九州工業大学 情報工学部 教授 工学博士 鈴木 裕 様 機械システム工学科 情報工学博士 是澤 宏之 様 |
略歴

情報工学部 教授
工学博士 鈴木 裕 様
1951年 生まれ 48歳 | |
1975年 3月 | 北海道大学 工学部 精密工学科 卒業 |
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1977年 3月 | 同大学 工学研究科 修了 |
1981年 3月 | 同大学 工学研究科 博士後期課程 修了 |
1981年 4月 | 豊橋技術科学大学 生産システム工学科 助手 |
1987年 4月 | 九州工業大学 工学部 機械工学科 助教授 |
1990年 4月 | 九州工業大学 情報工学部 機械システム工学科 助教授 |
1995年10月 | 同上 教授 |

情報工学部
機械システム工学科
情報工学博士 是澤 宏之 様
1967年 生まれ 31歳 | |
1990年 3月 | 九州工業大学 工学部 機械工学科 卒業 |
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1992年 3月 | 同大学 大学院工学研究科設計生産工学専攻博士前期課程 修了 |
1997年 3月 | 同大学 大学院情報工学研究科情報システム専攻博士後期課程修了 |
1997年 4月 | 同大学 情報工学部 機械システム工学科 教務職員 |
はじめに
金型の型面を効率良く、かつ高精度に加工するためのシステム開発が、当研究室のメインテーマでした。1982年に研究を始め、その後約15年間にわたり研究を継続しました。その間の主な成果としては、
(1)高効率荒取り機能の開発
(2)曲線補間機能の開発
(3)実時間CAM内蔵型CNCの開発
(4)多軸制御加工用CAMシステムの開発
(5)型面仕上げ用ヘール加工システムの開発
等があげられます。こうした研究を通じて金型加工の高速高精度化に多少なりとも貢献できたのではないかと考えています。これは、研究成果を必ず金型メーカの方に見ていただき、評価をもちかえってシステムに反映させることを繰り返してきた結果であると言えます。またその間、現在の研究テーマである型設計を始めるきっかけを得ることもできました。
金型型面の加工は製品の精度にかかわる重要な工程ですが、金型生産の全工程の一部にすぎません。型面のモデリング、型の構造部の設計と加工、さらには組立て、トライといった工程もあります。こうした金型の生産工程のうち、当時あまり研究テーマにとりあげられていなかったのが型設計でした。
型設計の程度により成形品の精度等も決まり、トライ数の低減による納期短縮の実現も可能になる等、重要な工程であるとの認識はありました。しかしながら、設計手順や種々の設計基準を得ることすら困難であったため、大学での研究として取り上げずらかったのも事実です。幸いにして、研究活動に対してたいへん協力的であった金型メーカがあり研究を始めることができました。
『成形品のCAEはいろいろと開発が進んでいるようだが、型屋から見た型構造のあり方、あるいはCAEの適用はあまりきかない』という指摘もたいへんな励みになりました。
現在は、射出成形金型を対象に、金型分割面の決定、冷却管の配置決定、エジェクタピンの配置決定といった問題に取り組んでいます。いずれも解析技術が基礎となっています。
その他にも、スライド構造の決定、離形構造の決定等考えられますし、また、これらの金型構造を統合して設計をすすめるためのシステム開発も必要になります。さらに対象とする金型の種類を変えれば新たなテーマを見出す可能性も十分あります。
型設計というテーマに取り組んでから5、6年しかたっていません。この間、優秀な研究スタッフならびに多くの企業からの援助のおかげで、研究成果が出始めました。実用レベルにはまだまだ達してはいませんが、指針は示せていると思います。
以下に、そのいくつかを紹介します。
金型分割面の設計
概要
金型は、固定型と可動型により構成され、各型の金型分割面を接し合わせることにより、金型内に空間をつくります。この空間は、成形中に、射出された溶融樹脂から高い成形圧力を受けます。
このため、成形圧力により金型が開かないよう、この圧力に対抗する十分な型締力を成形機から作用させる必要があります。作用させる型締力が低い場合、金型分割面は開く方向に変形し、これが過度に生じると金型分割面先端でバリと呼ばれる成形不良が現れます。
これは、成形中に型締力の値を高く設定することで解決できますが、型締力の増加は金型への力学的な負担もまた増加させ、型寿命などに大きな影響を与えます。これより、金型に負担を与えずバリの発生を低減可能とする金型分割面形状の設計が必要です。
金型分割面先端の変形


