人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
お客さまにお役に立つ情報をお届けする情報誌です。

No.108 | リフレッシュ
環境発電
①地球に優しく現代社会に欠かせない発電

リフレッシュコーナーは今号から2回にわたり“環境発電”をお届けします。環境発電は「身の回りのさまざまな環境からの微小な未利用エネルギーを用いた発電」を意味し、振動、熱、光、電波、生物などがエネルギー源になります。電源配線や電池不要なデバイスが主流となる現在のIoT社会や、「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」というSDGsの目標に対して、電気が使えない場所でも役立つ技術として環境発電は注目を集めています。

※今日からモノ知りシリーズ「トコトンやさしい環境発電の本」(日刊工業新聞社刊2021年11月発行)
著者:山﨑 耕造 様

微小なエネルギーを利用して機器を動かす

100年以上前から使われていた環境発電

大規模な自然エネルギー発電である風力発電、地熱発電、太陽光発電など一般的な系統接続は、環境に優しいエネルギー源として活用されてきました。一方で、より身近な微小エネルギーを用いる環境発電の歴史も古く、20世紀初頭となる100年以上前の鉱石ラジオをはじめ、1936年の自転車のダイナモ発電ランプ、1970年代のソーラー電卓やソーラー腕時計などに使われてきた技術です。

環境発電の利用にはいくつかの条件があり、①近くに系統電源がないこと(海上や過疎地など)、②運動する物体で配線が困難なこと(腕時計など)、③微少な電力でまかなえること(間欠的な利用や消費電力の少ない機器利用など)、④コスト的に配置作業や配線作業をなくしたいとき(長距離に及ぶ高速道路の監視など)、⑤危険回避のため機器の保守管理をしたいが作業はなくしたいとき(火山観察など)といった状況での活用が期待されています。

環境発電の歴史

環境発電の特徴と仕組み

環境発電の特徴は、独立した電源と無線を使った通信です。基本的なシステムとしては、環境発電で動くセンサ部とそれを制御する外部装置とは無線通信でつながります。センサ部の電源は環境エネルギーを利用することで、外部電源とつなげたり電池を利用したりする必要がありません。制御装置とも有線で結ばないことで、メンテナンスがほとんど不要となります。また、破棄する電池も出ない地球環境に優しいシステムです。

しかし環境発電システムにもいくつかの課題があります。まず、微小な環境エネルギーを用いた電源なので、小電力で動くデバイスにしか対応できないことです。さらに、運転しないときに小さな電力を集めて、間欠的な運転で短時間に電力を使うため、それに対応できる蓄電池デバイスが必要になります。消費電力が小さい無線装置の開発も必要となります。

環境発電システム

身近なエネルギーを有効活用

さまざまなエネルギーは変換が可能で、いろいろな発電方式で電気エネルギーに変換されています。環境発電の主なエネルギー源である振動、熱、光、電波、生物に対して、実際に発電を行う運動・温度差・光・電波・バイオを使った環境発電がどう実用化されているのか見ていきましょう。

運動や温度差を利用した環境発電

力学エネルギーを利用する運動の環境発電には、人の運動などによる振動発電、押しボタンなどの変形発電、蛇口の水流などの流動発電といった力学運動が使われます。すでに歩行時の振動エネルギーを利用する床発電が開発され、実証実験も行われています。また、水道の水流で発電して赤外線センサや電磁弁を動かす自動水栓も製品化されています。

温度差を利用する環境発電の実用的な事例として、発電鍋や発電キャンプストーブなどがあります。2011年3月11日に発生した東日本大震災以降は、照明、暖房、発電として活躍する防災用品として販売されるようになりました。

自動水栓での流水発電
(出所:https://www.bioliteenergy.jp/(外部サイトへ移動します)

光、電波、バイオを利用した環境発電

環境発電の一つとして太陽光エネルギーは、幅広く用いられ、屋内でも照明光などで発電利用がなされています。実際に屋内光で発電するマウスや、光発電で温度・湿度・照度の他に、気圧や内蔵リチウムイオン電池の電圧値を測定する環境センサなどが製品化されています。

最も古い環境発電の鉱石ラジオは、ゲルマニウムラジオとも呼ばれて電波による発電を利用していました。最近では、電波エネルギーを使って温度・湿度などを計測してデータを送ってくる環境モニターや、インプランタブル(埋め込み)式の医療用デバイスの開発が進められています。

バイオによる環境発電は、微生物、植物、動物、さらに人体からエネルギーを得る発 電です。人間の尿を使う尿発電、非常用の塩水電池、レモン電池などのフルーツ発電などもあります。

エネルギー源とエネルギー変換