株式会社ゼン様は、業界でもいち早く2次元、3次元CAD/CAMを導入され、形状のモデリングから加工データの作成まで、一貫した製作体制を整えられています。
試作加工製品の精密さはもとより、短納期、低コストを常に追求され、お客様の要望に柔軟に対応されています。
今回は、GRADE、MechanicalDesktop(以下、MDT)、hyperMILL導入の背景、今後の課題などを中心に、開発部 次長 秋元様、企画室 課長 吉田様にお話をお伺いしました。
事業内容について

当社は、試作加工製品(以下、試作品)として、樹脂、金属、板金などの試作全般を手がけています。
金型に移行する前に設計から出てきた図面をもとに、製品と同じものを試作品として1~2個から場合によっては数十個製作します。
削り加工で製作したり、貼合わせ加工で製作したり、いろいろな方法があります。その他には、金型製作も受けています。
工場は、江刺、取手にあり、裾野に事業所を設けています。営業所は山梨、長野、神奈川、静岡、埼玉、山形、江刺、東京にあります。
また、平成9年の12月、韓国に子会社として韓国ゼンを設立しました。
工場は、各拠点のお客様への対応をよりスピーディに行うため分散化していますが、本社では、新しい加工技術を常時研究できる体制を整えています。また、緊急物や追加加工の一部加工を行っています。
主に製作している試作品としては、カメラ、照明器具、電話機、掃除機、OA関係、業務用エアコンのダクト、オーディオ関係、自動車関係ではフォグランプ、ミラー、パワーウィンドウなどです。
試作品で一番大きいものは、フォークリフトで運ぶパレットで畳一枚分ぐらいのものから、小さいものは医療機器などで使う部品で、米粒ぐらいのものもあります。
当社は、早い時期から真空注型を手掛けています。
数が何十個にもなる試作品を手作業で製作するのは、時間と費用が相当かかります。真空注型は、ひとつの形状をマスターにして、シリコンゴムで型をとり、その型にウレタン樹脂を流し込んで作ります。簡易型なので、速く安くできます。

GRADE導入の背景
自動車は、角張っていたボディが丸みをおびてきて、それに伴いその他の部分も角を落とした丸い形状になってきましたので、3次元CADで作成する必要がでてきました。
今から6年前ですが、自動車のパワーウィンドウの部分を受注しましたが、3次元形状だったので当社では製作できませんでした。そこで外注に依頼しましたが、費用が高く、出来栄えも良くないなどの問題がでました。
そこで自社で製作したほうがいいのではないか、ということになり、3次元CADの導入に向けての検討を始めました。
検討を始めた平成5年当時は、3次元CADを使っている試作メーカは、ほとんどありませんでしたので、3次元CADを使っている金型メーカを調査することにしました。それと並行して、その当時販売されていた3次元CAD/CAMをいろいろと調査しました。
金型メーカからは、各システムの良いところ、悪いところ、いろいろ含めて教えてもらいましたので、総合的に判断して、GRADEを導入することにしました。
やはり、決め手というのは、金型メーカでGRADEの評判が良かったので、安心して使えるだろうということです。当時としては高い買い物でしたが、GRADEの機能は当社の希望に合ったものでした。
試作業界で、3次元モデルを製作できるメーカは、数えるほどでしたので、良いシステムを導入することでPR効果も考えました。このような検討の結果、平成5年にGRADE/CUBE-NCを導入しました。

