人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
お客さまにお役に立つ情報をお届けする情報誌です。

No.74 | お客様事例
3Dプリンターの正しい認識を広め、
金属造形の新たなものづくりを提案

株式会社J・3D 様は、金属、樹脂の3Dプリント造形受託サービスを行われています。あらゆる産業分野の試作品、製品に関するお客様のニーズに対し、3Dプリント造形のメリット、デメリットを率直にお伝えして、効果が期待できる案件について3Dプリンターでご提案するという営業スタイルです。また、社長およびスタッフの方々は、従来のものづくりの技術に精通されているので、3Dプリンターの利点を生かした造形以外にもさまざまな技術による製造をご提案されています。

今回は、3Dプリンター事業の難しさ、そして、ご導入していただいている金属造形装置EOSINT M280、樹脂造形装置FORMIGAの活用、今後の展開などのお話をお伺いしました。

3Dプリンター主体の事業に転換

代表取締役 高関 二三男 様
代表取締役 高関 二三男 様

当社は、2010年に設立していますが、2013年にJ・3Dと社名を変更して、3Dプリンターを主体とした事業に転換して再スタートしました。

この事業転換のきっかけは、金属の3Dプリンターの記事を新聞で読んだからです。そのとき、興味を持ったというより、本当に金属の3Dプリンターがあるのかという半信半疑な気持ちの方が強く、調べてみようと思い立ちました。そして、2013年4月に東京で開催されたインターモールドに参加して、NDESブースでEOSINTの造形物を見たとき金属造形の3Dプリンターが本当にあることを認識できたのです。最初に造形物を見たとき、これはものづくりの技術革新だと直感しました。それで、付加価値を付けるためにも早く取り組むべきだと考えて3Dプリンター事業への転換を決めたのです。こうして、5月には大阪にあるNDESのAMデザインラボへ当社のオーナーと一緒に装置の実物を見学に行き、すぐにEOSINT M280とFORMIGAの見積を取りました。そして、6月には発注したので、インターモールドで造形物を見てから2カ月ほどで3Dプリンター事業をスタートさせました。

3Dプリンターは魔法の箱ではない

EOSINT M280
EOSINT M280
FORMIGA
FORMIGA

最初のお客様は、JAXA(独立行政法人 宇宙航空研究開発機構)でした。早くから受注があったのは、装置の導入前から当社のウェブサイトで金属の3Dプリンターを紹介していたからです。まず、8月にウェブサイトで金属造形の紹介記事を掲載、9月には装置の導入、そして10月に本稼働という予定で進めました。

しかし、導入後に分かったことは、当初考えていたより金属造形はかなり大変な仕事だということです。皆さんが思われている魔法の箱というイメージでは、とてもできません。

特に、電話で問い合わせがあるお客様は、何でもできる魔法の箱のイメージを持たれているので、最初にできないケースがあることをお伝えします。それから、金属造形では、アンダーカット部にサポートが必要になり、造形後はそのサポート材を除去するための後加工に時間がかかることを説明しています。これまで、約250社からの問い合わせがあり、形状についてディスカッションすると、そこで半分が断念され、3割が悩まれ、2割に受注いただけるという状況です。それだけ金属で造形可能な形状に限りがあるということです。それでも、受注している業種は、自動車関係、医療関係、航空宇宙関係があり、個人ユーザからも依頼があります。

また、東京で毎月開催されているセミナーに招かれて、3Dプリンターについて講演しています。そこでは、金属造形のデメリットをたくさんお話ししています。デメリットを強調することで、魔法の箱と思われている皆さんのイメージを払拭して、世の中に正しい認識の3Dプリンターのイメージを広げることも我々の使命だと思うからです。

金属造形への取り組み

お客様のトータルコストを削減

造形に関わる作業
造形に関わる作業
造形に関わる作業

お客様が製品開発段階で、必要になる部品の個数は1,2個である場合が多く、そのたびに金型を作って鋳造すると、1.5~2カ月はかかります。それから、試作品のテスト後に少しでも変更したい箇所があれば、金型から修正することになり、トータルで4カ月はかかることもあります。

