人とシステム No.107
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 前回は設計とシステムズエンジニアリング(SE)、デザイン思考の関係について学術的な観点を交えて眺めて見ました。今回はデザイン思考で活用されるプロトタイピングのような考え方が、SEに対してどのように寄与するのかについて、V字モデルをもとに考えてみます。 開発工程とテスト工程の関係をV字型で表現したV字モデルは、多くの方がご存じだと思います。このモデルは、1989年のBoehmの論文[1]にて言及されています。V字モデルの特徴は、成果物のレベルで設計工程の段階およびテスト工程の段階をV時の左右で対応させていることです。V字モデルを使うメリットとして、開発段階に伴う成果物レベルに応じたテストを設計できることから、役割分担が明確になる、プロジェクトの進行状況を把握しやすい、などが挙げられます。一方で、各段階の設計における適否については、各々の段階に対応するテストが完了するまで不明というデメリットがあります。図1はV字モデルによる開発の課題を示したものです。開発が進むまでどこに誤りがあるか分かりづらいという問題に対処するためには、各段階の成果物を正しく評価することが必要です。要求工学の連載[2]で山本修一郎氏は、各工程の成果物を評価する上で、図2のような動的V字モデルを提唱しています。各段階において、その上位の成果物の設計情報(図2中の要求モデル、システムモデル、アーキテクチャモデルを指す)をアップデートし、間違いがないか判別することで、後工程で問題が発生した手戻りを防止できます。この動的V字モデルの考え方は、デザイン思考でいうところのプロトタイピングを行うことに非常に近いといえます。動的V字モデルではプロトタイプではないものの、実際にできた成果物を元に、そこまでに想定した上位の成果物における妥当性の確認(Validation)を行っているとみなすことができます。 既存のV字モデルのデメリットは、ウォーターフォール型の開発を前提としているために起こります。ウォーターフォール型開発のデメリットを克服する方法にアジャイル開発が挙げられます。アジャイル開発は、まさにデザイン思考的なアプローチによる開発であるといえます。2001年に宣言されたアジャイルソフトウェア開発宣言[3]では、図3に示すようにドキュメントやプロセスよりも顧客の求めSYSTEM & INTEGRATION10システムズエンジニアリングについて3回連載でお届けします。今回で最終回となる連載Vol.3です。 図1 V字モデルが抱える問題([2]より著者作成)株式会社NTTデータエンジニアリングシステムズ新事業企画室 企画部加藤 智之, Dr. Eng. 図2 動的V字モデル([2]より著者作成)デザイン思考からみるV字モデルはじめにアジャイル開発との対比システムズエンジニアリング 連載vol.3 デザイン思考によるシステム開発と注意点

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