数値解析を援用して金型分割面先端の挙動を解析した結果、図1(a)に示すように、型締時には密着していた金型分割面先端(点Psおよび点Pm)は、図1(b)に示すように、成形圧力が作用することで、金型側面方向(X軸方向)および型締方向(Z軸方向)に変形し、間隙(dxおよびdz)が発生することを確認しています。
実際の金型設計における金型分割面の形状は、最も基本的かつ簡単な平面形状やインロウ合わせと呼ばれる形状など、さまざまです。一般的にこれらの形状は、成形品の形状や加工法によって、決定されます。このとき、金型分割面の形状の違いによって、金型分割面先端の間隙量は、大きく変化することも確認されています。
図2に、最も一般的な平面形状の金型分割面をもつ金型であるA1(従来型)を基準として、金型分割面の形状の違いにより発生する間隙量の変化を改善度として示します。
金型分割面に関して、A2およびA3はインロウ合わせとした金型であり、A4はテーパ構造としてこの角度(θ)を30度から90度まで変化させた金型です。A5およびA6は、従来型の大きさよりも型締方向および側面方向に大きくした金型です。なお、改善度とは、XおよびZ軸方向で発生する各間隙量に関して、1-I / C を計算した結果です。
ここで、Cは従来型(A1)およびI はそれ以外の金型(A2~A6)を意味しています。両軸方向ともに、この値が高いほど、間隙量は小さくなり、その最大値は1となります。これより、バリ発生の原因に直接関係すると予想される金型分割面先端のZ軸方向の間隙量は、金型分割面の形状によって、大幅に改善可能であることが確認できます。
なお、側面方向へ金型サイズを大きくしたA6では、バリ低減への効果が低くなったため、金型サイズの大型化は必ずしも間隙量の低減に寄与しないとも言えます。
金型分割面の最適化
前節の結果より、バリの発生を低減する適切な金型分割面の決定が重要になります。これを実現するための一手法として、遺伝的アルゴリズムの適用を試みました。
このアルゴリズムでは、金型分割面を表現する複数の遺伝子を生成し、各遺伝子を交叉・突然変異・淘汰させ、適切な金型分割面形状を表現する遺伝子が得られるまで、繰り返します。

改善度の推移と生成された金型分割面
図3に、金型分割面の最適化の過程における改善度の遷移を、前節と同一の従来型の間隙量を基準として用いて示します。解析を開始する第1世代では、従来型よりも大きな間隙量を示す金型分割面を意図的に設定したことで、Z軸方向の改善度は低くなっています。
遺伝的アルゴリズムによる最適化の過程で、世代を更新するにつれて、次第に改善度は上昇します。最適化を終了させた第30世代におけるXおよびZ軸方向の改善度は、ほぼ1の値となり、ほとんど間隙が発生していない金型分割面が得られたことが確認できます。
この金型分割面の形状は、テーパ構造とインロウ合わせの構造を組み合わせたような構造となっています。
冷却管の配置設計
概要
多くの成形不良の原因は、なんらかの形で金型表面の温度分布が関係しています。この温度分布は、金型内に配置された冷却回路の配置に直接的な影響を受けます。
成形性の向上を実現するため、従来より冷却回路の設計は非常に重要な金型設計の一つと考えられています。同時にこれは、生産性の向上を実現するためにも重要です。反面、冷却管設計は、3次元的に温度分布を考慮する必要性があることから、一般的には非常に困難な設計でもあります。
ここでは、冷却回路を自動的に配置する方法とこれを用いた解析例を示します。
概念および処理の流れ

実際の冷却管とモデル化された冷却管
この方法では、図4に示すように、冷却管とは複数の要素で構成された構造体として考えます。これらの要素は、金型の中を自由に移動可能な要素(冷却要素)として定義します。
この移動は、金型表面の温度分布を評価するために配置された要素(設計評価要素)によって影響を受けます。設計評価要素は、それぞれに、設計上の満足すべき温度として、目標温度が設定されており、この値と現状での温度を比較することにより、金型表面の温度分布の状態を評価します。
この結果を冷却要素に移動情報という形で与えることで、冷却要素の移動は駆動されます。冷却要素の移動によって、金型内部の温度分布は変化するため、数値解析により金型内の温度分布を再計算して求めます。以後、この処理をすべての設計評価要素の収束条件が満足されるまで、繰り返します。
解析例

