人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
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No.109 | リフレッシュ
環境発電
②IoTからIoHへと夢が広がる発電

太陽光、風力、地熱などを発電源とする、自然エネルギーの系統発電に対して、身の回りのさまざまな環境からの微小な未利用エネルギーを用いた発電を環境発電と呼び、これまで数多くの試みが行われてきました。

さらに近年では、電力消費が非常に少ない回路が開発され、幅広い応用が可能となってきました。今号では、環境発電の応用事例やその未来をご紹介します。

※今日からモノ知りシリーズ「トコトンやさしい環境発電の本」(日刊工業新聞社刊2021年11月発行)
著者:山﨑 耕造 様

さまざまな分野への応用

電源不要のスマートデバイスたち

最初に誕生した自動巻きの腕時計は、腕などの振りを半円形のおもりの回転エネルギーに変換してゼンマイを巻く機械式腕時計でした。その後、ゼンマイの代わりにおもりの回転で発電する自動巻き電気腕時計が現れました。さらに、太陽光電池ユニットを用いて蓄電する太陽電池式腕時計や、体温を利用した熱発電の腕時計、熱と光を併用する腕時計も発表されています。

ところで、近年作られているスマートハウスは、インターネットで家電を制御したり、エネルギーを最適化したりすることで安全・安心で快適な暮らしを実現しています。IoTやAIなどの技術を駆使した環境を構築したスマートハウスの例として、環境発電を用いた照明制御用の無電源ワイヤレススイッチがあります。スイッチを押す力学エネルギーを電気に変えて照明器具や制御装置にオン・オフの信号を送るもので、文化財や美術館の照明スイッチにも使われます。

その他、ロンドンのスマートストリートでは、床発電システム(電磁誘導)が採用されています。

スイッチ発電

社会でも人体でも活躍する環境発電

長距離道路のインフラ整備やアクセスが制限されている高速道路の監視・維持には、太陽光の他、車走行による振動を用いた環境発電が利用されています。

また道路だけでなく、自動車でも環境発電として未利用エネルギーを活用する回生ブレーキが採用されています。電気自動車やハイブリッド自動車では、加速時には電気モータを利用した電気加速が行われ、減速時には、モータにより運動エネルギーを電気に変換し、車のバッテリーに充電されます。エネルギーは相互に変換が可能なため、放電して加速、減速時に充電というやりとりが可能となります。これが回生ブレーキで、電気自動車だけでなく、電車、エレベーター、電動アシスト自動車などにも採用されています。

その他、人体のエネルギー源での発電も開発されています。運動や腕などの振動だけでなく、汗の乳酸塩を利用したバイオ燃料電池発電や摩擦を利用した静電発電などがあり、それらを組み合わせたものを使って、時計やスマホなどの充電に利用することが期待されています。

事例 床発電システム(電磁誘導)

ロンドンのスマートストリートは、三角形のタイルが踏み込まれて起こる運動エネルギーを電力に変える設計で、人々が通るたびに発電し、鳥の声が流れます。夜はLEDランプが点灯します。

期待される、さらなる発展と浸透

環境発電のための蓄電と通信

環境発電に必要な蓄電の条件は、①微小電力をゆっくり蓄電可能である、②間欠的な蓄電でも電力が安定化できる、③蓄電した電気の短時間利用が可能である、という3つです。実際の蓄電デバイスとして、化学的な蓄電池(2次電池)か静電的な蓄電池が用いられます。どちらも電力損失が小さく、長寿命の急速充電・放電が可能な蓄電装置が必要となるため、蓄電器として電気二重層キャパシタ(EDLC)が用いられます。EDLCの性能は従来のコンデンサと2次電池との中間であり、高速充放電が可能なため環境発電に最適です。

環境発電に欠かせないものとして無線デバイスがあります。環境発電用無線デバイスでは、待ち受けの受信をせずに、間欠的な片側送信のみとすることで、低消費電力化するのが一般的です。短距離の無線通信として、交通系ICカードで使われる近距離無線通信のNFC、RFタグという専用タグと近距離の無線通信を非接触で行うRFIDをはじめ、低電力ながら少し広域まで通信可能な無線LPWAN(Low Power Wide Area Network)などが開発されています。

環境発電の未来

電池交換や電源配線が困難な場合の他、災害時にも環境発電技術は役に立ちます。さらに、一般的な環境発電以外に台風や津波などのエネルギー利用も研究されています。その他、宇宙空間では太陽エネルギーの利用が必要です。宇宙空間で太陽の影になる場所や、太陽系外への航行時には、放射線の放射エネルギーによる熱を使った原子力電池が使われます。また、宇宙空間にあふれているエネルギーとして宇宙線発電もあります。

このような環境発電の技術は、適切に活用することでさらに利用範囲が広がります。微小なエネルギーの機器に関して有効であり、特にメンテナンスフリーのIoT機器に最適です。さらに、ICTデバイスはウェアブル(装着型)からインプランタブル(埋め込み型)へと進化しています。IoTからIoH(Internet of Human:ヒトのインターネット)へと変遷していき、インターネットがモノからヒトへつながっていくでしょう。今後は、環境発電の技術を活用した埋め込み型のIoTデバイスへの期待が集まっています。

自立電源の必要性
ICTデバイスの進展

近い将来には、手や脳に埋め込まれたデバイスが、AI技術とビッグデータ技術によって融合されることで、社会の有機的なネットワークが構築されるかもしれません。

 

 

2号にわたり掲載した「環境発電」は今回で終了します。次号から新しいテーマでお届けいたします。