人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
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No.17 | お客様事例
金型設計にIronCADを利用する

立松モールド工業株式会社様は、ソリッド設計への取り組みをいち早く模索され、イントラネットの構築やインターネットの技術をCADに利用するという発想で、金型メーカとしての3次元設計への取り組みを始められています。今回は、IronCAD導入の背景、3次元設計への取り組み、今後の課題などを中心に、技術部生産管理グループ・リーダー 俵菊生様、技術部生産管理 久世純様にお話をお伺いしました。

事業概要について

人物写真
技術部生産管理
グループ・リーダー
俵 菊生 様

当社は、自動車内外装部品の大型射出成形用金型の設計、製作をしていまして、特にインパネ、バンパー、ドアトリムといった大物ばかりを作っています。その中でインパネは、大型というだけではなく形状が複雑なため、作られる会社は少ないと思いますが、当社の場合はインパネの数がかなり多く、月に4~5本の単位で製作しています。

4年前からインパネだけを単体で作るのではなく、インパネに付属する部品もセットで受注しています。これにより、トータル品質保証、納期保証、コストメリットということをお客様にご提供しています。

導入の背景

既存のCADシステムを設計に利用できるようになるまでには、修得することがたくさんあり、かなりの時間がかかります。簡単な部品図を描くだけでしたら、数ヶ月でできますが、実際に金型設計をしていくとなると難しいと思います。今後、2次元設計から3次元設計に切り替えなければいけないので、ただでさえ複雑な操作がより一層複雑になります。

今の設計者にとって3次元で設計するということは、プラスαの負担になる仕事になっています。CADの操作性がデメリットになっているので、なかなか3次元に取り組めず、メリットも出ないという悪循環です。そこで、まずCADのオペレーションでの負荷を減らすことが、3次元設計に取り組む第一歩だと考え、簡単なオペレーションのCADを検討していました。そのようなとき、テクノピアや設計製造ソリューション展でIronCADを見ることができ、ハンドルを引っ張ったりしながら形状を作成するオペレーションに、既存のCADにはない可能性と期待感を持ちました。それで、まずは借りて使ってみようということでワークショップに参加したのが始まりです。

操作画面

1日半のワークショップでは、触りだけを教わればいいと思っていましたが、IronCADのほとんどの操作を覚えることができたので、会社に戻ってすぐに実践投入することになりました。いきなり3次元設計をするのは無理なので、鋳造用のベース部品を作ることにしました。既存のCADを使うと、キャビ・コア両方の3次元モデルを作るのに各50時間ほどかかっていたのが、IronCADを使うと約1/3の各15時間に短縮できました。

最初からIronCADは、3次元の自由曲面が得意ではないことを知っていましたので、割り切ってそこを捨てても効果が出せる部分があり、価格も安いので導入しても損はしないということが分かりました。それと、いろいろな試行錯誤をしながら、IronCADが3次元設計の足ががりになるのではという期待感を持ちましたので、99年10月に2ライセンス導入しました。

現在の効果

会社風景

IronCADを導入してから自由曲面の少ない分野に限って、実践の仕事で5~6ケース作っています。いずれも今まで2~3日かかっていた仕事が、IronCADだと約半日で終わってしまいました。これは3次元設計という使い方ではなく、設計で2次元的に描いたものを3次元データにして現場に供給するということです。午前中に設計が完了したとすると、午後にはIronCADで3次元のモデリングが終了して、帰る前にはデータのグループに引渡しができるというテンポで流れた仕事がいくつかありました。設計にも余裕が持てますし、図面さえできれば半日待つことでデータが届くという安心感がありました。毎日定期的にこの仕事があるわけではありませんが、月に2~3ケースはあり、このことだけでもIronCADは大変活躍しています。

3次元設計について

■ユニットの標準化

まず、3次元設計に入る前にユニットの標準化を進めました。ピン、コア、レールなど部品単体の標準化は行っていましたが、部品を単品で登録しても選択や配置に時間がかかります。ユニット単位で配置していけば効率もよく、3次元設計により近づくのではないかと考えました。そこで、個々のユニットの仕様をまとめてからユニット標準部品表や3次元データを作り、設計から部品の手配、加工から組立までの全工程をユニット単位で考えることにしました。

ユニット標準部品表
ユニット標準部品表
固定スライド
固定スライド
可動スライド
可動スライド
傾斜スライド
傾斜スライド
ユニット部品データ

まずは、部品の手配の見直しです。これまで設計で単品の部品図を描き、ピン表を書いて手配していましたので、これをユニット標準部品表に置き替えて、手配できるように今年に入ってから始めたところです。