設計評価要素と冷却要素の初期配置
図5に、2次元での解析例を示します。これは、断面に垂直な冷却管を配置した場合であり、冷却管の直径は、4mmです。冷媒の温度を一定と仮定して、金型内部の温度分布は数値解析により得ます。
なお、目標温度を280℃とし、すべての設計評価要素の温度が、280℃±5℃の間に存在するとき、収束条件を満足したとします。

図6は、最終配置と解析中の冷却要素の移動軌跡を示しています。冷却要素4(CE 4)は、一般的に熱が集中する可動型側のコア部分に、自動的に配置されたことを確認できます。

図7に、最終配置における金型内の温度分布の変化を示します。これより、冷却要素2(CE 2)は、成形品の冷却とまったく関係のない部分に配置されていることから、この解析例では、冷却に必要な冷却管は3本と考えることができます。
また、可動型側の成形品コーナ(点I)付近の設計評価要素は、上述の収束条件を満足できませんでした。これは、一般的に言われるように、点I付近の冷却の困難性を示したと考えられます。なお、この方法は、3次元の冷却管の配置にも容易に拡張可能です。このときの冷却管形状は、非直線的な形状となります。
Cu-Be合金配置の設計
概要
プラスチック射出成形金型では、不均一な冷却による成形品のヒケや変形などの成形不良の防止、成形サイクルの短縮を実現するため、熱伝導率の高い材質が使用されます。ここでは、Cu-Be合金材により実現します。金型内におけるこの配置位置の決定では、冷却過程における冷却状態の均一性の評価が重要となります。同時に、この評価を用いて、その最適な配置を検討します。
冷却均一性の評価と数値実験
金型キャビティ内に射出された樹脂の表面層における固化状態の均一性は、冷却後の成形品の形状変化に大きな影響を与えます。これは、樹脂表面の温度分布に大きく依存するため、そのバラツキの状態により成形品の冷却状態の均一性を評価します。
まず、樹脂の冷却過程における任意の時間τの表面温度分布のバラツキEτを求め、つぎに、全冷却過程でのEτのバラツキを計算します。その結果により得られる値(F)を、全冷却過程の冷却状態の均一性を総合的に評価する値とします。この評価値Fが小さいほど、冷却状態の均一性が良いことを意味します。

図8に金型と成形品の2次元解析モデルを示します。
成形品は箱形の断面形状とし、解析モデルは軸対称形状とします。成形品の内側(MNTS内)の熱が集中する部分をCu-Be合金を配置する領域とします。なお、温度分布は非定常熱伝導解析により求めます。
図9(a)に、12×12(mm)の正方形状のCu-Be合金を配置したケース(点線)と金型用鋼材のみのケース(実線)での、成形品の樹脂表面温度と評価値Fを示します。縦軸は温度、横軸は、図8の点Mを起点として、成形品の内側の面をMNO方向へ展開した距離です。
なお、冷却時間は、溶融樹脂の充填完了から型開きまでの55秒と設定し、図9(a)中の各時間は、冷却開始からの時間です。正方形状のCu-Be合金を配置したケースの評価値F(=3284.64)は、金型用鋼材のみのケースの評価値F(=3508.58)と比較して、小さな値を示しました。

図9(a)のハッチング部分を拡大したグラフを図9(b)に示します。これは、冷却開始から10秒後の樹脂表面の温度(区間MN)です。点Mから点Nの樹脂表面の温度の変化に関して、正方形状のCu-Be合金を配置したケースでは、金型用鋼材のみのケースと比較して、より一定温度を保持していることを確認できます。
この傾向は、ほとんどの冷却過程で見られたことから、この評価値を用いて、金型の冷却状態の評価が可能です。
Cu-Be合金配置の最適化

