人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
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No.106 | リフレッシュ
新幹線の技術
①高速で軽やかに、そして安全に走る日本の新幹線

リフレッシュコーナーの新しいテーマは“新幹線”です。世界初の高速鉄道である新幹線について、「トコトンやさしい新幹線技術の本」で紹介されている内容から、日本の新幹線ならではの安全性や安定した高速運転、快適性など、誰かに教えたくなるような情報を今号から2回にわたってお届けします。

※今日からモノ知りシリーズ「トコトンやさしい新幹線技術の本」(日刊工業新聞社刊2021年5月発行)
著者:辻村 功 [つじむら いさお] 様

外観も車両の軽量化も日本の最新技術の粋

新幹線独特の先端形状は“トンネルドン”対策

1964年の開業から半世紀以上、九州から北海道まで日本列島を縦断している新幹線は、年間の輸送人員が4億人を超え、日本国内での移動手段として欠かせない存在です。列車運転に起因する乗客の死亡事故ゼロという安全性と安定した高速運転は、日本が誇る高度な技術によって支えられています。

列車を走らせると空気抵抗がかかります。この空気抵抗は、時速100㎞未満ではほとんど走行に影響はありません。しかし、最高時速260~320kmになる新幹線では急激に増加するため、先頭形状、車体断面積、車体側面形状、床下機器形状など、いろいろな要素に工夫を凝らすことで空気抵抗の軽減を実現しています。特にトンネル内は空気抵抗が増加するため、出口でドンという破裂音が発生することがあります。いわゆる“トンネルドン”と呼ばれる現象で、車内や近隣への騒音対策としてトンネルドンへの対応が必要です。近年の新幹線で目を引くのが独特の先端形状で、飛行機のように丸みのある鼻の部分が、伸びたり変形したりしてきました。これは、圧縮波が生じないための技術なのです。

“トンネルドン”はトンネル微気圧波

高速列車がトンネルに突入すると、圧縮波が生じて音速で伝搬します。これがトンネル微気圧波で、トンネル出口でドンという破裂音が発生することがあります。その対策の1つが新幹線独自の先頭形状です。その他にも、トンネル出入り口の形でも工夫が施されています。

“トンネルドン”はトンネル微気圧波

車両本体の軽量化を支えるアルミ製段ボール形状

高速走行を安定させるには、車体の軽量化も重要です。東海道新幹線の開業当時は1両当たり約55トンでしたが、現在はその約8割の約44トンとなり車体の軽量化を達成しています。

その1つが車体材料の見直しで、普通鋼からアルミ素材に変更されました。現在の新幹線の車体は、アルミ素材の特性を生かした中空押出型材、ダブルスキンという段ボールのような材料を採用することで軽量化が大きく進みました。その他にも、車両重量の1/3を占める台車における構造の変更や主電動機の小型化などによる軽量化など、あらゆるところで車両重量の軽減に取り組んでいます。

アルミ中空押出型材で構成した車体
アルミ中空押出型材で構成した車体

新幹線は日本の風土に適応した安全技術の結晶

豪雪対策の車両構造が空気抵抗を軽減

南北に長く延びる島国であり山国でもある日本は、北国や山間などでの大雪も心配されます。東海道新幹線の関ヶ原付近は山あいの降雪地帯で運行に影響が出ることもあり、東北から北海道へと北へ延び、上越・北陸と日本海側に延伸することで、さらに雪害対策が重要となります。

車両側の雪害対策の1つとして、床下機器を車体と一体にして覆うボディマウント構造が着雪防止に役立っています。特に上越新幹線の豪雪地帯で大きな効果がありました。さらに空気抵抗の軽減にもつながり、安定した高速走行を実現しています。また、上越新幹線などが走る豪雪地帯では、線路に温水を散布する消雪設備を設けるなど、それぞれの地域の気温、雪質、降雪量に応じて最適な対策が施されています。そのため、よほどの豪雪でない限り、新幹線が雪で運休することはありません。

貯雪設備とボディマウント構造

車両の下部まで一体で成形し、その内部に床下機器を搭載するボディマウント構造です。さらに、列車や除雪作業車両で除雪した雪を落とす貯雪スペースを設けることで、雪害対策を施しています。

貯雪設備とボディマウント構造

着雪防止構造が地震の時にも活躍

2004年10月26日、新潟県中越地方を震源とする最大震度7の中越地震が発生しました。時速約200㎞で走行中の上越新幹線「とき325号」は非常ブレーキが作動すると同時に10両中8両が脱線しました。しかし、連結を保持したまま線路から大きく逸脱せずに停止したことで、死傷者はゼロでした。その後の調査では、着雪防止対策として採用したボディマウント構造により車両全体が覆われていたことで、飛行機が胴体着陸するようにレール上を滑走したことがわかりました。

現在の新幹線の車体では、中越地震での事故を教訓として脱線しても線路から逸脱しない対策が施されています。例えば、台車にL字型のガイドを取り付けて逸脱を防止するL型車両ガイドは、2011年3月11日に発生した東日本大震災でも機能し、逸脱を免れたという実績があります。

L形車両ガイド
L形車両ガイド

次号では、新幹線がきれいな車内環境や快適性を保つためにどのように工夫されているのか、そして、見つけると幸せになれるという都市伝説がある黄色い新幹線「ドクターイエロー」など、日本が誇る新幹線の楽しさをお伝えします。