GRADEでのモデリング

課長 吉田様
仕事の流れとしては、2次元図面から3次元モデルを作ります。3次元のモデリングさえできてしまえば、NCプログラムは、加工のことがわかれば比較的容易にできます。当然GRADEでは、3次元のモデリングをするというのが目的でした。
導入した当初は、GRADEで図面通りの面をどのように作成すればいいか分かりませんでした。
当社は、金型メーカのようにきちっとしたデータを作る必要はありませんので、もし作成できない面があれば、ある程度削って手仕上げで行うつもりでした。
導入して2ヶ月で、初めて掃除機を作りましたが、大変苦労しました。
しかし、そういう難しい形状ばかりしていたので、今ではGRADEのモデリングにも慣れ、難しい面も容易に作成できるようになりました。
GRADEは、かなり複雑な面でも作成できます。お客様の中には、持たれている3次元CADで、作成できない面があり、困っていらっしゃるところもあります。
最終的には面が作れなければソリッドにもできませんので、そういう部分をGRADEで作成しています。ですからお客様からいただくのは、製品の上下の大きな表面のCADデータだけで、そこから細かい複雑な部分はGRADEで作成して、さらにリブ、ボスを付けるという手順です。
GRADEを導入して2年後位からは、3次元の形状が継続的に入ってくるようになりました。
お客様からは、3次元の形状と2.5次元の形状の抱き合わせでできないかという要望がでてきていました。3次元の仕事は、全体の10%程度ですが、3次元の形状ができることで、2.5次元の形状物も受注に結びつくようになりました。
GRADEを導入していなければ、3次元の試作品を作る時間が、今よりもっとかかっていたと思います。
MDTとhyperMILL導入の背景
3次元の形状でも、GRADEを使わないとできないものと、本当にちょっとした3次元なので、GRADEほどの機能は必要ないというものがあります。そこでコスト的なことも考えて、簡単に3次元の形状が作れるソフトを検討するために、Windows上で動いて、誰でも使いやすい3次元CADをいろいろ調査しました。
当然加工しますので、3次元のモデリングができてCAMとしても使えるソフトが条件でした。
モデリングの機能は十分ですが、CAMは全く別のソフトを起動しなければいけないなど、面倒なソフトもありました。MDTは、CAMとしてhyperMILLが使える環境にあり、また、GRADE/CUBE-NCを導入したHZSも扱っているということもあって、平成10年の12月にMDTとhyperMILLを導入することにしました。
GRADEとMDT、hyperMILL
◆ MDT
まだ、MDTは実際の作業に使いはじめて間もないので、持っている機能を十分使いこなしているとは言えませんが、データ量が10MB以上のモデルをMDTで動かそうとするとかなり遅くなりますので、複雑な形状はGRADEで、データ量の少ない比較的簡単な形状のものはMDTで作るように分けています。また、MDTでどうしてもできない部分はGRADEで作り、その部分だけ渡すということもしています。
◆ hyperMILL
NCデータの作成は、GRADEの操作にだいぶ慣れていましたので、hyperMILLをうまくコントロールしないといけないところはあります。しかし、hyperMILLは、かなり効率的なパスを作成できます。ひとつの形状でも、GRADEとhyperMILLとで分けてパスを作成することもあります。
CADでモデリングしたら、インターネットで江刺工場に送って向こうで加工しています。
◆ GRADE


