人とシステム No.107
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品物理化学講座で学ばれたことが起点となり、その後どのように研究の幅を広げられたのですか。中垣 薬学部でも物理が得意な方もいらっしゃいますが、あまり多くの物理を学びません。私は物理も好きだったので、製薬会社時代には、物理を取り込んだ研究を考えたりしていました。薬を作る時に、数学や物理をうまく持ち込んで研究を行う方法論は目新しく、それほど認知はされていなかったのですが、自分自身のサブテーマとしてひっそりと勉強していました。そうやって研究を進めていくうちに、大学の修士課程の頃は、あまり理解できなかった物理的な理論が、だんだん理解できるようになり見通しがよくなってきて、学生時代に到底追いつけないと思っていた先生や先輩たちの言っていることがよく理解できるようになったのです。東 物理を取り込んだ研究の経験を積まれたことで、考え方の見通しが良くなったということですね。中垣 そうですね。一般的な共同研究では、例えば自分で作ったサンプルを別の方に解析してもらうなど、強みを合わせて効率よく分業することがあります。それにより、すごく良い研究成果が出ているのですが、1人の頭の中で二つのことを知っていなければ絶対発想できないようなことが隙間として残っていると思います。実は、いろいろなところにそのような隙間はたくさんあると思います。例えば、ある一方から攻めてもうまくいかないし、もう一方から攻めてもうまくいかないという時に、両方の知識があると解決策の糸口を見つけられます。このことを強く意識しながら研究しようという発想になっていきました。東 そういう二つの目線をお1人で持つことが大切で、研究にも生かされているということですね。中垣 そう思います。今も、いろいろな先生と共同研究を続けていて、非常に優れた理論物理学の先生や、数学の先生が常にそばにいる環境です。一方で、細胞生物学の計測実験にたけた先生や、フィールドワークで野外の生き物をメンテナンスできるような先生たちも常に仲間としていて、そういう先生たちの力をお借りし、いろいろなことを教えてもらいながら、自分で消化して何か作品を作っていくという感じで研究を進めています。4下左と下中図:原生生物の培養装置。フィールドワークによりさまざまな原生生物を採集し培養方法を試行錯誤しています。粘菌に限らず多様な原生生物の野外行動を研究しています。現在、飼育している原生生物は約70種類で世界的にも屈指の数を誇ります。下右図:共同研究者の折原宏北海道大学名誉教授が開発した世界的にユニークな測定機器。レオメーターとレーザー共焦点顕微鏡を合わせて、細胞や細胞集団の力学特性を調べることができます。粘菌の特性単細胞生物「粘菌」(上右図)は、細胞膜という膜でおおわれていて、なかには、原形質と呼ばれる粘った液がつまっています。管も細胞膜で包まれていて、原形質が流れています。粘ったものが通るので、管は太いほど、また短いほど流れやすくなります。視点を変える、物事を粗く捉えるこれが研究で大事なこと東 今の時代、企業を取り巻く環境は変化が早く、1社だ

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