①脚光を浴びる次世代技術“フードテック”
食と先端技術が結びついた技術・商品・サービスなどの総称として用いられるフードテック。その範囲は多岐にわたりますが、中でも代替肉、藻類食品、昆虫食、陸上養殖、植物工場、スマート育種などが特に注目されています。今回のリフレッシュでは、人口増に伴う食糧・栄養不足への処方箋として注目集まるフードテックをご紹介します。
※図解よくわかるフードテック入門(日刊工業新聞社刊 2022年2月28日発行)
編著者:三輪泰史 様
食×先端テクノロジーがフードテック
本格化するさまざまな技術
既存の産業やビジネスなどにIoT、AIの先端技術を掛け合わせたものをX-Techと総称します。その中の農業・食品分野として、アグリテックとフードテックの二つがあります。アグリテックは、スマート農業という呼び名の方が浸透しています。農産物の生産・流通のスマート化が対象です。一方、アグリテックよりも広範囲に食料・食品をカバーしているのがフードテックで、さまざまな技術が含まれます。
生産の前段階である品種改良技術としては、ゲノム編集や遺伝子組み換えなどが含まれます。次の段階である生産で特に注目が高いのが、代替肉や培養肉、植物工場や陸上養殖で、IoT技術やAI技術の進歩でより高度な管理、制御が可能となっています。さらに、流通、加工・管理、販売・提供などのサプライチェーンでも、技術革新が本格化してきています。

注目を集める日本のフードテック
世界的に食料問題が深刻化する中、代替肉や陸上養殖のように良質なタンパク質を効率的に供給できる手段が求められています。また健康増進のため、藻類食品や植物工場の野菜のように機能性物質を含む食品へのニーズも高まっています。優れた食と技術を有する日本にとって、その掛け合わせであるフードテックは大きなチャンスがある分野です。
また、食料安全保障や産業振興などの面も熱い期待を背負っています。フードテックの活用によって国産の食品を安定供給することができれば、輸入依存度を下げることが期待できます。経済面でも、高い技術力を活かした新規事業の立ち上げが盛んになっています。
“ポテトショック”から見る日本のフードセキュリティ
日本でもいろいろな食品の値上げや欠品のリスクが顕在化しています。その一つがポテトショックで、主に①ポテトチップスの値上げ・欠品と②フライドポテトの欠品、の二つがあります。主な要因は天候不順や、不安定な輸入などです。複数の大手メーカーが原料の国産化を掲げており、消費者から味・安全性・地域貢献などの面で高く評価されています。

身近になりつつある代替肉と藻類食品
代替肉の中核は植物肉と培養肉
代替肉とは、従来の飼育された家畜の肉ではない、新たなタイプの肉を指します。その中には植物性タンパクの植物肉と動物性タンパクの培養肉があります。
大豆、小麦、えんどう豆などの植物性原料を使った植物肉で、大豆ミートやブラントベースといった表現の商品やメニューも出てきています。日本では、大豆などを使った伝統的な食品で、植物性タンパク質を摂取してきました。がんもどきは、僧侶のための精進料理として、まさしく肉の代替となる食品でした。植物肉はその延長線上の商品といえます。
また、培養肉は肉の細胞を人為的に培養したもので、比較的最近の技術です。日本よりも海外が先行して商品化などを進めています。家畜由来の食肉と同じ物質で、この点が植物肉とは大きく異なります。
藻類の種類によって魅力・形態はさまざま
半世紀以上にわたり研究が行われてきた藻類食品は、近年、新たな食品として注目を集めています。改めて注目されることになった理由として以下の三つが挙げられます。
(1)タンパク質危機の顕在化
大豆と比較して、藻類は15倍のタンパク質生産能力を持っていると試算されています。
(2)健康意識の高まり
高齢化に伴う予防医療への関心の高まりから健康食品の需要が拡大傾向にあります。
(3)他の用途での需要の高まり
藻類は食品のみならず、医療品、化粧品、化学製品、飼料、肥料、そして燃料まで、実に幅広い分野に応用可能な原料を作り出すポテンシャルを秘めています。
藻類には、ワカメやコンブなどの大型藻類から、ミドリムシやクロレラなどの微細藻類までさまざまな種類が存在します。日本では古くから大型藻類を食品として広く親しまれてきました。また、微細藻類であるクロレラは、タンパク質含量が高く、栄養素をバランスよく含むことから、1960年代頃から健康食品として販売されてきました。
藻類は、一般的に「タンパク質」「炭水化物」「脂質」「ビタミン」「ミネラル」など、人間の体に必要な多くの有用成分を含んでいます。特にタンパク質含有率は乾燥重量当たり40%から70%と、植物性タンパク質源の代表格である大豆よりも優れています。
マーガリンの歴史から学ぶ代替肉のブランド戦略
編著者である三輪泰史氏は、「代替肉という名称は、その構成要素である植物肉や培養肉の価値をきちんと表現できているのかという点に疑問が残ります。そこで思い出されるのが、マーガリンの過去の名称変更です」と指摘します。マーガリンが開発された当初は、「人造バター」という名称がつけられていました。しかし、バターのメーカーからの反発や、「人造」という響きを理由とする消費者の敬遠などから、結果的に1952年にマーガリンに名称が改められました。バターとマーガリンの関係は、まさに食肉と代替肉の関係性と相似形となります。

次号のリフレッシュでは、フードテックの中から昆虫食、陸上養殖、植物工場、スマート育種などをご紹介します。お楽しみに。