人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
お客さまにお役に立つ情報をお届けする情報誌です。

No.103 | 社長インタビュー
未来を開発する技術力とサポート力で
お客さまとの強い信頼関係を構築
お客さまが使いたいと思える車いすを開発する
未来を開発する技術力とサポート力でお客さまとの強い信頼関係を構築

お客さまが使いたいと思う車いすを作りたい。株式会社オーエックスエンジニアリング(以下、OX)様が開発販売する日常用車いすは、テニスやバスケットボール、陸上などといった競技用車いすの技術を還元して開発されており、多くの方が使用しています。そこには、お客さまにいつまでも安心して使っていただくという使命感と、これまでにない製品を生み出し新たな体験をしてもらいたいという情熱があります。今回は、変化する時代の中で、お客さまに寄り添いながら新しい車いすを開発し続けている、代表取締役社長の石井勝之様と語り合います。

オートバイ販売から
車いす開発販売への転換

株式会社オーエックスエンジニアリング 代表取締役社長 石井 勝之 様 Katsuyuki Ishii
株式会社オーエックスエンジニアリング
代表取締役社長
石井 勝之 様
Katsuyuki Ishii

株式会社オーエックスエンジニアリング
【創立】 1988年10月
【社員数】 38人
【本社所在地】 千葉県千葉市若葉区中田町2186-1
【事業内容】 車いすの開発・販売

事業開始の沿革
1985年から創業者である石井重行様の個人的プロジェクトとして車いすを制作し、その改良を継続。1990年9月、ドイツで開催されたIFMAショー(自動二輪車・自転車展)視察時、現地記者に自作の車いすを称賛され、事業化を決意。1992年3月OEM供給を開始。1993年4月より本格的に車いす市場に参入した。

 このたびは対談をご快諾いただきありがとうございます。OX様の車いすは、パラスポーツシーンで多くのアスリートの方が使用して好成績をあげられており、日常用車いすでも、使い勝手だけでなく素材やデザイン性も追求した商品を開発販売されていると伺っています。これは、車いす作りに対する技術力や新しい材料への挑戦、お客さまに対してのサポート体制などがあって、初めて成しえることだと思います。本日は、これまでにない車いすを開発し続けているOX様が、どのように車いすを開発し、お客さまに喜ばれているのかお話しを伺いたいと思います。

石井 本日はよろしくお願いします。当社は多種類の車いすを開発販売していますが、始まりは自身が乗りたいと思う車いすを作りたいという創業者の思いにあります。OXの創業者で先代社長の私の父は、オートバイ好きが高じてオートバイメーカーに就きました。その後、もっとお客さまと触れあってオートバイの楽しさを発信したいと独立し、1976年、東京都江戸川区にOXの前身となるスポーツショップイシイというオートバイ販売店をオープンしました。当時、数多くのオートバイ販売店がある中で、父は自社の強みを押し出すためにオートバイレース活動を始めました。自社のオリジナルパーツを装着したオートバイがレースで勝利し注目を集めることで、オートバイもオリジナルパーツも売れるという商流を築いたのです。しかし1984年、父は事故によって脊椎を損傷し、車いすを必要とする障害を負いました。そのとき父はオーダーメイドを含めさまざまな車いすを試したものの、オートバイを愛しカッコよさを追求していた自身が乗って町へ繰り出していきたいと思う車いすには出会えませんでした。そこで、オートバイのオリジナルパーツを作っていたものづくりの技術や設備を元手に車いすの開発を始め、現在のOXに至ります。

 先代の社長が車いす開発をスタートされたのですね。車いすとオートバイでは市場や製造ノウハウに異なることも多かったのではないかと思いますが、どのように軌道に乗せられたのでしょうか。

