人とシステム No.112
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LLMの事例検索では、過去の類似事例の効果的な検索を可能とし、より自然な文章でお客さまへの回答を生成する仕組みを実装することができました。これらは既にサポート業務の一部で運用を開始しています。この新しい取り組みを、経験の浅い担当者が実際に試したところ、事例の検索時間が3分の1、回答の生成時間も4分の1にまで短縮できました。全体を通しても、専門知識や長年のスキルを有する担当者とほぼ同じ時間で作業ができ、作成した回答は概ね70%以上の類似度を維持しています。特に、インストールや操作方法に関する問い合わせの場合には、より高い類似度が確認されています(図2)。以上のことから、RAGの活用により担当者のスキルに関係なく、お客さまにご満足いただける迅速かつ効率的な対応を可能としました。一方でサポートに従事しているすべての担当者が、社内のデータベースに過去の問い合わせを整理整頓しておくことの重要性を再認識したという、良い結果を得られました。しています。少子高齢化や労働環境の変化により、専門的なスキルを持つ人材が減少傾向にある中、RAGは有望な解決策となるでしょう。特に、教育や研修に多くの時間を要する専門知識が必要となる業務の場合、担当者の経験を問わず質の高い業務を行える環境を整備できます。今後は、このRAGの仕組みを社内外へも展開していく考えです。一方で、音声や画像といったマルチモーダル対応技術の導入も視野に入れ、RAGのトレンドに沿った革新的な取り組みも行っていきます。さらに、より柔軟で迅速な情報活用を追求し、社内のDXを加速させていきます。おわりに近年、さまざまな業界で人材不足という社会問題が深刻化例の回答を組み合わせることがより難しくなります。 そこで、担当者のスキルに関係なく迅速かつ効率的な対応を可能とするRAGの活用に取り組みました。RAGはこれらの課題を解決し、事例検索の迅速化を促進するとともに回答文章のフォーマットの統一を図り、経験の浅い担当者でも高品質なサポートを行うことができます。RAGで構築したサポート業務にRAGを活用事例として、私たちのお客さまからのお問い合わせに対す13 図2 RAGの活用効果資料や社内データを容易に検索できるようにすることで、業務時間の大幅な短縮に成功している企業もあります。これは、担当者の不在や退職などで資料の特定が困難な場合にも有効です。また、社内の基幹システムとデータを連携させて、技術情報や顧客ニーズを即座に把握し、業務の効率化を進めている企業もあります。このように、RAGは企業がデータを効果的に活用し、生成AIの真価を引き出す手法として注目されています。今後も、音声や画像を対象としたマルチモーダル領域へのさらなる拡張や、専門分野での活用が期待されています。るサポート業務にRAGを活用し、作業効率が大幅に向上した取り組みをご紹介します。私たちのサービス、ソリューションにおけるサポートでは、迅速かつ質の高い対応が求められています。そのため、サポートの担当者にはサービス、ソリューションの専門知識やスキルが必要とされますが、その育成には年単位の期間を要します。従来のサポート業務の担当者は、お客さまよりお問い合わせがあると、次の3つのプロセスを行います。①過去の問い合わせ情報からの事例を検索する。②事例がない場合には、お問い合わせの現象から調査を実施する。③調査結果を明確に分かりやすくお客さまへ回答する。まず、アプリケーションごとに保存された社内のデータベースから、問い合わせに関連する事例を検索して情報を集めます。その際、検索結果が適合しないことがあり、その原因の一つに類似語や関連語を考慮するキーワードの設定の難しさがありました。その上、回答の作成でも、過去事人とシステム No.112 May 2025SYSTEM & INTEGRATION

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