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季刊誌
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No.104 | リフレッシュ
腸内フローラの科学
②心と体の健康に大切な腸内環境の改善

健康な人生を送るためには、腸内環境を改善することと正しく維持していくことが大切だと、多くの人に認知されてきました。そこで今号では、善玉菌を増やすプロバイオティクスに加えて、善玉菌を助けるプレバイオティクス、両者の組み合わせであるシンバイオティクスについてご紹介します。

※おもしろサイエンス「腸内フローラの科学」(日刊工業新聞社刊2020年6月発行)
著者:東京農業大学 教授 野本康二 様

プロバイオティクスとプレバイオティクス

1930年代から取り組まれる腸内環境の改善

「プロバイオティクス」という言葉が世界で使われ出したのは1990年代頃からで、腸内フローラとともに一般的になりました。「私たちの健康に良い働きをしてくれる乳酸菌やビフィズス菌」として日本でも広く認知されています。

学術的には、プロバイオティクスは「十分な量を摂取することにより宿主の健康に有益な作用をもたらす生きた微生物」と定義されています。日本では、1930年代にヤクルトの創始者でもある医学博士の代田稔 [シロタ ミノル] 博士が、乳酸菌シロタ株(学術名:ラクトバチルス カゼイ シロタ株)の純培養に成功し、安価な乳酸菌飲料が誕生しました。腸内の環境改善は、この頃からすでに取り組まれていたのです。

プロバイオティクスには、さまざまな疾患の予防や病状の改善作用が期待されています。

善玉菌を増やすためのエネルギー補給も有効

プロバイオティクスと並んで「プレバイオティクス」の研究も世界中で進められています。これは、「腸内で有益な作用をもたらすビフィズス菌のような微生物の増殖(活性)を特異的に促進することで生体に有用な働きを発揮する、難消化性の食物成分を指す一般名称」です。

プロバイオティクスが、私たちの健康に良い善玉菌を増やすことに対して、プレバイオティクスは善玉菌を元気にするエネルギーと言えるでしょう。ビフィズス菌の増殖や機能を促進するオリゴ糖類が、代表として挙げられます。

また、プロバイオティクスとプレバイオティクスの併用を「シンバイオティクス」と言います。善玉菌の補充とともにそのエネルギーも同時に取り入れるもので、腸内フローラの改善や感染性合併症の発病を予防するという研究結果が発表されています。特に、消化器外科、小児外科などで臨床研究が進んでいます。

プロバイオティクス、プレバイオティクス、シンバイオティクス
プロバイオティクス、プレバイオティクス、シンバイオティクス

腸内フローラに適したもち麦

著者の野本先生が着目している主食穀物に、“もち麦”があります。大麦は、お米と同じように“うるち性”と“もち性”に分かれています。うるち麦ともち麦の違いは、デンプンの1つであるアミロースの量にあります。うるち麦にはアミロースが2割ほど含まれていて、栄養として吸収されます。一方のもち麦は、アミロースがないか著しく少ない麦になります。もち麦の食物繊維含量はうるち麦より高いという特徴があり、食後の血糖値上昇を抑える、満腹感が続くなどの効果があります。

腸内環境の改善に適したもち麦
腸内環境の改善に適したもち麦

体にも脳にも影響を与える腸の健康

ビフィズス菌とオリゴ糖は健康維持の名コンビ

代表的なプロバイオティクスに、ビフィズス菌があります。ビフィズス菌はさまざまな菌種が存在し、腸内環境の改善などの健康面に加えて、ストレス緩和や認知機能維持にも作用するとの研究報告があります。

プレバイオティクスで有名なのはオリゴ糖です。多くの種類がありますが、オリゴ糖の1つである乳糖は消化・吸収されてエネルギー源、つまり栄養になります。一方、難消化性のオリゴ糖は、大腸で主にビフィズス菌の餌になります。特に腸内フローラのビフィズス菌の栄養となり、増殖させる作用があります。

天然のオリゴ糖として、最も身近なものが「母乳」です。乳糖をはじめ100種類を超える極めて多くのオリゴ糖が含まれています。そのため、乳児のビフィズス菌種は、母乳に含まれるオリゴ糖を代謝する能力に優れていると考えられています。育児用粉ミルクには、ガラクトオリゴ糖やフラクトオリゴ糖が添加されているものもあります。

脳の健康にも重要な腸と腸内細菌

プロバイオティクスは、下痢症や慢性炎症性腸疾患、アレルギーなどの軽減をはじめとする、さまざまな疾患の予防や病状の改善作用が期待されています。主な作用メカニズムは、各疾患における腸内フローラ、および腸内環境の異常を改善することによる間接的な作用と考えられます。

さらに、精神的な変化にも腸は大きく関係しています。不安や緊張、環境の変化などで、腹痛や便秘になることがあります。それは、脳が腸に影響を与えているためです。また、腸内環境が脳に影響し、心にまで変化を及ぼすことも分かってきました。これを脳腸相関と呼びます。さらに、腸内細菌も含めた、脳-腸-腸内細菌相関という考え方へと進んできています。ストレスをはじめ、現代人のメンタルヘルスにも腸内環境の改善は不可欠と言えます。現代でも実際に、乳酸菌シロタ株をはじめ、ストレスをやわらげる機能性表示食品が販売され人気を博しています。

腸内環境を正常に保つために必要な食物繊維

日本食には、質・量ともに実に豊富な食物繊維が含まれています。1日の目標摂取量は、成人男性で20~21g以上、女性で17~18g以上とされています。食物繊維の摂取不足と生活習慣病や死亡率との関連から、理想的な目標量は成人では24g/日以上と言われています。さまざまな食材からバランスよく食物繊維を摂取することが大切です。意識して食物繊維摂取量を増やすべきと考えられます。

おいしく食べて腸内環境を改善しましょう

次号は、病気にいたる以前の軽い症状がある“未病”や“予防医学”に対する腸内環境改善の有効性、微生物移植などの先端研究などをご紹介します。