石井 当社は車いす市場の中では10年から20年ほど後発で参入したことから、何か強みが必要だと考え、ほかのメーカーがあまり力を入れていなかったパラスポーツの競技用車いすに注目しました。パラスポーツで使われる車いすは、たくさんの時間をかけて選手とのヒアリングやフィッティングを重ね、ミリ単位の要求に応えていく必要があります。その上、競技人口が少ないこともあってコストがあまり見合わず、手がけるメーカーが少ない状況でした。それに対して当社では、障害の度合いによってクラスが分かれるパラスポーツは、ある一定の使用条件のもと選手の力と車いすの力とが浮き彫りになるため、具体的な開発目標がたてられ、製品の進化が非常にしやすいと考えました。そして、そこで得られた知見や技術を日常用車いすの開発にフィードバックを図っています。現在では売り上げの9割を日常用車いすが占めており、その収益を競技用車いすに投資し、素材や構造をはじめとする開発技術を日常用車いすに還元するビジネスモデルを構築しています。

千葉県にある本社の工場では、競技用の車いすの製造を手掛けています。1台1台、図面を見ながら細かい調整を重ねて組み立てていきます。
千葉県にある本社の工場では、競技用の車いすの製造を手掛けています。1台1台、図面を見ながら細かい調整を重ねて組み立てていきます。

勝つというお客さまの課題を
解決する技術力と提案力

NTTデータエンジニアリングシステムズ 代表取締役社長 東 和久 Kazuhisa Higashi
NTTデータエンジニアリングシステムズ
代表取締役社長
東 和久
Kazuhisa Higashi

 パラスポーツの競技用車いすとなると、選手1人ひとりの細かい要求を車いすに落とし込んでいくことになるため、とても難しいことだと感じます。

石井 そうですね。競技用車いすはフルオーダー製で、プロかアマチュアかに関わらず工数は同じくらい多くかかります。勝つことが選手のビジネスであり価値になるので、私たちもどうしたら勝てるか、どうしたらメダルの色をもう一段輝かせられるか熱い思いで向き合います。当社では競技ごとに専門の担当者を置き、選手との信頼関係を通してプレイスタイルやニーズの理解に努めています。そして、これまでの技術や知見を実装したイメージを図面に起こして、製品を提案していきます。例えば同じプロであっても、トップの選手は車いすに大きな変化を望まない傾向があり、一方トップに追いつけ追い越せと苦心している選手は、車いすに今までにないような変更を求めることがあります。また、アマチュア選手の場合には、そこまでビジョンが明確ではないことが多いため、車いすに何を求めるか探り当てるのがとても難しいです。困難なご依頼も多いですが、私たちはどんな悩みや要望にも手を差し伸べられる技術やノウハウを持っていなければなりません。そこには、お客様が使いたいと思える車いすでなくてはならないという創業時からの思いが基本にあります。

 お客さまへの課題解決力と、求められている価値を生み出すための提案力ですね。私たちも個々のお客さまと一体となってどのようにすればお客さまのビジネスを成功に導くことができるかという思いでソリューションを提案していますが、そこでまずお客さまにとって使い勝手の良いシステムでなければいけないと考えています。

石井 お客さまと一対一の関係で作り上げていくことも含め、私たちのものづくりと通ずるところがありますね。また、いくらお一人ずつの使いやすさを追求して作っても、一度で完成することはありません。実際に使用することで気づくこともあり、当社でもまず作っては試していくことを繰り返しています。

 システム開発のアジャイルという手法にも似た工程ですね。とくに変化の速い現在、私たちも開発の速度をさらに上げて、速やかにお客さまのビジネス環境に対応することはもちろん、常に最新のIT技術を用いた、システムを提案すべきだと考えています。そこで私たちも、開発スタイルを変えていこうとしています。従来のシステム開発では、2、3カ月かけてお客さまから聞き取った要件を定義書にまとめて作りこんでいましたが、時間がかかるためコストがかかり、さらにその間に環境が変化すればシステムに求められる役割も変わってしまいます。そこで、お客さまの課題を即座にシステムに落とし込んで試していただき、そこで出た課題をまたすぐにシステムに落とし込むという流れを1カ月程度で行えるようにしたいと考えています。

