人とシステム No.108
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て、人工的に再現できる術を構築し、社会に役立てることです。一例を挙げると、光化学反応の解析結果を、有機ELや有機太陽光電池に利用して、どういう色に光るか、もしくは光を吸収するのかをシミュレーションすることができます。これを応用すると、人工光合成の実現につながると思っています。その逆もしかりで、有機の太陽光電池のシミュレーションでは、どういう波長の光を吸収しているのかを発見することで、光がどのようにエネルギー変換されているのかが見えてきます。また、光が当たることにより分子の構造が変化して、例えば違う分子ができたり、それが人工光合成につながったりもするので、これらを解析するシミュレーション技術を作ることにも挑戦していて、もっと幅広い分野に使用できる技術になることを目指しています。SPECIAL REPORT3人とシステム No.108 January 2024■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■東 QunaSys様とは、量子コンピューターの活用を見据えた私たちの事業において、協業による取り組みを行っています。一般的に量子コンピューターというと、その言葉を聞いたことがあっても、実際にどのようなものなのか、どのように活用できるのか、よく理解されていないのが実情だと思います。まずは、量子コンピューターについて、簡単にご説明いただけますか。楊 量子コンピューターは、なんでも高速に計算できるというイメージがあると思いますが、今のコンピューターと全く同じやり方で使用すると処理速度は1000倍も遅くなります。量子コンピューターは、量子の特性を生かしたアルゴリズムを利用することで能力を発揮します。世の中には、今のスーパーコンピューターでも解けないものがたくさんあり、それらを解く新しいコンピューターが量子コンピューターです。計算ステップ数を少なくできる量子アルゴリズムのコンポーネントを使って量子力学を制御した計算ソフトウエアを作ることが、QunaSysが目指していることです。 また、現時点での量子コンピューターは、ハードウエアを作ること自体が技術的にもコスト的にも大変困難な状況です。一方で、仮に今すぐにハードウエアが完成したとしても、量子コンピューターを稼働させる良いアルゴリズムがないのも現実です。まさにアルゴリズムを開発する私たちのようなソフトウエア会社が頑張らないといけないところで、やるべきことはまだまだたくさんあります。東 現在は、量子コンピューターを活用して、どのような分野の研究開発を行っているのですか。楊 化学メーカーと共同で、量子化学の材料シミュレーションをターゲットに研究開発をしています。材料というのは、実際はまだ見えていないところがたくさんあり、材料の加工時にどのような反応が起きているのか全く分かっていないのです。そういうところを一つ一つ解き明かしていきながら、人類が各材料を電子、原子レベルでいかに制御するかというシミュレーション技術を作るところに挑戦しています。将来的には、その技術を使用して化学メーカーが新しい材料を作るための武器として活用いただければと思っています。東 その分野は、今のスーパーコンピューターでは、シミュレーションできないですね。もう少し詳しく説明していただけますか。楊 量子の特性を生かすことは、自然界の現象を解き明かし■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■東 量子コンピューターのスタートアップ企業を設立することになったきっかけは、どのようなことからですか。楊 私は、大学時代にドイツに留学をしていました。そのときの課題としてインターンシップ先を探すとき、私はみんながやっていることをやるのが好きではなかったので、人類のラストフロンティアであるアフリカに注目し、ケニアへ3カ月間ほどインターンシップに行くことにしました。そこは日本人が起業している会社で、インターンシップ中にその会社へ投資している投資家の方が来られ、話をする機会がありました。その後、その投資家の方とは留学先から日本に帰国してからも食事などでお会いする機会があり、これからは「絶対量子コンピューター」だと勧められました。そのときに、今もQunaSysの顧問をしていただいている大阪大学の藤井啓祐教授をご紹介いただいたことが会社設立のきっかけです。東 投資家の方に量子コンピューターを紹介されるまでは、興味はなかったのですか。

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