金型の図面で、基本形状が決まっているなど精度を求められる場合はGRADEで作ります。セットもので上の形状は当社で作り、下の形状は別のメーカで作ることもありますので、高い精度を求められます。
◆ 効果
GRADEの稼働率を考えると、コスト的な面で投資した金額の回収を求めるのは難しいですが、GRADEを6年前に導入して苦労して3次元の形状を作ってきた時代があるというのが当社の財産です。たとえば、今からGRADEを導入しても戦力になるかというと全然話しが違ってきます。そういう意味では、GRADEがあったからこそMDT、hyperMILLの導入にもつながっています。
試作品の作成
金型では、テーパが重要ですが、試作品の場合は機械で加工しますので、テーパがないほうが簡単に作成できます。デザインに関係しているテーパは取れませんが、内側のテーパは取ることも多いです。
寸法精度や形状を要求される場合は、テーパを付けて一体で加工します。加工時間はかかりますが、精度は出ます。携帯電話のケースの内部などは、細かすぎて貼り合わせできないので、通常は一体で作ります。
実際の製品により近づけるために、重さや肉厚の指示があるものもあります。また、製品と同じ材質で製作し、塗装等を行うこともあります。
3次元形状がしっかりできていれば1週間程で試作品を納入することもできます。
3次元CADデータ
◆ 3次元とは
お客様もCADを導入されていますので、遠隔地であってもペーパレスでデータを通信で送ってもらいます。今では受注の大半は、CADデータを提供していただけるようになりました。
しかし、まだお客様が3次元の面を作成して3次元CADデータでいただける場合は少ないです。
設計をソリッドでされて3次元CADデータをいただきますが、実際に作るのは2.5次元形状だという場合も多いです。3次元データといわれる中で、3次元形状の物と2次元形状だが3次元データから製作依頼される場合の2通りの内容がありますので、お話をいただいたときに十分な確認が必要です。
2次元や2.5次元の試作品で3次元CADデータをいただく場合は、3次元CADデータを2次元のデータにする必要がありますので、仕事の手順が異なります。発注時に2次元図面およびデータがあり、3次元のモデリングデータをいただけると一番助かります。
◆ 金型で使える3次元CADデータ
作成した3次元CADデータは、IGESデータで送ってお客様に確認していただいています。やはり、金型に使いたいから送ってほしいという場合もあります。複雑な面で、再度金型メーカで作るのは時間がかかるということで、3次元CADデータをお送りしたこともあります。そのため、今では金型を意識した3次元CADデータを作成するようになりました。
◆ 技術力
試作品でも3次元の形状になると、信頼感がなければお客様も出せないと思います。
信頼感を得るためには、ある程度の時間と技術力が必要です。2.5次元の形状と違って3次元の形状は形状に間違いがあると、すぐに作り替えできません。加工時間はもとより、修正の時間、NCデータの作成時間が全く無駄な時間になってしまいます。
失敗が許されないので、かなり大きなプレッシャーはありますが、今では、定番の試作品を依頼されるようになっています。
今後の課題・取り組み
◆ 人材育成
CADに関しては、戦力アップを目指しています。誰でも使えるようにしたいのですが、GRADEとMDTの操作方法が全く違いますので、どちらも使えるように育成するのには時間がかかります。
若い人は、Windowsの世界には慣れていて、UNIXのGRADEには抵抗があるようです。2次元ができれば3次元もできるというものではないので、これもセンスの問題です。
設備を整えることは、お金をかければできますが、人材育成となると難しいです。
現在、3次元CADを担当しているのは3人です。今は、MDTを早く使いこなすように、今携わっている人が修得しながら、横に広げていこうと考えています。各自が専門分野を持ちながら、2次元、3次元、NCプログラムについて、ある程度までは何でもできる人材の育成をはじめています。
◆ 光造形
光造形品もお受けしておりますが、現在は社内でできません。光造形も樹脂の種類も多くなり、精度もよくなってきていますので、常に技術動向は調査しています。
小さい形状で切削不可能であれば、ソリッドでモデリングして光造形で作ったほうが速いものもあります。
将来、必要があれば設備の導入も検討したいと考えています。
HZSへの要望
バージョンアップ時期や新しい機能の情報も必要ですが、既存の機能の事例集みたいな資料があれば、いいと思います。
おわりに
いろいろなお話をお伺いし、試作加工製品がどのような工程で作成され、より製品に近づける努力を常にされているかがわかり大変勉強になりました。
大変お忙しいところ、貴重な時間をさいてお話を聞かせていただき、ありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます。
会社プロフィール


株式会社 ゼン
本社 | 東京都昭和市昭和町4-1-20 |
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創立 | 昭和48年5月 |
従業員 | 100名 |
資本金 | 資本金 :4,500万円/授権資本18,000万円 |
売上げ高 | 10億円(平成10年度) |
営業品目 | 工業製品の試作(デザインモデル・ワーキングモデル)及びサンプルモデルなどの企画開発品の製作、特注品の少量生産、金型及び成型・組立て、自社製品(小型ポンプ及び周辺機器)の開発製造。 |