石井 当社もシステム開発の依頼をした時に、要件定義書の作成に苦労した覚えがありますね。私たちにとって慣れない用語や網羅的に伝えられない事柄もあって、最初に全てのシステム要件を固めることはとても難しく感じました。

 お客さまのそうした負担を減らしたいと思っています。そのためにもますますお客さまのニーズを読み取る力が重要になってくると考えています。

あるべき姿を改めて実感できた
最新日常用車いすZZR

 先ほど、2021年12月に販売開始された日常用車いすのフラグシップモデルを拝見しました。この製品にもパラスポーツの成果が反映されているということですね。

石井 ご覧いただいたのは2003年から提供している「ZZR」シリーズの最新モデルで、「CARBON GPX」というレース用車いすの技術を応用したチャレンジングな製品です。特に今回は素材を変えることに挑戦し、軽量化と乗り心地の向上を実現させています。

 まさに厳しいパラスポーツ競技の場で磨き上げられた技術ですね。具体的にどのように改良されたのでしょうか。

石井 当社の日常用車いすとして初めてアンダーフレームにカーボンファイバーを採用したほか、従来アルミニウムを使っていた箇所をマグネシウムに置き換えるなどの改良をしました。自動車のシャーシにあたるアンダーフレームにカーボンファイバーを用いることで、走行時の衝撃を吸収し、不快な振動を抑えられます。アンダーフレームはサイズ展開があまりなく、必要な金型の種類も少なく済むことからカーボンファイバーが有用です。一方、お客さまの体格や使い方に応じたバリエーションが必要な箇所には、ベンダーによる曲げ加工やTIG溶接ができるマグネシウムを採用しました。さらに製造工程でも、フレームの試作に初めて3Dプリンターを使うなどの試みをしました。

 素材にかなりの目新しさが表れていますね。洗練されたデザインにも目を引かれましたが、お客さまからの反響はいかがですか。

石井 2021年12月からご注文の受付を始めたのですが、昨今の世界情勢から部材調達などが遅れており、1月の時点で8月まで納品が延びるとアナウンスせざるを得ない状況でした。ところが、ありがたいことにそれ以降もご注文が入ってきています。

これにより、世の中にないものを作ればお客さまは待ってくださるのだということが分かり、また、それがOXの強みであると再認識しました。当社は「未来を開発する」をビジョンに掲げており、もともとチャレンジ精神の強い会社だったのですが、時間が経つにつれ保守的な会社になっていたのではないかと感じています。未来を開発しなくなったらOXは社会に存在意義がなくなってしまう、そうした思いでチャレンジしたこの新しいZZRが、ご評価を得られたことで、社員もOXのあるべき姿を改めて実感できたと思います。

2021年12月にモデルチェンジした「ZZR」には、多くのレース経験の中で磨き上げてきた技術が反映されている(写真右)。マグネシウム合金とカーボンファイバーで構成されるハイブリットフレームを採用したことで、軽量かつ衝撃を吸収する。その元となったのは、レース用車いす「CARBON GPX」(写真左)。上の写真は、2019年7月に開催された第24回関東パラ陸上競技選手権大会で活躍する同製品。
2021年12月にモデルチェンジした「ZZR」には、多くのレース経験の中で磨き上げてきた技術が反映されている(写真右)。マグネシウム合金とカーボンファイバーで構成されるハイブリットフレームを採用したことで、軽量かつ衝撃を吸収する。その元となったのは、レース用車いす「CARBON GPX」(写真左)。上の写真は、2019年7月に開催された第24回関東パラ陸上競技選手権大会で活躍する同製品。

