人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
お客さまにお役に立つ情報をお届けする情報誌です。

No.83 | システム紹介
IoT遠隔監視技術の確立に向けて
~機械加工設備の稼働音分析について~
株式会社NTTデータエンジニアリングシステムズ
技術開発本部 エンジニアリングシステム統括部
第一システム開発部 第三PLMシステム課
課長 井桁 謙一

はじめに

2016年5月31日に、株式会社NTTデータ、株式会社NTTデータエンジニアリングシステムズ、日立造船株式会社がプレス発表を行った「大型機械加工設備対象 IoT遠隔監視技術確立に向け3社共同による実証実験を開始」の概要と近況について、ご紹介いたします。

背景

(写真)
図1 実証実験の概念図

実証実験の対象となる機械加工設備は、大型かつ日立造船向けの特注機器であるため、代替機との交換等が難しく、短期間で復旧するためには予防保全の徹底や、故障頻度の多い部材の在庫を持つ等の対応を行っていましたが、予期できない故障には対応ができず、生産計画に影響を与える場合がありました。

ベテランの設備保全技術者のヒアリングとメンテナンス履歴の確認から、「故障」と「稼働音」に相関関係があることに着目し、設備の稼働音特性を見える化し、収集・分析することで設備の異常およびその予兆を把握して、機器の故障による生産影響を最小化するための取り組みを開始しました。(図1)。

概要

稼働音の収集環境構築については、メンテナンス履歴などから長期の異常停止に効果的と思われる部位の選定を現場の方にしていただき、センサー(マイク)の取り付けを行い、稼働音が録音できる環境を構築しました(図2)。

(写真)
図2 センサー設置箇所

次に異常音の検出は、NTTデータがNTT研究所の音響情報処理技術を利用して開発した「稼働音解析システム」を使って行いました。仕組みとしては以下の3つのステップを処理します。

①正常時の稼働音を機械学習してモデル化を行う。

②取得した稼働音の正常モデルとの乖離(かいり)度合いから「異常である確率」を判定する。

③事前に設定した閾値(しきいち)に応じてアラートを発行する。

作業内容としては、通常稼働時の音を正常音としてモデル化し、蓄積した全ての音データのプログラム分析を行いアラート表示した音を選別して、正常音であれば追加学習させるという繰り返しを行いました。

正常音かどうかの判定については、いくつかサンプル音をピックアップして現場の方にも聞いていただきました。一部からは「確かに変な音がしているが、故障につながる音なのか判断はできない」という反応がありました。それは、設備稼働中は人が近づけないような場所にセンサーを設置しているため、現場の方も初めて聞く音だったからです。

そこで、意図的に故障の状態を作ることも検討していただきましたが、実稼働中の加工設備ということもあり、生産性低下と故障のリスクがあるため断念しました。その後、ある一定の精度までは検知ができるようになりましたので、精度の向上に取り組んでいます(図3)。

(写真)
図3 稼働音判定のイメージ

分析結果のグラフについては、リアルタイムに表示できる画面を開発して、「稼働音の見える化」を行っています。こちらは、リアルタイム監視環境の運用を通してどのような気づきがあったのか、ヒアリングを実施して効果検証を行う予定です。

稼働音から故障を検知する

機械が壊れる前に「何か変な音」がしていたとか、現場のベテランの方が機械のメンテナンスのタイミングを音で判断しているといったお話をお伺いして、音による故障検知の可能性について取り組みを進めています。正常音の選定手法や工場内の多種多様な環境音の扱いなどの課題も多いのですが、稼働音を使うメリットとしては、機械加工設備の音がする場所は可動部が多く、非接触で取り付けが可能なマイクは振動センサーのように可動部直付けによる脱落のリスクが少ないため、市販のマイクでも十分に活用ができるということです。

近況と今後の対応について

お客さまの協力を得て、設備稼働ログの収集環境が整い、音データと同時期の稼働ログデータが蓄積できるようになりました。今後は、稼働ログと音データ分析結果を突き合わして相関関係がないかなどの分析を進めていく予定です。その一例として、ログデータで警告が出ているときには、決まって特徴的な音の波形が出ていることなどが分かっています。

また、分析結果のフィードバックとして、音データと相関する設備稼働ログデータをリアルタイム監視環境へ即座に表示する機能の開発などを予定しています。

幸いにして、現在まで故障による大きなトラブルは発生しておりませんが、今回の取り組みにおいて故障発生時のデータ分析をすることで、再発防止に役立つ環境の構築ができると考えています。