成長するグローバル企業
片山工業株式会社様の本社は、岡山県の南西部に位置する井原市にあります。雨の日が少ないことから“晴れの国おかやま”と呼ばれ、満天の星を楽しめる美星町が有名です。同社はこの地で長年にわたり、板金加工技術を駆使し、各種自動車部品を主力とした外装部品、ボディー部品、エンジン・排気系部品などの製造を行っています。現在は、東京都の恵比寿に設立された片山ホールディングス株式会社様が片山グループの中核となり、日本・米国・メキシコ・マレーシアといった海外拠点を結び、グローバルな事業を展開しています。
POINT |
---|
1. 地元に貢献する日本企業の良さを生かし、グローバル企業として活躍 |
2. 途絶えていた金型内製化に取り組む、若手育成の“金型プロジェクト” |
世界で活躍する自動車部品メーカー
片山グループ
自動車部品を中心とした金型、専用機、生産ラインの設計から製作までの一貫体制を整え、独自技術を持つ片山工業様は、薄板を折り紙のように曲げ加工した部品を製造する板金加工のロール成形を得意としています。特にボディー部品は複雑な3次元形状となるため、ボディーに合わせた曲げ加工の技術は同社の強みとなっています。
創業から77年、会社設立から65年という歴史の中で、独自技術で製造した部品が日本の自動車産業を支えてきました。同社の歩みについて代表取締役社長の片山昌之様は次のように説明します。「1947年に祖父の片山覚而が、自動車の排気系部品の製造を始めて、1959年に片山工業株式会社を設立しました。祖父は、独自の発明で特許を取得するなど根っからの技術者でした。2代目の社長として、1980年に父の片山典男が引き継ぎました。父は、日米の自動車貿易摩擦が激しかった1980年代に海外展開を積極的に推進するなど、新しい経営方針を示し、米国のケンタッキー州に現地法人カタヤマアメリカンを設立しました。そして私は、片山グループの親会社として片山ホールディングス株式会社を2017年に設立し、国内の片山工業をはじめ、海外拠点の米国、メキシコ、マレーシア、中国、韓国、タイの自動車部品の事業を集約しています。また自動車以外の新事業として、2023年にKatayama New Business Corporationを設立し、人々の幸せと地球環境に着目した製品、サービスの提供を始めました」
社員を大切にしながら
地域貢献を重視する社風
片山工業様の特徴の一つに、地域貢献を大切にする日本企業ならではの経営姿勢があります。片山社長によると「事業を始めた祖父も、それを引き継いだ父や私も、井原市への地域貢献に注力してきました。その一つは納税の役割です。500名以上の雇用を維持しながら会社の利益を上げて、社員に還元することで、法人税、所得税が市の税収増となり地域の活性化につながります。もう一つは、企業として成長を続けていくことです。そうすると新しい雇用が生まれ、井原市で生活の基盤を築く社員が増えるので、地元経済の好循環を促すことができます」と話します。
地元貢献に加えて、社員を大切にするという視点は、グローバルで活躍する同社ならではの取り組みにもつながっています。このことについて片山社長は「男女ともに活躍できる企業でありたいと思っています。特に出産・育児で女性社員が離職することを選ばないように働きやすい職場環境や制度を充実させています。今では100名以上の女性社員が働いています。その取り組みの一つが、会社の敷地内にある保育園で、ここには社員のお子さんだけではなくお孫さんも通園しています。また、会社説明会に来られる大学生の7割が女性で、県外からの参加者もいます。その他にも社員の健康を考えて、添加物を使わない、塩分控えめ、野菜がたくさん入ったメニューを本社の社員食堂で提供しています」と説明します。
片山グループの新規事業
Katayama New Business Corporationが推進するビジネスのキーワードは“健康”です。
産後女性をサポートする産後ケアごはん “for her.” や、主に岡山県内で提供する宅配弁当サービス “おもいやり弁当”。さらに新しい発想の乗り物としてペダルを踏むことで走る電動アシスト3輪車“ウォーキングバイシクル”の開発・製造・販売の他、次世代技術商品の水素吸引器など新しい製品を開発しています。
Space-Eで取り組む
未来に向けた金型プロジェクト
片山社長に主力である自動車部品事業の方向性を伺うと、「やはり、競争に勝つための技術力をもっと強化していきたいし、製造力として効率の良い生産にも力を入れていきたいと思っています。それには、金型の設計・製作の技術を若手社員に伝授して次の世代に引き継いでいくことが重要だと捉えています」と話します。
片山工業様は、30年以上前までは金型を内製していましたが、バブル崩壊やコストカットの要求などの影響もあって、金型は安価な海外への外注依存が進みました。この状況に対して「量産を行っている部品メーカーにとって金型は命です。かつてのように金型の設計・製作まで自社でできるように金型革命を起こす必要があります。まずは、優秀な幹部候補や生産技術での次世代のエースを集めて、5年、10年かけて金型の内製化に向けた技術者の育成を行う金型プロジェクトを始めました」と片山社長は説明します。
若手技術者の育成と金型の内製化を推進する金型プロジェクトのキーマンが、金型設計・製作に熟知したベテラン技術者である片山テクニカルセンター・チーフエンジニアの山本一幸様です。私たちがご提供しているCAD/CAM製品を、GRADEからSpace-Eまで30年以上もご利用いただいている長年のユーザーでもあります。
金型業界の現状と技術者育成について山本一幸様は次のように説明します。「金型の職人が少なくなるだけでなく、後継者不足で会社を廃業される金型屋さんが増えているため、外注先の減少傾向に歯止めがかからない状況です。この状況を踏まえて金型の内製化を進めるにあたり、片山テクニカルセンターが中心となって若手社員を育ててほしいと社長が立ち上げたのが、先ほど説明にあった金型プロジェクトです。私自身、これまで積み重ねてきた技術を若い人に引き継いでもらえることをありがたいと思っています。現在、この金型技術の習得に取り組んでいるのが、片山テクニカルセンター2名、本社10名の優秀な若手社員です。そして、Space-Eが金型プロジェクトの中核になるCAD/CAMとなります」
