人とシステム

季刊誌
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No.112 | リフレッシュ
パワー半導体デバイス入門
①現代社会に欠かせないキーデバイス

現代社会に欠かせない電気を、それぞれの機器で利用するには電力変換が必要となります。そのために不可欠なパーツがパワー半導体デバイスです。普段、目にする機会が少ない言葉ですが、現代社会に欠かせないキーデバイスで、スマートフォン、パソコン、テレビ、自動車、電車、産業用機器、風力発電など、あらゆる装置の電源に活用されています。

※今日からモノ知りシリーズ「トコトンやさしいパワー半導体デバイスの本」(日刊工業新聞社刊 2024年2月9日発行)
著者:松田順一 様

電気利用では欠かせない陰の立役者

電力の変換を担うパワー半導体デバイス

電気をパワー源として利用する電気機器では、それぞれの利用環境に適合した電気を使う必要があります。また、直流(DC)か交流(AC)か、必要とする電流、電圧、電力は何かといった条件があり、それに合わせるための電力変換が求められます。それを司る機器の一つがパワー半導体デバイスで、パワー半導体、パワーデバイスとも呼ばれ、電気機器を作動させる電力変換を行うための半導体デバイスの総称です。パワー半導体デバイスでは、高速でスイッチをオン・オフするスイッチング動作によって、必要な電源を作っています。

電力変換の基本機能としては、①AC-DC変換(コンバータ)、②DC-DC変換(コンバータ)、③DC-AC変換(インバータ)の3つがあります。①AC-DC変換は、家庭用のAC電源で電子・電気機器を使えるようにします。②DC-DC変換は機器内での各種DC変換に使います。③DC-AC変換は機器内のモーター駆動電源などに利用されます。①~③を合わせると④AC-AC変換(インバータ)になります。この場合、入力側と出力側の周波数と電圧が変わります。

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グリーンイノベーションにも貢献

電気機器を作動させるには、適合した電気を供給する電源回路が欠かせません。電源回路は、供給される電力を変化させるパワー半導体デバイスに加えて、電力を蓄積、放出する受動部品(コイルと容量)で構成されています。電源回路内では、パワー半導体デバイスをスイッチング動作させることと、受動部品にエネルギーを蓄積したり放出したりすることの組み合わせで、所望の電源を作ります。

パワー半導体デバイスは、従来の抵抗器を使った方法よりエネルギーロスが少ないことで省エネと言われていますが、どのような条件であってもエネルギー損失をさらに低く抑えるように研究が進んでいます。これは、政府主導のグリーンイノベーションの観点に合っているとして、パワー半導体デバイス開発は注目を浴びています。

グリーンイノベーションは、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする目標を掲げた「2050年カーボンニュートラル」を実現するための取り組みです。経済と環境の好循環につなげるための日本の新たな成長戦略として注目されています。

研究開発の進展で目指す次世代のパワー半導体デバイス

パワー半導体デバイスの種類

パワー半導体デバイスを大分類すると、制御端子がなく電流を一方向に流すことで整流動作をするパワーダイオード、制御端子への入力信号によりスイッチング動作ができるパワートランジスタとパワーサイリスタがあります。パワーサイリスタは、パワートランジスタに比べて大電力を扱えます。

これらのデバイスの半導体材料として、一般的にケイ素が用いられています。ケイ素はシリコン(Si)とも呼ばれていますが、高耐圧で大電流になるとスイッチング時とオン時の損失が大きくなります。そこで、これらの損失を低減するため、次世代パワー半導体デバイス材料として、ワイドギャップ半導体が注目されています。

ワイドギャップ半導体は、従来のシリコンを使った半導体よりもバンドギャップが広い半導体で、高温に強い、高電圧や高出力に強い、エネルギー効率が良いなどの特徴があり、次世代のパワー半導体デバイスと言われています。バンドギャップとは、電気が流れる時の壁の高さに例えられるエネルギー差のことで、バンドキャップが広いと電気を流しにくく、狭いと流しやすくなります。半導体の特性に関連する重要な性質です。材料としては、炭化ケイ素、窒化ガリウム、酸化ガリウムなどが検討されていて、すでに製品化されたものも多くあります。それぞれ特徴が違うため用途も変わってきます。

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社会のあらゆる場面で活躍

パワー半導体デバイスは、手のひらサイズのデバイスから大規模インフラまで、幅広く活躍しています。

小さなものでは、スマートフォンの急速充電器をはじめ、LED照明の電力制御、補聴器、ゲーム機、パソコン、テレビなどの小電力電子機器、エアコン、洗濯機、掃除機、冷蔵庫などの中電力電気機器、さらにインフラや巨大設備として、電車のモーター制御、送電網で使用される電力変換設備、風力発電などの大電力電気機器のスイッチング電源、工場のモーター制御システムなどで使われています。用途によって設計や使用する部品などは異なりますが、基本的な動作原理はすべて同じです。充電器と電車も、パワー半導体デバイス的には親戚のような関係になります。

電気自動車を支えるキーデバイス

電気自動車でも多くのパワー半導体デバイスが使われています。滑らかな発進のためのパワーとトルクの制御、減速時には回転数を落とす制御が必要です。

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次号のリフレッシュでは、半導体と電気の関係、パワー半導体材料の特性や各デバイスの機能などをご紹介します。お楽しみに。