けで何かしようというのは、ほとんど不可能だと思っています。企業も先生の共同研究と同じように、自社の強みと他社の強みを組み合わせて、協力し合っていく時代になっています。先ほどお話があった研究仲間がたくさんいらっしゃる環境の中で、大事にされていることはありますか。中垣 私の研究では、数学の先生とモデルを一緒に作って解析してもらっているのですが、それをどういう方向で解析していくのかというのは、私の視点となります。何が前提としてあって、何が結果として出てきているのかは、きちんと理解しておきたいと常に考えています。そうでないと、ブラックボックス的に任せることになり、こちらから何も言えなくなります。私は、数学の先生にお願いしている解析に対しても意見があるときはきちんと話します。これが結構大事だと思っていて、餅は餅屋というように任せるのですが、任せっきりにならないように心がけています。東 それはいいお話です。やはり相手の世界観とこちらの世界観は少し違うので、そこは何かと共有すべきなのですが、共有しようと思っても簡単にできるものでもないですね。中垣 おっしゃる通りです。数学の先生が数理モデルを作る時に、私と会話が成立しないのです。同じ言葉を使っていても、やはり思っていることに違いがあります。粘菌の共同研究を一緒に行っていた先生とも、最初の3年間くらいは、ただしゃべっているだけでした。ところがある時ふっと、「ああ、なるほど。2年前に数学の先生が言っていたのは、そういう意味だったんだ。それはすごいことだ」と気づくことがありました。それまで散々話し合ってきたのは何だったのかと考えさせられてしまいましたが、ひとたびこのように世界観の共有ができると、その後はもう一生の付き合いになれるのです。東 長年のお付き合の中で、世界観が共有できる研究仲間を増やされていかれたのですね。他にも研究を進める上で意識されていることはありますか。中垣 そうですね。人はどうしても自分の偏見のある考えや見方で物事を見てしまうのですが、その時に視点を変えて違う見方をすることができれば世界は広がります。自分の視点は、これまでの自分の経験、自分の観点から作られるため、その外に出ることは簡単ではありません。そのため、私の研究では視点を変えることを強く意識しています。 また、0次近似や1次近似という見方をすごく大事にしています。近視眼的に一部だけ見ると全然合っていないことばかりが見えるのですが、どんどん引いていくと、おおむね合っているという見方ができるようになります。そういう1次近似というイメージで物事を粗く捉えていくことも私の研究で強く意識していることです。東 それは、どなたから学ばれたのですか。それともご自身の経験の中で得られたことですか。中垣 明示的に言っていただいたことはないのですが、恩師の上田哲男先生が、実験結果がもくろみから外れた時に、本当に軽やかに視点を変えて、もっと面白いストーリーに変えていくということをよくやっておられていました。そういうところをすごく吸収したのではないかと思います。東 視点を変える。これは難しいことですが、先生がおっしゃるように意識することが大切だと思いました。 この度は、先生の研究においての視点や考え方、共同研究での関わり方をお聞きすることができ、企業にも通じる部分がすごく多いと感じることができました。新たな研究領域である「ジオラマ行動力学」を立ち上げられているということなので、そちらでの研究成果も期待しております。本日は、ありがとうございました。5中垣教授と研究室の皆さん理論物理学、生物物理学、細胞生物学、などいろいろな専門のスタッフや博士研究員がいます。大学院生も生物専攻、物理専攻、情報専攻、人文社会科学専攻など多様な分野から集まっています。
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