人とシステム

季刊誌
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No.113 | リフレッシュ
パワー半導体デバイス入門
②さらに進化を続けるパワー半導体デバイス

パワー半導体デバイスは、電気機器を作動させるために欠かせない電源回路の受動部品としてコイルおよびコンデンサ(容量)と共に構成されています。新たな半導体材料の利用が進む中で、パワー半導体デバイスは、種類や素材によって性質が異なり、現代社会に欠かせないキーデバイスの一つとして身近なところから目に見えない場所まで広く活用されています。

※今日からモノ知りシリーズ「トコトンやさしいパワー半導体デバイスの本」(日刊工業新聞社刊 2024年2月9日発行)
著者:松田順一 様

半導体の基本的なしくみと製品の種類

半導体と金属・絶縁体との違い

絶縁体は電気を通しませんが、金属は電気をよく通します。半導体はその中間的な存在です。

電子が自由空間(真空中)を移動する場合、電子工ネルギーは連続になります。しかし、電子が絶縁体や半導体内部に閉じ込められると、電子エネルギーの存在できない範囲(禁止帯)ができるため、電子エネルギーは不連続になります。禁止帯よりエネルギーの低い側(価電子帯)では、電子は充満した状態になり、もう一つの高い側(伝導帯)では、電子は空の状態になります。

禁止帯のエネルギー幅(下図参照)をエネルギーギャップ、またはエネルギーバンドギャップと呼びます。エネルギー幅よりも大きな熱や光のエネルギーを与えると、正孔(キャリア:電荷を運ぶ粒子)を価電子帯に残して、電子は伝導帯に移動(遷移、励起)できます。電子は伝導帯内で移動でき、正孔は正孔の箇所に電子が順次入り込むことで実効的に価電子帯内で移動できます。これが半導体です。金属は禁止帯のない材料で、電気を通しやすくなります。絶縁体は、より大きなエネルギーギャップを持つ材料であり、価電子帯の電子は伝導帯にほとんど遷移できません。

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パワー半導体デバイスの種類

パワー半導体デバイスには、電子のみが流れるユニポーラ型のデバイスと、電子と正孔が流れるバイポーラ型デバイスがあります。バイポーラ型では、半導体をオフ状態に切り替えるターンオフ時に電子と正孔をデバイスからすべて除去しなければならず、時間(逆回復時間)が掛かります。ユニポーラ型は電子のみの除去なので、逆回復時間はほとんどありません。つまり、ユニポーラ型は高速で、バイポーラ型は低速ということになります。下図に、パワー半導体デバイスの種類と動作範囲を示します。

《ユニポーラ型とバイポーラ型の分類》

○ユニポーラ型

  • ショットキーバリアダイオード(パワーダイオード)
  • パワーMOSFET、GaN HEMT(パワートランジスタ)

○バイポーラ型

  • PN接合ダイオード、PINダイオード(パワーダイオード)
  • IGBT、パワーバイポーラトランジスタ
    (パワートランジスタ)
  • サイリスタ、GTO(パワーサイリスタ)
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新たな素材も登場して注目を集めるワイドギャップ半導体

成長するパワー半導体デバイスの市場

パワー半導体デバイスは、スイッチング電源回路の素子として各種電気機器に搭載されます。現状では、半導体材料として主にケイ素(Si)を用いています。Siデバイスは安価である特長を活かして、自動車、産業機器、一般家電分野(冷蔵庫、エアコン、電子レンジ等)等の分野で広く用いられています。

Siを使ったデバイス以外にも、より高耐圧で低消費電力を実現するために、ワイドギャップ半導体である炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)が使われ出しています。

これらは、エネルギーキャップがSiのものより大きな半導体材料であり、今後は使用割合が多くなっていくと考えられます。

それぞれのパワー半導体デバイスの種類や半導体材料の違いを見極めることで、より効率的に電気機器を作動させることができるようになります。

シミュレータを用いたデバイス設計

パワー半導体デバイスの開発では、試作を繰り返して所望のデバイス特性を得るように最適化をしていきます。そのため、通常であれば試作に1~2カ月程度かかります。

そこで、1回あたりの試作の完成度を上げ、試作回数を減らすことで、開発期間の短縮と開発コストの削減を図ります。そのために、試作前にプロセスシミュレータとデバイスシミュレータを統合したシミュレータであるTCAD(Technology Computer Aided Design)を用いて、デバイス構造を決めてデバイス特性を予測します。この予測に基づいて試作し、試作の完成度を上げています。

TCADを使うと、試作の完成度は確実に上がるので、TCADはパワー半導体デバイス開発に必須のツールになっています。

活躍の場を広げているワイドギャップ半導体

ワイドギャップ半導体は、Siよりも電力変換の効率が向上するものとして期待を集めています。

SiCデバイスは、高耐圧かつ大電流に適しているため、自動車(EV)、電車、データセンターのサーバ電源、産業機器、太陽光発電等の分野で置き換えが進んでいます。SiCは、Siデバイスを製造する既存のプロセス装置の多くを活用できることもメリットの一つです。

GaNデバイスは高速スイッチングが可能なので、小型化できる利点があり、情報通信機器(ACアダプタ、急速充電器、携帯電話基地局用等)の分野で採用が進むと期待されています。コンパクトで高出力を謳った、GaNを採用した充電器なども見受けられるようになりました。

新幹線をはじめ電車でも活躍

期待されるワイドギャップ半導体の一つSiCデバイスは、新幹線をはじめとする鉄道車両のパワーモジュールとしても利用されています。

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2号にわたって掲載した「パワー半導体デバイス入門」は今回で終了します。次号から新しいテーマでお届けいたします。お楽しみに。