金属造形の最大のメリットは、やはりスピードです。モデルを支給していただければ1週間以内に納品します。我々は、これまで製造業の中で生きてきたので、納期に対しての意識は強く、1週間以内の納期に拘りを持っています。

試作品の造形であれば、最短でいくと3~4日で造形しています。そうすると、お客様は短期間に複数の試作品をテストできるので、かなりのメリットがあるとおっしゃっていただいています。

また、お客様から宿題をいただくこともあります。まだ造形の実稼働を始めて半年ほどなので、宿題の中にはこれから挑戦したい方法がたくさんあります。その中には、解決策がすぐに見つからない課題もありますが、常に追い続けていくという姿勢で取り組んでいます。

一方、価格はというと3Dプリンターの金属造形は驚くほど高額です。あまりにも高額すぎて衝撃を受けられるお客様がほとんどです。ただ、スピードという面ではお客様から高い評価をいただいているので、そこを全面に出してアピールしています。やはり、依頼していただけるお客様は、金属造形の価格という一部分だけを見るのではなく、開発スピードが向上することでトータルコストが削減できる効果を期待されています。

EOSINT M280の2台目を導入

金属造形は、材料の種類によって装置に注入するガスの種類が異なります。マルエージング鋼は窒素ガス、チタンとインコネルはアルゴンガスになり、この材料を入れ替えることも大変ですが、それによってガスの切り替えも必要になるのです。その手間を省くため、2014年4月に2台目のEOSINT M280を導入しました。

さらに、2台目を導入した理由は他にもあり、同じ材料の仕事が重複したときの対応のためです。今はまだ、金属造形の知名度が低く1台でも対応はできるのですが、何かのきっかけで一気に受注すると仕事が成り立たなくなります。もしかすると納品まで1~2カ月待ちになることも考えられるので、それでは金属造形をする意味がありません。やはり、1週間以内に納品することが、金属造形のメリットなのです。

金属造形のサポート材を工夫する

お客様に設計の考え方を変えていただかないと、3Dプリンターによる造形の効果が出ない場合があります。そこで、金属造形のルールをある程度理解していただくため、お客様のところへプレゼンに出かけることも多くなりました。今までのやり方を金属造形のルールにそのまま当てはめても形状は作れないため、お客様にモデルの変更をお願いすることもあります。先ほど、アンダーカット部にサポートが必要になるという話をしましたが、当社でもサポートの作成を工夫したり、他の技術を取り入れたりしています。

それから、サポートの設計は自動設計でもできるのですが、たくさんのサポートが付いてしまいます。そこで、最適なサポートを設計したいという考えから、必要な箇所、不必要な箇所がどこなのか失敗を繰り返しながら、そのノウハウを蓄積してきました。そうした取り組みの結果、これまで造形できなかった難しい形状も適切なサポートを付けて造形できるようになりました。

最近では、サポート材の除去も、我々が取れる部分と、お客様で取っていただきたい部分を相談しています。サポート材は、外側に付いていれば機械加工でも取れるのですが、内側に付いてしまうと取ることが難しく、いかに除去するかを常に検討しています。さらに、サポート無しで造形する取り組みも始めています。

●金属(マルエージング鋼)の造形物

遊星ギア
遊星ギア
0.2mmスリット加工
0.2mmスリット加工
撹拌機
撹拌機
つなぎ目のないチェーン
つなぎ目のないチェーン
タービン
タービン
携帯電話ケース
携帯電話ケース

お客様とのコミュニケーションを大切に

スタッフの皆様
スタッフの皆様

当社はウェブサイトを営業の始まりと考えています。そのため、掲載記事のアップには力を入れていて、さらに検索されるキーワードも工夫しています。

まず、ウェブサイトから問い合わせがあると、打ち合わせをさせていただくようにしています。必ず遠方でもお伺いするようにしているので、お客様とのコミュニケーションは大切にしています。

