4進めていきたいと考えています。どのような状況でしょうか。平田 今、自動車はかっこいいデザインになってきたので、従来技術による大量生産がますます難しくなっています。金型メーカーからすると、この難しさはチャレンジングな状況で、昔なら断っていたような造形になっていると思います。 われわれ自動車メーカーとしては、かっこいいデザインを実現する中で、人の手をなるべく省くことに取り組んでいます。先ほどお話しました磨きレスに関しても、今までの削り方ではなく切削で磨くところまでチャレンジして成果を上げています。東 御社をはじめ自動車メーカーは、そういう技術を着実に積み上げているのですね。平田 そうです。現場に対して一生懸命話すのは、われわれは金型を作っているのではなく自動車の造形を作っているということです。それに向けて技術スキルの向上やデジタル化を推進してほしいというメッセージを現場に送っています。その中においても、熟練技術者による仕上げの技術は欠かせないものであり、日本における金型のセールスポイントとして、現場の技術力も含めて実力を持っていることは間違いないと思います。デジタル化を推進しながら強化する金型の競争力東 私たちは、これからの技術として5軸加工に力を入れています。磨きレスを目標に5軸加工を極めようとしていますが、なかなか思ったようにはいきません。そこに金型技術をデジタルに変える難しさを感じます。平田 日産自動車でも磨きレスにチャレンジしています。それは、現場で汗水垂らして金型を磨く作業ができる職人が少なくなると思うからです。本当に熟練技術でしか対応できないところ以外は、早々にデジタルの領域に入っていかないと、今後の金型産業は厳しくなると思っており、自動車業界でもそれは同じです。東 話は変わりますが、新型コロナウイルスや国際紛争、セキュリティーといった観点の地政学的リスクから、これまで海外で製造していたものを日本に回帰する動きについて期待もあるかと思いますが、この動きについていかがでしょうか。平田 この2、3年で起きたことを振り返ってみても、地政学的リスクは考慮せざるを得なくなっています。今までは、グローバリゼーションを進めてきましたが、これからは地域ごとに商品軸を置いていくことになると思います。 そういった環境では、これまでのようなコスト競争力だけではなく、リードタイムの短縮が求められていきます。日産自動車が普段から金型メーカーにお願いしているのは、金型製作のリードタイムにおいて競争力を持ってほしいということです。特に一発目に部品が取れるまでのリードタイムです。日本のモノづくりを強くし、海外と競争するための努力はそこにあると思います。 もう1つが一発目から良い金型にするということです。最初から良品を製造できるようにするには、シミュレーションの活用や製品図から型図にしていく中で、今以上に高精度な技術が大切です。それらが充実してくれば、日本の金型業界における競争力の向上につながっていくと思います。それに、もともと絞りが深いとか複雑で形状の難しい部品に関しては、海外ではなく日本で製造しており、日本のみが持っている金型の技術力があるからです。東 今後の金型業界の方向性という意味からも、勇気づけられるお話ですね。 ところで、現在の自動車業界の新しい金型や金型技術は、未来の金型業界に向けた取り組みとは東 これからの金型業界を担う次世代の方々の育成については、どのような取り組みを行われていますか。平田 型技術協会の理事からは、若者に対してモノづくりや金型に興味を持ってもらうことが重要だとの意見も出ています。また、会員を増やすためにどのようなセミナーが求められているのかという議論を重ねています。東 インターネットの動画配信などを見ると、モノづくりに関して発信している若者もいるので、日本のモノづくりに興味を持っている若者は一定数いると期待しています。平田 現状としては、後継者を育てようとしても十分に人がいるわけではないし、定年近くの熟練者の知識を全て受け止められるだけのキャパシティーがある若手はそうはいないと思います。全部を継承するのではなくデジタル化で補完しつつ、人にしかできない技術のみをうまく伝承することで今の金型づくりを継続していくべきだと思います。先人の熟練者が退職した後、その技術まで去ってしまうと戻れなくなってしまいます。今、かなりの危機感を持ってい
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