新しい価値や体験を提供する
かけがえのない存在となる

 これまでにない製品を世に出すことはリスクもありますが、やはりチャレンジを続けることも重要ですね。未来を開発しよう、新しい試みに挑戦しようという思いは、聞いていてワクワクします。

石井 自分たちの製品が今一番手であっても、世に出た時点で古いものになりますから、その先を目指さないと当社の存在意義に反することになると思っています。また、当社は車いす市場で後発だったことから、市場投入に後れをとったときの苦労も痛感しています。二番手以降の製品は、先行製品の特長と重ならないようにするため開発の自由度が減り、価格面での制約も出てきます。市場初はリスクが高くてもリターンも大きいので、カバーしうるリスクなら新しい提案を重ねていきたいと考えています。こうしたことを踏まえ、当社の思いを落とし込んだ製品を市場にぶつけて訴求し続けています。市場で見えている情報からは今ある要望や課題にだけ応じることもできますが、理念実現のためにも、お客さまに新しい価値や体験を提供する存在でありたいです。ただ、それには撤退の見極めも重要ですね。判断には痛みも伴いますが、早めに手を打てる体制が必要だと特に最近感じています。

 私もプロジェクトの撤退を考えるとき社員の頑張りを思うと迷いが出てしまいます。ですが、タイミングを逃すと次のチャレンジに割けるリソースもなくなってしまうため、あらかじめ撤退基準を決める仕組みにしています。

石井 やはりこれは共通の悩みなのですね。早めに手を打てる体制は必要だと思いますし、常にチャレンジできる領域を見据えることも大切ですね。

 車いすは困難なことを補助するための装具という認識が私の中にありましたが、今日お話を伺ってイメージが変わりました。この先ますますお客さまにとって新しい体験が広がっていきそうですね。

石井 はい。日々、お客さまにどういう新しい体験をしてほしいか、そのために何が提案できるかを考えます。例えばOXの車いすを使うことで、今まで諦めていたところに行けたり、それによって楽しみが生まれたりすることも新しい体験だと思います。また、今後の挑戦として考えているのは購入時の体験です。日常用車いすは、モデルごとにパーツの種類や寸法、色などのバリエーションを多数用意してあり、お客さまの使用環境や好みに応じて、選択いただいたものを組み合わせるAssemble To Orderの方法をとっています。現在は対面でご要望を聞き取って注文書を作成していますが、この手法や考え方をアップデートしてデジタル化を進めれば、WEBでのご注文もできると思います。この構想の背景には人口減少の深刻な問題があり、すでに販売代理店の閉業により、お客さまへの直接のフォロー体制が危うくなってきている地域もあります。当社の車いすを購入してくださったお客さまとは生涯のお付き合いになりますから私たちの活動にとどまることがあってはなりません。

 改めて、OX様がお客さまにとって必要不可欠な存在であることに感銘を受けました。システム開発でも、自動車の自動運転や、それに伴ってOver The Airという搭載されたソフトウエアをオンラインでアップデートする手法が普及していることからも、ソフトウエアの品質が社会の安全に強く影響を及ぼす時代がやってきています。お客さまとともに成功するために、私たちにとって、開発プロセスを含めたソフトウエアの徹底的な品質管理や強固な信頼関係の構築がますます大きな責務になります。私たちも目まぐるしく生まれてくる情報や技術を広くキャッチアップし、自分たちのものにして、お客さまに提案していかなくてはいけないと改めて思いました。

石井 車いす業界の先をいく業界には、たくさんのヒントがあって、その価値観や手法も取り入れながら、どういう方向に世の中が進んでいくのかを見極め、その中で当社がどういう役割を担っていかなければならないかを考えていますね。そうすることでOXのビジネスの成長にもつながり、そこからまた新たにお客さまへ還元をしていくことができると考えています。

 私たちも、お客さまが成功する未来を一緒に描いて提案を続ける、かけがえのない存在を目指していきたいですね。本日は貴重なお話しをいただき、ありがとうございました。