評価値Fを最小とすることで、金型内に配置するCu-Be合金の形状を最適化することができます。以下に、その手順を示します。
(1) Cu-Be合金の配置領域の初期状態は、通常の金型鋼材のみとします。配置領域に接する金型キャビティ表面上で、評価値Fを最小にする点を探索し、これをCu-Be合金の配置開始点とします。
(2) この点を起点として、Cu-Be合金は、配置領域において、その面積を評価値Fを小さくする方向に拡大します。
(3) 評価値Fが最小になったとき、最適なCu-Be合金の形状が得られたとします。
図10にCu-Be合金の形状を最適化する過程を示します。解析が進むにつれ、評価値Fは減少し、Cu-Be合金の形状が拡大します。図10(d)が、評価値Fを最小とするCu-Be合金の最適な形状です。
図9に、最適なCu-Be合金の形状を配置したケース(一点鎖線)における成形品の樹脂表面の温度変化を、先に示した2ケースと併せて示します。これより、Cu-Be合金の形状を最適化することで、先に示した2ケースと比較して、より一定の温度を保持できたことから、均一な温度分布を得られたことを確認できます。
エジェクタピンの配置設計
概要
射出成形金型から成形品を取り出す離型過程においては、一般的にエジェクタピンが用いられます。現状において、エジェクタピンの配置設計は主に設計者の経験やノウハウに依存します。このため、エジェクタピンの配置位置が不適切な場合や本数が少ない場合、成形品に塑性変形に基づく白化やワレなどが発生します。
これより、離型過程で成形不良が発生しないエジェクタピンの配置と本数の決定が重要となります。同時に、この設計には試行錯誤が伴うため、自動的な決定が望まれています。
エジェクタピン配置位置の評価
冷却によって成形品は収縮しますが、これと比較して、金型はほとんど変形しないため、成形品は金型によって拘束されます。これにより、成形品表面に外力として接触圧力と摩擦力が作用し、これらは成形品内部に応力やひずみを発生させます。離型過程では、エジェクタピンの突き出しとともに突き出し力が発生し、接触圧力と摩擦力を変化させるため、成形品内部の応力やひずみも変化します。
これより、エジェクタピンの突き出しが成形品の接触面に与える変位および力の変化を注目し、離型過程での外力によって成形品に作用する最大の仕事を外部仕事として評価関数に定義します。この値は、エジェクタピンの配置により異なり、評価基準は、評価関数の値を小さくすることとします。
エジェクタピン自動配置の流れ
エジェクタピン自動配置の流れを図11に示します。
(1) 離型方向に成形品を突き出し可能なすべての場所にエジェクタピンを初期配置します。
(2) 数値解析を用いて、成形品表面の変位と外力、および成形品内部の最大相当応力を調べます。
(3) 離型過程に成形品に作用する外部仕事の最大値を求めるために評価関数を計算します。
(4) 外部仕事を小さくするため、各エジェクタピンの位置を調節します。これは、調節関数により決定します。
(5) 設定した配置位置条件と拘束条件を満足したとき、エジェクタピン自動配置は終了します。このときの配置をもって、エジェクタピンの配置が形成されるとします。配置位置条件を満足しない場合、処理(6)へ進みます。あるいは、配置位置条件を満足するが拘束条件を満足しない場合、処理(7)へ進みます。なお、配置位置条件とは、評価関数の値が減少しなくなることを意味し、拘束条件はエジェクタピンの本数の減少を停止させる条件であり、設定した応力条件を満足することを意味します。
(6) 調節関数に基づいてピンの位置を調節し、その後、処理(2)に戻ります。
(7) 拘束条件に基づいてピンの本数を調節し、その後、処理(2)に戻ります。

エジェクタピンの自動配置例


図12に解析に使用する成形品と金型を示します。樹脂はABSを想定します。図13にはエジェクタピンの自動配置の結果を示します。まず、図13(a)に示すように、20個のエジェクタピンを初期配置します。図13(b)および(c)は、自動配置の過程で異なるエジェクタピンの本数が配置された結果を示しています。
図13(d)は、最終配置を示し、エジェクタピンの本数が最少になると同時に成形品の最大相当応力も降伏応力以下を実現しました。またエジェクタピンの本数が決定したときの配置位置条件を満足する適切なエジェクタピンの配置は、離型中の成形品の変形量を最小とすることも確認されました。
おわりに
これからの金型設計では、数値解析の積極的な援用に基づく設計がますます重要になると考えています。また、先に示した金型の各部分の設計の完成度をあげることも重要ではありますが、今後はこれらの設計システムをシームレスに結合可能な総合的な設計支援システムの開発も重要になると考えています。