若手社員の一人であるスーパーバイザーの山本大地様は、金型製作についてトータルで対応できることを目標とされ、Space-Eの習熟にも励んでいます。「まだSpace-Eの操作経験は2年弱ですが、少しずつ慣れてきました。Space-Eは分かりやすい操作画面なので、慣れてくると業務のスピードアップが可能だと思います。3次元CADの操作は初めてでしたが、以前から使っていたスマートフォンの3D画像編集アプリやゲームなどと感覚的には似ていたので、違和感なく操作できました。また、コマンドが無数にあり、いろいろな可能性があるように感じています」と山本大地様は、ご利用いただいているSpace-E 2023について話します。その他、コマンドのアイコンにカーソルを置いたときに表示されるコマンドの説明も便利とのことです。
山本一幸様が若手社員を育成する場合、まずは加工から学んでもらうと言います。「マシニングセンターのオペレータから始めて、手が空けば汎用の旋盤やフライスを学んでもらいます。実際に形状を削ったり、ワイヤーで加工しながら金型製作を経験することで、ものづくりの喜びが分かるのです。金型を完成させ最終的にお客さまのところでトライを行い、うまく製品が成形できたときの感動は大きく、金型製作の一翼を担っているという存在感と達成感が実感できてその後の成長に大きく役立ちます」
その後の広がりを山本一幸様は次のように話します。「今後、海外拠点にもSpace-Eを中核とした金型技術者を増やしていくので、日本と同じレベルで金型が作れるようになります。さらに、米国で受注した案件をSpace-Eの同じモデルを見ながら全拠点で検討して、最適な案を出すこともできます。このように技術やノウハウの共有をグローバルに図っていきたいという社長の考えです」
その上、営業と金型技術、生産技術、調達の各担当者が一つのチームとなり、営業先で発生した要望に対してすぐに回答、提案ができる体制を築きたいという構想が片山社長にあります。案件ごとに対応するには複数のチームが必要になるため、さまざまな人材育成の重要性を片山工業様は注視しています。
AIの進歩による
NDESへの期待
NDESへの希望を伺うと、片山社長は「ITや生成AIがどんどん進歩する中でも人間でなければできない部分は多いと思います。これから金型技術のトレーニングを実施する上で、人間が行うべきもの、CAD/CAM、ロボット、コンピューターでやるべきものをきちんと区分けしながら開発を進めていってほしいですね」と話します。
山本一幸様も「Space-Eの機能強化にも期待していますが、それを超えたAIの活用をお願いしたいと思います。例えば、支給された3次元モデルから金型に展開するときに見込み変形を行いますが、面が荒れたときの対処法をいくつか提案してもらえると解決するまでの時間が短くて済みます。また、CAMの方も荒取りはトロコイド加工でざっと取って仕上げはこれでというような提案をしてもらいたいと思います。会社ごとに特徴があるのでその傾向をAIが判断してSpace-Eの操作性を高めるアドバイスが得られると助かります。その他、コールセンターにもAIを導入して時間外でも対応を可能にするなど、NDESだからこそできる、技術的な進歩に期待しています」と話します。
今後について
「金型内製化の技術を蓄積していくことで、自動車部品だけではなく、まったく異なる産業製品を量産するとき、この金型技術を生かすことができます」と片山社長は他分野への応用を話します。既に片山テクニカルセンターには、自動車以外の産業からも金型づくりの依頼がきているそうで、金型技術者の育成には大きな期待が寄せられています。
今後について山本大地様は、「技術者として成長すること、それと効率良く作業を行って残業時間を削減することも目標にしています。昔から金型の設計・製作は長時間労働になりがちですが、技術力を付けることで納期を守りながら労働時間を短縮してワーク・ライフ・バランスのとれた働き方改革につなげていきたいと思っています」と目標を話します。
グローバルな事業を展開する片山グループですが、海外拠点でも日本企業として培ってきたノウハウをそのまま持ち込んでいるとのことです。片山社長によると「米国でも日本式で経営しています。一度もレイオフを行ったことがありませんし、日本と同じように社員を大事にしています。米国は、リストラやレイオフの経験がある社員が多いので、危機意識を持って仕事をしてくれています。
一方で、日本では、そこまでの危機意識が薄いことが心配です。社員には安心して働いてほしいですが、製造業の激しい競争の中、この先もずっと安泰だとは限りません。その意識を持って、全社員が個人レベルを上げていくために、常に勉強することが大事だと思っています。その一つが、今回お話した金型プロジェクトを中心とする金型の内製化や新しい事業への取り組みです」と言います。
金型に興味を持ち、やってみたいと思う若者が意外と多いと聞きました。今後も金型技術者を目指す若者が魅力ある片山工業様から増えていくことと思います。私たちNDESは、片山工業様の成長にお役に立ちますよう努力を続けます。
会社プロフィール
片山工業株式会社
設立 | 1959年11月 |
---|---|
資本金 | 9,600万円 |
本社 | 岡山県井原市西江原町1005-1 |
従業員数 | 518名 (パートタイマー含む・2023年3月時点) |
事業内容 | 各種自動車用部品、福祉機器用品、農業用機械部品、建築用部品、各種専用機械の製造・販売および輸出入業務 |
片山テクニカルセンター | 東京都葛飾区東四つ木4丁目30-11 |
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