人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
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No.113 | システム紹介
BIOVIA製品の紹介
候補化合物生成のAIアプリケーション
BIOVIA Generative Therapeutics Design
株式会社NTTデータエンジニアリングシステムズ
エンジニアリングインテグレーション事業部 第二システム開発部 開発課
高橋 萌々香

はじめに

昨今DX化の流れによって、業務をデジタル化するためにさまざまなシステムの導入が進んでいます。しかし、業務ごとにシステムが乱立し、データの検索や比較、再利用の作業が複雑になるという課題に直面することも多いと思います。特にライフサイエンスの分野では、個別化医療や治療法の革新が急速に進展し、AI技術を駆使した開発競争が加速しています。企業は規制に対応しながら、開発および製造プロセスの効率化を求められています。

このような状況の中で、私たちはダッソー・システムズ社のBIOVIA製品を活用することで、AI創薬における研究結果のデジタル化を推進し、それによるデータ連携やデータ分析、品質文書管理など幅広く支援しています。本稿では、BIOVIA製品である候補化合物生成のAIアプリケーション「BIOVIA Generative Therapeutics Design」を中心に概要をご紹介します。

BIOVIA Generative Therapeutics Design

図1 BIOVIA Generative Therapeutics Designの候補化合物生成サイクル
図1 BIOVIA Generative Therapeutics Designの候補化合物生成サイクル

個別化医療や新規治療法の開発では、より迅速かつ効率的に候補化合物を設計・評価できる技術が求められています(図1)。創薬支援アプリケーション BIOVIA Generative Therapeutics Design(GTD)は、AIを活用して数万から数百万の化合物を仮想生成し、特性評価、最適化を通じて有望な候補を抽出することができます。

その特長は、「新規化合物の生成」「特性評価」「多目的最適化」「最適化合物の選択」の大きく四つに分けられます。

  • 新規化合物の生成

標的タンパク質や作用機序に応じた条件をGTDに指定するだけで、AIが自動で膨大な数の化合物を創出します(図2)。

図2 条件に応じて生成された化合物例
図2 条件に応じて生成された化合物例
  • 特性評価

生成された候補化合物に対して、ADMET(吸収・分布・代謝・排泄・毒性)や合成難易度といった複数の評価指標に基づいてグラフ化することができます。図3の各グラフでは、中央に太く表示されている線が実験結果の平均値を表し、最大値と最小値の差が小さいほど有望な化合物に少しずつ近づいていることを意味しています。

図3 特性ごとの評価グラフ
図3 特性ごとの評価グラフ
  • 多目的最適化

GTDは単一指標だけでなく、複数の指標を同時に考慮した最適化処理を行い、バランスの取れた化合物を色付きで提示できます。緑色が指標を満たすもの、黄色が指標に近いもの、赤色が指標を満たさないものが表示されます(図4)。

図4 実験結果の一覧
図4 実験結果の一覧
  • 最適化合物の選択

実験結果の比較分析において、実験回数を繰り返すことで化合物の形がどのように変化するかを分析できます。この分析結果を通じて、最終的に開発候補となる最も有望な化合物を絞り込むことができます(図5)。

図5 実験回数ごとの結果の比較グラフ
図5 実験回数ごとの結果の比較グラフ

これらの機能は、事前に用意した学習モデルを複数組み合わせて実行します。実験ベースのアプローチでは、GTDを活用することで数ヶ月を要するプロセスを短時間で完了することが可能になります。属人的な判断を排除でき、意思決定の透明性と再現性を向上することができるのも、GTDがもたらす大きな価値となります。

その他のBIOVIA製品

次にBIOVIA主要製品をご紹介します(図6)。

BIOVIA Notebook:

研究開発を促進する電子実験ノート

化学・バイオ・製薬分野に特化した電子実験ノートです。実験データや観察結果を一元的に記録し、リアルタイムでチームメンバーと共有・共同編集できます。化学構造や反応式の入力に対応し、自動計算や化学式検索も可能です。テンプレート利用、バージョン管理、電子署名、PDF出力、高度検索機能により、データの透明性と再現性を確保し、知的財産保護や迅速な意思決定に寄与します。

BIOVIA Pipeline Pilot:

化学研究におけるデータ処理ソリューション

化学研究分野のデータ収集から可視化までの一連の流れを自動化するソリューションです。専門知識を必要とせず、アイコンのドラッグ&ドロップでデータ処理フローを構築し、統計解析や機械学習を含む約3,000種の処理ツールを活用できます。複数システムからの一括データ収集、定期実行可能なデータ処理の自動化、Webブラウザ上での簡単実行により、研究開発の生産性を飛躍的に高めます。

BIOVIA Structured Content Editor:

構造化文書作成アプリケーション

実験データ資産を活用した効率的な文書作成を実現するアプリケーションです。社内外の実験データや観察結果をテンプレートに自動反映させ、規制当局向け申請書類や社内報告書を容易に作成できます。文書作成状況の可視化、変更履歴の追跡、過去バージョンへの復元、コメントやレビューのデジタル管理などの機能により、トレーサビリティと品質保証を強化します。また、BIOVIA Pipeline Pilotとの連携により、他システムのデータを取り込み、データ整合性を向上させることが可能です。

図6 BIOVIA主要製品の一覧
図6 BIOVIA主要製品の一覧

おわりに

製薬のプロセス全体を通じて扱うデータ量は非常に多く、アナログ管理ではデータ検索に時間を要したり、意図しないミスが起きたりします。これをデジタル化することで、生産性の向上に加え、社会的信頼性の向上や現場の働き方改革が期待できます。私たちは、BIOVIA製品のご導入を検討いただくデモや検証プロジェクトをご提供しています。革新的な研究開発の推進に向けて、ぜひBIOVIA製品をご検討ください。

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