人とシステム

季刊誌
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No.108 | 社長インタビュー
社会に大きな変革をもたらす 量子コンピューター
量子化学計算による革新的な材料開発を目指して
社会に大きな変革をもたらす量子コンピューター 量子化学計算による革新的な材料開発を目指して

Quantum Native Systems(量子ネイティブシステム)を意味する株式会社QunaSys様は、量子コンピューターのアルゴリズム開発を通して、量子技術でより良い社会を作ろうとまい進するベンチャー企業です。研究開発が加速している量子コンピューターが実用化されれば社会に大きな発展をもたらすと期待されています。国産量子コンピューターの開発も進み、技術的に進展する中、最先端技術の先陣を切るQunaSys CEOの楊天任様にお話を伺いました。

社会での量子コンピューターの活用を目指して

株式会社 QunaSys CEO 楊 天任 様 Tennin Yan
株式会社 QunaSys
CEO
楊 天任 様
Tennin Yan

株式会社 QunaSys
株式会社 QunaSys( キュナシス)
【創立】 2018年2月
【所在地】 文京区白山1-13-7 アクア白山ビル9F
【資本金】 1億円
【従業員数】 50名(男性44名、女性6名)
【事業内容】 量子コンピューターを用いたソフトウエア開発
量子技術関連コンサルティング

 QunaSys様とは、量子コンピューターの活用を見据えた私たちの事業において、協業による取り組みを行っています。一般的に量子コンピューターというと、その言葉を聞いたことがあっても、実際にどのようなものなのか、どのように活用できるのか、よく理解されていないのが実情だと思います。まずは、量子コンピューターについて、簡単にご説明いただけますか。

 量子コンピューターは、なんでも高速に計算できるというイメージがあると思いますが、今のコンピューターと全く同じやり方で使用すると処理速度は1000倍も遅くなります。量子コンピューターは、量子の特性を生かしたアルゴリズムを利用することで能力を発揮します。世の中には、今のスーパーコンピューターでも解けないものがたくさんあり、それらを解く新しいコンピューターが量子コンピューターです。計算ステップ数を少なくできる量子アルゴリズムのコンポーネントを使って量子力学を制御した計算ソフトウエアを作ることが、QunaSysが目指していることです。

また、現時点での量子コンピューターは、ハードウエアを作ること自体が技術的にもコスト的にも大変困難な状況です。一方で、仮に今すぐにハードウエアが完成したとしても、量子コンピューターを稼働させる良いアルゴリズムがないのも現実です。まさにアルゴリズムを開発する私たちのようなソフトウエア会社が頑張らないといけないところで、やるべきことはまだまだたくさんあります。

 現在は、量子コンピューターを活用して、どのような分野の研究開発を行っているのですか。

 化学メーカーと共同で、量子化学の材料シミュレーションをターゲットに研究開発をしています。材料というのは、実際はまだ見えていないところがたくさんあり、材料の加工時にどのような反応が起きているのか全く分かっていないのです。そういうところを一つ一つ解き明かしていきながら、人類が各材料を電子、原子レベルでいかに制御するかというシミュレーション技術を作るところに挑戦しています。将来的には、その技術を使用して化学メーカーが新しい材料を作るための武器として活用いただければと思っています。

 その分野は、今のスーパーコンピューターでは、シミュレーションできないですね。もう少し詳しく説明していただけますか。

 量子の特性を生かすことは、自然界の現象を解き明かして、人工的に再現できる術を構築し、社会に役立てることです。一例を挙げると、光化学反応の解析結果を、有機ELや有機太陽光電池に利用して、どういう色に光るか、もしくは光を吸収するのかをシミュレーションすることができます。これを応用すると、人工光合成の実現につながると思っています。その逆もしかりで、有機の太陽光電池のシミュレーションでは、どういう波長の光を吸収しているのかを発見することで、光がどのようにエネルギー変換されているのかが見えてきます。また、光が当たることにより分子の構造が変化して、例えば違う分子ができたり、それが人工光合成につながったりもするので、これらを解析するシミュレーション技術を作ることにも挑戦していて、もっと幅広い分野に使用できる技術になることを目指しています。

図
Qamuy/量子化学計算クラウドサービス
量子アルゴリズムを用いて量子化学計算を行うクラウドサービス。
<Qamuyの用途>
・量子コンピューターで量子化学計算を実行
・量子コンピューターのパワーを評価
・カスタムの量子ワークフロー構築
QPARC/量子コンピューターの活用に取り組む企業コミュニティー
世界に先駆けて量子コンピューターの活用に取り組むための企業コミュニティー。
講義とプログラミング演習を通して、量子コンピューターのハードウエアとアルゴリズムを深く学びます。さらに、学んだアルゴリズムなどを実際に動かし、どのように量子コンピューターが活用できるかを共同で検討します。

スタートアップ企業としてのQunaSys社の設立

NTTデータエンジニアリングシステムズ 代表取締役社長 東 和久 Kazuhisa Higashi
NTTデータエンジニアリングシステムズ
代表取締役社長
東 和久
Kazuhisa Higashi