これで、手配のルートがある程度固まってきますと、設計はユニット標準部品表を一枚出せば、単純にすべての部品の手配が完了することになります。ユニットが2つ必要であれば、2セットと記入するだけでいいのです。今までは、ある部品が2個だったらレールは4個ということを計算して部品表にまとめていました。単純にユニットで発注しようとすると、標準で収まらない部品もありますが、準標準部品であればオプションを記入したり、単体設計の部品であれば、規格外オプションとして記入しようということにしています。標準を外れることがあっても、ユニット標準部品表1枚ですべてを解決したいという発想で作りました。

まず、この思想を全社的に定着させて、次のステップでIronCADを使って標準のユニットの3次元データを蓄えます。200種類のユニットを標準化する予定です。将来、ユニットを配置するだけで、部品表が自動的に生成され、そのまま手配に流れるということができればと考えています。実際、IronCADで何種類かのユニットを登録して、そのユニットを配置し、使うところまで試している段階で、うまく利用できそうな感触です。

■ユニット部品を利用した構想

一番の難問はサーフェイスの扱いです。製品部分も型構造部も完璧なソリッドにして、ソリッドでの3次元設計をしたいのですが、製品部分のサーフェイスのソリッド化が難航しています。そこで、金型の緻密な設計をするのではなく、構想レベルだと割り切って使うという打開策を考えました。お客様からいただいたサーフェイスをそのままIronCADに取り込んで配置し、機構の検討ができないか試してみたら結構使えることが分かりました。

設計者は、2次元的な図を描きますが、頭の中は3次元で考えていますので、そのイメージが3次元の絵となって画面上に表示できればいいのです。

ユニット部品を利用した構想
ユニット部品を利用した構想

■インターフェイス

ユニットが揃えば、後はそのユニットを使うときのインターフェイスの問題です。使う人にユニットデータをどのように提供するかというと、やはりイントラネットの利用を考えました。インターネットのショッピングページのように、たとえば欲しいPCを選ぶと合計金額が表示されるなどと同じ発想です。

設計者が、これから使う標準ユニットをイントラネットのリストからクリックして、ボタンを押すと選んだユニットが自動的にIronCADのカタログに入り、そのカタログからユニットを選び配置していくということです。仕組みとしては、IISやVBを使ってデータを設計者のPCにダウンロードしてくるように作れば、非常に簡単にできるのではないかと思います。データをPCにダウンロードしてもCAD側で使う仕組みを作るのは大変なことですが、そういったことも、IronCADのインターフェイスと相まって簡単にできるのです。

イントラネットの画面などは、HTMLで使いやすいように作れますので、本当に単純な仕組みで簡単にできると思っています。

■可能性

まだ、IronCADを設計に実践投入していないので、具体的な効果をお話できないのですが、IronCADによって、今まで見通しがつかなかった3次元設計のある部分に可能性が見えてきました。それから、部分的な部品に関しては、かなり利用できる範疇が多く、既存のCADよりはかなり可能性が高いということは言えます。

今後いつまでもIronCADは、自由曲面が不得意というわけではないでしょうから、自由曲面の機能がいつ頃どのようになるかが当社のキーになってきます。

仕組み作り

人物写真
技術部生産管理
久世 純 様

大規模な自動車メーカさんであれば、開発の専門部隊で、3次元設計をするための仕組みを作られますが、金型メーカというのは規模が小さいので、当社では、2~3人の開発スタッフがいますが開発専任ではなく開発と実務を兼ねています。そのなかで、より簡単に3元設計を実現させるには、3次元設計をするための思想とオペレーションやカスタマイズが簡単なCADを組み合わせる仕組みを考えることが、非常に重要だと思います。

また、イントラネットを構築することも技術的には、それほど難しくはないのですが、インターネット専門の方はCADを知らないわけですから、当然この技術がCADでどう使えるのかを考えもしないと思います。そういう意味では面白い試みをしているのではないでしょうか。

現在、イントラネットのデータベースを1年半かけて作ってきて、PDMの仕組みぐらいのレベルには近づきつつあります。

電子掲示板のような仕組みも作りまして、工程の進捗管理などもイントラネットの仕組みの中に入れています。判子を押したり、×を入れたり、工程の組替えもホワイトボードに書くように線を引いてできますので、現場のPC初心者でも簡単に使えています。市販のものを組み合わせてイントラネットのプラットホームに入れるだけです。

