人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
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No.101 | リフレッシュ
折り紙の科学
②折り紙の研究から見えてくる実用化への道

第2回となるリフレッシュコーナーでは、前号に引き続いて折り紙の科学についてお届けします。今回は、複雑な折り紙を作るための設計ソフトや、折り紙のように紙や金属を折って完成品を作る折り紙式3次元プリンターやロボット、軽量で強度が高いハニカムコアの応用例などをご紹介します。

※おもしろサイエンスシリーズ「折り紙の科学」(日刊工業新聞社刊 2019年3月発行)
著者:明治大学 研究特別教授 萩原 一郎 様・明治大学 研究・知財戦略機構 客員研究員 奈良 知惠 様

リバースエンジニアリングにもつながる折り紙研究

折り紙工学の研究者の中には、折り目パターンを再現した展開図からより実物に近いものを作りたいという要望がありました。それに応えたのが、物理学者のロバート・ラング氏が1989年に発表した初の折り紙設計システム「ツリー・メーカー」です。この登場は、研究者に大きなインパクトを与えました。

その後、2007年に折り紙工学研究者の舘知宏氏が、複雑な多面体形状の折り紙を設計するコンピューターソフト、「オリガマイザー」をインターネット上に公開します。2017年には、数学者のエリック・ドメイン氏の協力も得て、新たなアルゴリズムを取り入れることで、どんな多面体でも展開図を作成することができるソフトを完成させました。その他にも、展開図の折り線の通りに実際に折れるかを判定するプログラムや、1つの完成形に対して考えられる展開図を何通りも見つけて、さらにその中のどれが折れるかを判定できるプログラムなど、広範囲の研究開発が進められています。

折り紙設計の研究開発が実現するのは「実物通りのものを折り紙でつくること」であり、この考えに応える最良な方法がリバースエンジニアリングです。各種スキャナーなどを利用して得られた3次元データをSTL データに落とし込み、積層型の3次元プリンターで造形する手法は多く見られます。一方で、この流れを折り紙工学で実現しようとする研究が、萩原一郎氏をはじめ多くの研究者の手で進められています。1枚の紙や金属板に切断や穴開け加工をしながら折ることで完成品を作る、折り紙式3次元プリンターがその一つです。積層型3次元プリンターは一体成形のため、装置によって造形物の大きさが決まるなどの制限があります。一方、大きな紙を機械で折って造形物を作る折り紙式プリンターが実用化できれば、もっと大きな見本も比較的容易に実現できるようになります。さらに、紙だけでなく金属素材にも適応する折り紙式プリンター、人間の手のように折り畳んだり、のり付けを行ったりする折り紙ロボットなどの研究も続けられています。

折り紙を折るロボット

人が両手で紙を折るように、ロボットが折れ線に沿って材料を折る新しい成形手法です。柔軟性が高く、さまざまな形状に対応することができます。

双腕折り紙ロボットのコンセプト

双腕折り紙ロボットのコンセプト

ハニカムコアと折りたためる防災用帽子

同じ形の立体図形(セル)を隙間なく並べた構造体をハニカムコアと呼びます。その中の1つである蜂の巣と同じ六角形のハニカムコアは身近な存在ではないでしょうか。六角形のハニカムコアは軽量で強度が高く、防音効果もあるという利点があります。ギリシャ・ローマの時代から、人類はこの構造体のメリットをなんとなく分かっていたようですが、産業化されるのは第二次世界大戦後まで待たなければなりませんでした。産業化のヒントになったのは、日本の七夕の網飾りだったそうで、展張式やコルゲート式といった製法が確立されたことで大量生産が可能となりました。

六角形以外のハニカムコアにも、いろいろな特徴があり有効に活用できます。例えば、展開図から折り畳んだ複数の正四角錐と正四面体(正三角錐)を直方体などの箱に充填すると、強度が増すことが分かっています(寺田耕輔氏考案)。紙製の箱に60kgの荷重を上からかけても破損しなかったという実験結果もあります。

これらの研究や実験の積み重ねから、さまざまな分野への応用が広がっています。その一つが、本稿にご協力いただいている萩原一郎氏、奈良知惠氏が2016年に参加したテレビ番組で生まれた、コンパクトにたためてヘルメット並みに衝撃吸収する最強の防災用帽子です。テレビ放映以降も改良を重ねて市販されました。

六角形ハニカムコアの製法につながった展張式とコルゲート式
六角形ハニカムコアの製法につながった展張式とコルゲート式
正四角錐と正四面体による空間充填を用いたパッキングモデル(創作と制作:寺田耕輔氏)
正四角錐と正四面体による空間充填を用いたパッキングモデル(創作と制作:寺田耕輔氏)

安全で軽く、燃えにくくて水に強いダンボール製の防災用帽子

2016年当時、防災・減災の観点からも、非常用ヘルメットの重要性の認識は高かったものの、保管や携帯の簡便さをかなえるヘルメットは見当たりませんでした。そこで、小学生が使うランドセルにも入る縦30cm×横20cm×高さ5cmのサイズで、衝撃を吸収する防災用帽子を、萩原先生、奈良先生を中心に開発。その後、企業と協力して、段ボール製の防災用の帽子として製品化に成功しました。

有限会社秦永ダンボールの「アウトリーチ防災用帽子」
有限会社秦永ダンボールの「アウトリーチ防災用帽子」

次号では、実用化されている折り紙工学の中から、大型ドームなどの建築物、自動車の衝突時の衝撃を減らすエネルギー吸収材などをご紹介します。