 量子コンピューターのスタートアップ企業を設立することになったきっかけは、どのようなことからですか。

 私は、大学時代にドイツに留学をしていました。そのときの課題としてインターンシップ先を探すとき、私はみんながやっていることをやるのが好きではなかったので、人類のラストフロンティアであるアフリカに注目し、ケニアへ3カ月間ほどインターンシップに行くことにしました。そこは日本人が起業している会社で、インターンシップ中にその会社へ投資している投資家の方が来られ、話をする機会がありました。その後、その投資家の方とは留学先から日本に帰国してからも食事などでお会いする機会があり、これからは「絶対量子コンピューター」だと勧められました。そのときに、今もQunaSysの顧問をしていただいている大阪大学の藤井啓祐教授をご紹介いただいたことが会社設立のきっかけです。

 投資家の方に量子コンピューターを紹介されるまでは、興味はなかったのですか。

 量子コンピューターにはまったく興味がなく、よく知らなかったくらいです。大学時代は、新しい技術を社会に出すということに興味があり、機械学習の勉強をしていたのですが、もう少し新しい何かがないかと思っている時に量子コンピューターと出会いました。もともとは、エンジニアとして関わるつもりだったのが、代表として会社を設立することになったのです。

 量子コンピューターで新技術を社会実装するというテーマになったということですね。ところで先ほど伺った企業との共同研究の他に国が進めているプロジェクトにも参画されていますが、どのような活動を行っているのですか。

 複数の国のプロジェクトに参画しています。例えば、文部科学省の光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)という、経済・社会的な重要課題に対し、量子科学技術(光・量子技術)を駆使して、非連続的な解決(Quantum leap)を目指す研究開発プログラムがありますが、その中の若年層向けの量子人材育成のプロジェクトを担当しています。他には、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)にも参画させていただいています。

 QunaSys様は、量子コンピューターのアルゴリズム開発を推進されていますが、日本のスタートアップ企業として今後はどのようにお考えですか。

 日本のスタートアップ企業として、今後、当たり前にグローバルで戦っていけるということはすごく重要だと思っています。日本における量子コンピューターの市場は大きいですが、分子の物理法則は全世界同じなので、日本だけで技術が完結するとは考えられません。そのため、米国の量子コンピューターを使ったり、御社のようないろいろなパートナーとも協業をしたりして、国内外の企業と連携しながら技術を作っていかなければならないと考えています。そういうところは本当に重要だと思います。

社会での活用に向けやるべきこと

 私たちが使用していた初期のコンピューターでは、メモリ容量が限られており、メモリの割り当て操作をしっかり行わないと、思ったような結果が出力されないという大変な時代でした。今の量子コンピューターもそのような状況なのでしょうか。

 まさに今はその状況です。私が勝手に言っているのですが、将来的にはノイマン型量子コンピューターを作りたいと思っています。量子メモリが別にあって、量子インターネットを使って、量子センサーから情報がきて、そこからプロセッシングユニットにデータが転送されるようなイメージです。今は何も実現できていませんが、そういう量子コンピューターを使ってもらうことで、いろいろな人が活用の仕方を考えることになり、新しい世界が広がっていくのだと思います。

 早くそのような新しい世界を見たいですね。ところで、日本の量子コンピューターの開発における強みはどのようなところですか。

 日本は、世界の中でも理論物理学、理論化学の分野がすごく強いので、世界で戦える技術を作ることができると思っています。その中で、量子力学というツールを使って、物性物理学とか素粒子の振る舞いを解き明かす研究をしてきたメンバーが多くいて、量子力学を使いこなすQuantum Nativeが多いというところが、日本発のスタートアップであるQunaSysの強みです。また、先ほどお話した若年層向けの国のプロジェクトに参加しているのは、出会う機会が少なく不思議と思われている量子に興味を持って物理学を学んでもらい、さらに大学に入学してからも量子の分野に進んでもらえるような活動が必要だと思っているからです。新しい技術は作るだけではなく、いろいろな人が活用して初めて広がるというところがあるので、そこまで取り組んでいくことが重要だと思っています。

 それは、知らないうちに社会の皆さんが量子コンピューターを使っているようなイメージでしょうか。

 そうですね。量子コンピューターは、今のスーパーコンピューターのように、社会を裏から支える技術だと思うので、量子コンピューターを皆さんが直接使うというよりは、社会の中で知らないうちに使用しているようになると思います。

 最後に、QunaSys様の今後の目標をお聞かせください。

 量子コンピューターは、2030年の実用化に向けて世界中の研究者が尽力しています。QunaSysとしては、2025年か2026年くらいまでに、すごくニッチでもいいから、何か面白い使い方ができないかと考えています。いつも例えているのが、弾道計算のために開発されたENIACの計算機です。そういう特殊用途でもいいから何か一つ実用例を作ることができれば、そこから2030年の実用化を見据えることができるようになると思います。また、私たちは「未来を描いて、今作れるものを作ろう」という理念を掲げています。なぜなら、量子コンピューターの未来を作る時に、量子コンピューターのアルゴリズムだけを作っていても達成できないと思っているからです。私たちは、量子コンピューターのテクノロジーを作るだけでなく、どうやって量子コンピューターが活用される社会を作っていくかということをよく話しています。でも自分たちだけで実現するには限界があり、実業務のシステム開発で知見を持っていらっしゃる御社のような企業と協力をしながら、量子コンピューターの実用化に向け開発を進めていく必要があると考えています。

 私たちも、お客さまが量子コンピューターを使用して新しい技術開発や製品開発に活用していただける未来に向け、QunaSys様と取り組んでいきますので、これからもよろしくお願いいたします。本日は、貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。