今年に入ってから、現場のマネージャー、リーダクラスの方に使ってもらい評判が良いので、やっとイントラネットの運用が社内的に認知され始めてきたというところです。

図面について

■図面の内容

今は畳大の大きさにすべての情報を詰め込んだ図面を1枚描いています。この図面は、複雑で熟練しないと分からないでしょうし、金型業界でも各社独自のルールがあるので見ても分かりません。

この図面をデータの部署、機械工程の部署も利用します。機械工程でも切削、放電、電極加工もあります。それから仕上げの組み立てなどの工程でもこの図面を利用しています。
どれだけの情報がどの部署に必要なのかというと、機械工程であれば、機械加工をするところだけ欲しいので、今は各担当者が自分に必要な情報を図面から読み取っています。そこで、各工程で必要な部分だけの図面にすると、図面の枚数としては増えるかもしれませんが、見やすく分かりやすい図面、目的に応じた図面になります。

全ての情報を入れた図面
全ての情報を入れた図面

■図面化

図面を作るときもIronCADの図面機能を使っています。既存のCADで2次元図面を描くには、読み取るまでに熟練が必要になり、三面図、断面図を描く作業も苦労していました。到底アイソメ図は配置できません。これが、IronCADですと3~15分ぐらいで、三面図、断面図、アイソメ図の図の形を配置できます。ただ、IronCADには図面機能が足りないということと、図面の描き方自体社内のルールがあるので、既存のCADにそのまま図のデータを渡して寸法を記入しています。

IronCADからの図面化 IronCADからの図面化
IronCADからの図面化

今後の取り組み

■CAEへの取り組み

今後CAEなどにも取り組んでいこうと考えています。たとえば、CAEの解析結果を何パターンか入れて、解析結果のアニメーションやトライアルの結果などの情報を入れて、対比して見れるようにしたいです。

■CADとのリンク

CADの標準図形登録、標準書もイントラネットに全部入れていますので、部品表もそこから見れます。このプラットホームをイントラネット上に作ることができたので、次のステップは、CADの機能とどのようにリンクさせるか、標準図形をどのように使えばいいか、ということを今年の課題として取り組んでいこうと考えています。

■NCデータの運用

今までは、NCデータはサーバに入れて、プロセスシートは紙で現場の担当者に渡していましたので、データと絵が別々でした。これをまとめようということで、Excelでプロセスシートを作り、そこにNCデータを埋め込んで、このExcelデータを送ると全ての情報が揃うように考えています。Excel内に配置したボタンを押すとNCデータが展開し、別のボタンを押すと編集できたりシミュレーションが動くようになっていて、NC描画ソフトを内臓しているPCで使います。これから実践しようと準備をしているところです。

■その他の利用

IronCADは、冶工具類の設計にも使っていきたいと考えています。その他にも、工場の機械の設置場所などで、たとえば機械のストロークを動かして、人が通れるスペースがあるかなどを検討するために、工場のレイアウトを3次元的に作りたいという思いもあります。金型設計以外に使える部分が、周りにたくさんありますので、今後いろいろな場面でIronCADを使っていきたいと考えています。

HZSに期待するところ

HZSは、GRADEを販売している会社だと思っていましたが、この前、HZSの組織資料を見せていただいて、金型の事業部やソリューションの事業部があり、いろいろな分野に分かれていて、いい意味で仕切りの低い会社ではないかと思いました。特別な仕組みを作るのではなくて、いろいろな分野の人がそれぞれの技術を持ち寄って、本当に当たり前のことが簡単にできる仕組みを提案していただきたいと思います。

我々の知っている範疇で、ここまで構築してきましたので、コンピュータベンダーとしてもっと広い枠で提案していただけることを期待しています。

おわりに

身近な仕組みでやりたいことを実現させるという発想だというお話や実際に運用しているイントラネットも見せていただきましたが、大変勉強になりました。市販のものでも組み合わせてうまく使う技術も必要ですので、いろいろ試行錯誤された結果だと思います。大変お忙しいところ、貴重な時間をさいてお話を聞かせていただき、ありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます。

会社プロフィール

本社
本社

立松モールド工業株式会社

本社 愛知県稲沢市奥田大沢町27
創業 1949年(昭和24年)
資本金 9,100万(98/10現在)
従業員 200名
売上げ高 65億円(98/10現在)
主な営業品目 自動車用大型射出成形用金型の設計/製作
インパネ
インパネ
ドアトリム
ドアトリム
フロントバンパー
フロントバンパー
インパネとセット部品
インパネとセット部品