当社の強みは、金属加工を金属造形に変えたときのメリット、デメリットを理解した上でお客様にご提案でき、さらに幅広い技術で部品を製造するノウハウをカバーしていることです。例えば、金属で見積もり依頼があっても高額すぎるため、断念されることがあった場合、それを樹脂に置き換えられないかという相談をさせていただいています。そのとき、秘密保持が必要ではない部品に関しては、用途をお聞きして樹脂でも機能を満たすようであれば、FORMIGAでの樹脂造形をご提案します。それに、樹脂に変更できるようであれば、従来の金属部品の価格より下がることがあり、なおかつ1週間以内で納品できるというメリットがあります。

また、お客様に要件を聞いて造形以外が適切であると思われる場合は、切削加工のご提案をすることもあり、さまざまな技術でお客様のご要望にお応えできるようにしています。

●樹脂(PA2200)の造形物

ギア
ギア
かご
かご
エンジン
エンジン
幾何学品
幾何学品

今後の展開について

ダイカスト金型の冷却水管への取り組み

今後は、金型部門のお客様に、ご提案できるようになりたいと考えています。特にダイカスト金型です。このダイカスト金型は高温と低温を繰り返すため、冷却水管の役割は重要になり必ず効果が出ることは分かっています。しかし、そこに一歩踏み込めない価格の問題があるのです。ダイカスト金型の冷却水管の効果を検証するには、半年もかかるため、そこに従来の4~5倍もする高額な金型を認めていただけないのです。そのため、別の方法も検討しましたが、それはクラックが発生し水が漏れてしまい、使えないという結論に達しました。結局3Dプリンターで作った一体型の金型がベストだという考えです。

ただ、価格の問題だけでなく、我々も含めて克服しないといけない課題が多くあるのも事実です。たとえば、EOSINT M280の造形領域の問題もあり、250mm×250mm×325mmの大きさではダイカスト金型には小さすぎます。自動車産業では、エンジンやグリルを作るため、最低でも600mm角は必要になるでしょう。

今後は、間違いなくダイカスト金型が金属造形の効果を一番出せると確信しているので、いろいろな課題をクリアできるように集中して取り組んでいきたいとは考えています。ただ、今は造形領域を大きくすることは現実的ではなく、そのメリットも感じられないので、現在のサイズで実現できることを地道に取り組んでいきたいと思っています。

NDESへ

NDESの技術の方には、大変良くしていただいています。我々は、金属造形が分からないところからスタートしているので、難しい形状を造形するときは、NDESに見解を聞くことが頻繁にあり、NDESと情報交換することは重要だと考えています。

EOSの装置は高額ですが、装置としての性能は高く、お客様から造形物の面の綺麗さ、精度の高さなどは評価されています。たとえ他装置の造形物と比較されても最終的にはEOSを選んでいただけます。そのため、当社も自信を持ってお客様にご提案できます。

おわりに

NDESは、EOSINTを粉末積層造形機という名称で紹介していますが、高関社長は分かりやすく説明したいという考えから、展示会やウェブサイトでは、あえて3Dプリンターという言葉を使ってEOSINTを紹介されています。最近はTVでも3Dプリンターの言葉を聞くことも増え、インターネットの検索キーワードに使われることを考えると、分かりやすい言葉で説明することの大切さを実感しました。

大変お忙しいところ、貴重な時間を割いてお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

会社プロフィール

社屋
社屋

株式会社J・3D

URL http://j3d.jp/(外部サイトへ移動します)

本社 〒455-0815
愛知県名古屋市港区油屋町1丁目30番地
設立 2010年
資本金 2,000万円
従業員 4名(平成25年9月現在)
事業内容 ・3Dプリント造形品の製作・販売
・リバースエンジニアリング
・鋼材販売