Toshiyuki Nakagaki2北海道大学 電子科学研究所附属社会創造数学研究センター 知能数理分野教授中垣 俊之 様《経歴》1963年 愛知県生まれ1987年 北海道大学薬学部卒 (薬学学士)1989年 北海道大学薬学研究科修了 (薬学修士)1989年~1994年 製薬企業勤務1997年 名古屋大学人間情報学研究科修了(学術博士)理化学研究所研究員を経て、2000年 北海道大学電子科学研究所 助教授/准教授2013年 北海道大学電子科学研究所教授2008年、2010年 イグノーベル賞受賞《著書》「かしこい単細胞 粘菌」福音館書店「粘菌 偉大なる単細胞が人類を救う」文春新書「粘菌 その驚くべき知性」PHPサイエンス・ワールド新書イグノーベル賞受賞 2008年、粘菌が迷路の最短経路を見つけ、あたかも知性があるように振る舞うことを実証した研究でイグノーベル賞の「認知科学賞」を受賞。さらに、2010年には複数のエサを結んだ粘菌の管が、実際の鉄道ネットワークと類似していたことを証明したことで「交通賞」を受賞されました。イグノーベル賞を2度受賞した粘菌研究東 粘菌という単細胞生物のインテリジェンスについて研究をなさっていると伺っていますが、具体的にはどのようなものですか。中垣 粘菌は単細胞ですが、巨大化して何十cmものシート状になることがあります。その中に網目のように管が張りめぐらされていて、その管の中には、栄養や信号が流れています。それが、1時間に1cmくらいの速度で変形しながら動くことで、エサにたどり着くことができます。一つの粘菌に複数のエサを与えてみると、最短距離を結ぶ線状に変形して両方のエサから栄養を吸収しようとします。そこで、迷路の入口と出口にエサを置いて粘菌に与えてみると、徐々に二つをつなぐ管に集約されてきて、半分くらいは最短距離で迷路を解くことができたのです。また、関東の地図を使った実験では、主要都市にエサを置いて、山や川などの障害物に粘菌が嫌う光を当てて、東京の位置に粘菌を置いてみました。エサに管を伸ばしていった結果を見ると、関東地方の鉄道路線図とよく似ていたのです。人間というか社会が作った交通ネットワークと同じような経路を粘菌も作り上げることができたのです。脳のない単細胞生物が、なぜ知性があるような動きをするのかという疑問を数理学的に解明する研究を続けています。東 先生は、粘菌の研究でイグノーベル賞を2度も受賞されており、粘菌が迷路を解く研究が最初の「認知科学賞」で、その2年後には「交通計画賞」を受賞されています。そのときの感想を聞かせていただけませんか。中垣 イグノーベル賞の名前は知っていましたが、どのような賞なのかは知りませんでした。調べてみると、人々を笑わせて権威がないという印象を受け、そのセレモニーは、科学ネタの大人の学芸会みたいだと感じました。そのため、主催者に趣旨を確認したところ「本当の新しい発見とは、笑いを伴い意外性があるもので、研究の質は問わないが意外性や面白みがあって、何か奥深いことがある研究を探して顕彰している」という説明がありました。東 イグノーベル賞を受けるかどうかは、やはり迷われたのですか。中垣 そうですね、結構迷いました。過去の授賞式の1分間スピーチの会場では、笑っていたり、紙飛行機が飛んできたりしていて、どこか嘲笑されているイメージを持ちま 視点を変えて違う見方ができれば 世界は広がります
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