザインを思考方法として扱ったのはサイモン氏の『システムの科学』[3]で1969年に出版されました。ちょうど前述の一般デザイン学の議論と同時期に日米で同様な研究がなされていることが興味深い点です。しかし、これらは哲学的で学術的な記述が多く、理解が難しく本稿では一般的に利用されている思考手法について取り扱っていきます。一般的にデザイン思考といえば、解決したい課題に対してイノベーティブな解決法を検討し、プロトタイプとして実際に目に見える(手に触れられる)状態にすることで課題解決の可否を判断することなどに利用されています。この時、ワークショップ形式で実施することが多くあるのは、参加しているメンバーの集合知を結集するためです。たとえ同じ会社の同じ組織の人間であっても全く同じことを同様に知っていたり、全く同じ経験を同様にしたりすることはありません。また、同一組織における専門知識でも人によって差があります。知っている知識がそれぞれ少しずつ違うからこそ、一人では思いつかないようなイノベーティブなアイデアを産むことにつながります。ここでデザイン思考の一つの手法であるブレインストーミング(ブレスト)の効能について触れてみましょう。ブレストは解の存在空間を可視化することに非常に役に立つ手法です[4]。ブレストを実施することで集合知となっていけば設計解の存在可能空間を広げていくことができる可能性が高まります。誌面の都合上、今回は効能だけを記述しました。次回以降にその有用性についてもう少し具体的にお伝えしたいと思います。本稿では設計とデザイン思考、SEの関係を学術的な観点も含めながら眺めてみました。設計の本質を理解し、より良いシステムを構築するための手法としてデザイン思考やSEは非常に重要です。次回以降、デザイン思考とSEの関係についてより考察を深めていきたいと考えています。 図2 不等式による設計解の導出イメージ<参考文献>[1] 吉川弘之:一般デザイン学、岩波書店、2020[2] 吉川弘之:一般設計学、東京大学工学部精密工学特別講義資料、http://www.robot.t.u-tokyo.ac.jp/asamalab/lectures/lecture6/files/20110112GeneralDesignTheory.pdf、2011[3] ハーバート・A. サイモン:システムの科学、パーソナルメディア、1999[4] 前野隆司他:システム×デザイン思考で世界を変える 慶應SDM「イノベーションのつくり方」、日経BP、2014設計とシステムズエンジニアリングデザイン思考をいかに設計に使うかおわりに

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